小さい頃から大きな夢があったわけではないけれど、世間体ばかりを気にする親の言いなりになる人生だけは嫌だった。

長所と呼べるものも少ないけれど、唯一体力と剣術だけは昔から自信があったから、上京してすぐ男だらけの職場に飛び込んだ。

そこでなんやかんや生活すること早二年。

今は一番隊隊長補佐として、大変だけどお給料はその分貰えるしそれなりに安定した生活を送っていたのだが。


「ついにきた…」


真選組にきて丁度二度目の誕生日当時に、母から送られてきたお見合い写真に絶望した。

若いうちに結婚し、子を産み育てる。
それが母の願い。上京を許す条件として二年以内にこっちでいい人を見つけて母に紹介するという約束をした。

勿論忘れてたわけじゃない。ただ、毎日厳しい稽古の中、隊長にはコキ使われるし局長のストーカー行為を止めるのにも忙しいしでなんやかんや日々あっという間に過ぎてゆき、とても恋愛してる時間なんてなかった。

なーんて、母に言っても全部言い訳になってしまう。


一緒に添えられた手紙には『なまえが相手を連れてこないから今後お見合い相手と一緒に江戸に行く』と書かれていた。そう遠くない日付と共に。


どうしたもんかと頭を悩ませいると部屋の襖が盛大な音を立てて開かれた。


「いつまで呑気に昼休憩とってるつもりでィ、早く巡回行けって俺が土方に怒られたじゃねーか」

「た、隊長!入る時は声かけてくださいよ!」

「かけやしたぜ。昨日は」

「毎回かけてくださいっ」

「へいへい。つーか」


じっと、隊長の視線が畳に広げられたお見合い写真へ。
突然入ってくるから全く隠しきれず。
また隊長の暇つぶしのネタにされてしまうと最早ため息もでなかった。


「男と禄に手も繋いだことねーやつが、急に階段飛ばしすぎだろィ。どーいう風の吹き回しでさァ」

「いや、流石に手はあります…って違う。私だってしたくないですよ!でも…仕方ないんです。そういう親だから」

「ちょっと貸しなせェ」


畳に胡座をかいて、広げていたお見合い写真を手に取った隊長。
母が見つけてきただけあって、私の相手にしてはなかなかの家柄のようだったが、隊長はゴミでも見るかのような眼差を向け、すぐに写真を畳に放り投げた。


「金持ってるにしても、毎日俺の顔見てんのによくこんな奴と見合いする気になりやしたね」

「羨ましいくらいの自信だな!会って適当な理由つけて断りますよ。私だって結婚したいわけじゃないし」

「そー簡単に諦めてくれるんですかィ?わざわざ田舎から江戸までくるような親が」


母からの手紙に軽く目を通した隊長の言葉が正論すぎて何も言えない。
思わず押し黙ると隊長の口角がニッと釣り上がりなんだか嫌な予感しかしなかった。


「用はこいつに負けないくらいの申し分ない相手がいりゃあ母親も納得して帰るつーわけだろィ」

「まあ…結論はそうなんですけどね。その相手がいないから困ってるんです」


一瞬、お金積んで万事屋にでも依頼しようかと思ったが母が銀さんを見てやめとけと言う前に私がやめといた方がいいと思ったので。
忙しい副長に頼むのも申し訳ないし、局長はストーカーだしな。


「目の前にこんないー男がいるだろィ」

「え、どこにですか?」

「その目ん玉は飾りか、よく見なせェ」


頭を掴まれ無理矢理隊長と目線が合うように首を向かされた。
「冗談ですよね?」と笑うと「大マジでさァ」と口を動かした沖田隊長に背中に冷汗がつたうのがわかった。


「この貸しは高くつきやすぜ」

「待って待って。まだ決まってないです。それって隊長を恋人として紹介しろってことですか?」

「お前の母親だってこの顔みりゃ文句ないだろィ」

「だからどんだけ自分の顔に自信あるんですか!」

「あと、一応公務員でさァ」

「どちらかっていうとそっちの方を押してほしいです」


確かに沖田隊長とは年も近いけど。
今までそーいう雰囲気になったこともないし、いきなりそんなこと言われても。
かと言って今から婚活アプリに登録しても間に合わないし。
確かにここは隊長に頼むのが一番手っ取り早い。

でもでもでも、こんな有難い話に心から乗り切れないのは、


「大船に乗ったつもりで任せときなせェ」

「ペーパークラフト並みの船ですけどね…」


言うまでもなく、相手があの沖田隊長だからである。

露草

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