「いいですか?隊長はただ、隣にいてくれればいいです。あとは私がなんとかしますんで」
「隣にいてくれればいいなんて、照れちまいまさァ」
「…面倒なんで、もうツッコまないでもいいですか」
顔合わせ当時。
私服姿の沖田隊長と、久々に女の子らしい着物を着て指定された料亭を目指す。
側から見たらちゃんと恋人同士に見えてるだろうか。色々不安もあるが…というか最早不安しかないがなんとか今日一日乗り切るしかない。
「なに言ってんでさァ。こうやって甘い雰囲気出さねーとすぐバレちまうだろィ」
「甘い雰囲気…というか隊長が言うとなんか腹たちます」
「隊長じゃなくて総悟」
「はい?」
「バレてもいーなら強制はしやせんけど?」
いつもの感じでニッと口角を上げた隊長に徐に手を握られて、じわじわ自分の顔が熱くなるのがわかった。
というかなんで隊長はこんなに乗り気なんだ!
協力してるというか私の反応を見て遊んでるようにしか見えないんだけど。
「初すぎまさァ」
「ち、違いますよ!上司を下の名前で呼ぶことに抵抗があるだけですっ」
「かわいくね」
なんて会話をしてたらあっという間に料亭についた。普通の生活してたらなかなか足を踏み入れる機会はなさそうな高そうなお店だ。
無意識に背筋が伸びる私とは裏腹、牛丼屋に入るくらいの感覚で足を踏み入れる隊長。…緊張感ないなあ。
女将さんに案内された部屋には二年ぶりに会う母の姿と写真で見た通りの男性がいた。
「なまえそちらの方は?」
隊長の姿を見た途端強張った母の顔。
なんとなく予想はしてたけど、結局私がいい人を見つけたって自分の決めた相手と結婚してほしいのだろう。
私の方が一瞬たじろいでしまったが沖田隊長は見たこともないくらいの爽やかな笑顔を浮かべ、
「なまえさんの婚約者です。近々結婚するんですよ、僕たち」
「け、結婚!?」
思わず私が声を上げてしまった。
打ち合わせした話と違う!恋人同士じゃなかったっけ!?と慌てて隊長の袖を引くと爽やか笑顔のままで逆に怖かった。
「真選組一番隊隊長の沖田総悟です。なまえさんには補佐をしていただいて仕事でもお世話になってます」
「まあ…真選組の方だったのね…」
「僕も存じ上げてますよ、真選組の噂は「色々」聞いてますから」
お見合い相手の方も爽やかだが何処か含みのある笑顔を浮かべ。
とりあえず向かい合うように座ったがもうすでに帰りたかった。
「田中です。お見合い写真を見てなまえさんに会うの楽しみにしてたのですが…お相手がいたなんて残念です」
「田中さんはうちの方じゃ有名なお家柄なのよ?沖田さんご出身は?」
「武州です」
「まあ…」
「ちょ、お母さん…!」
やっぱりそう簡単には諦めてくれないようで。
あんなに自信のあった沖田さんの顔面も母にはなにも効いてないし。
失礼な母の対応にも隊長は笑顔を崩さないでいてくれてるが流石に申し訳ない。
「けど沖田さんと婚約したらこっちには戻ってこれないんでしょう?お母さんは子供ができたらやっぱり側にいたいし…田中さんなら、稼ぎもあるから働かなくてもいいのよ?」
「でも私、仕事辞めたくないから…好きなの。今の生活」
「じゃあ沖田さんのことは?」
「え?」
「沖田さんの、どういうところに惹かれたんですか?」
突然口を開いた田中さんに思わず目が点になる。
沖田隊長の、好きなとこ。
巡回中に仕事サボって団子屋行って、迎えに行けばお前の奢りなと言われるし。
昼になればあれが食べたいこれが食べたい我儘放題だし縁側で寝てばっかりだし書類整理は全部私に回してくるしえーっと…
完全にフリーズした私の足を机の下からつねってきた隊長に思わず乾いた笑いが出た。
「本当に好きなの?沖田さんのこと。お見合い断る為に嘘ついてるんじゃないの?」
「そんなわけ…!」
「だったらなんなんでさァ」
なんとか誤魔化さなきゃと咄嗟に口を開いたら沖田隊長が不気味な笑顔をやめて気づいたらいつもの感じに戻っていた。
突然変わった声色に母の眉間に深く皺が寄る。
「そちらの田中さんだって、なまえに心底惚れてるってわけじゃねーだろィ」
「確かに僕はなまえさんのことまだ知らないけど、僕は子供がほしいんです。それに何一つ不自由させない自信があります」
「子供が欲しいだけならなまえじゃなくてもいいだろィ。見立て通り俺たちは近々結婚する予定はねェ」
「やっぱり…」
「けど、俺はこいつに惚れてまさァ。つーわけでそのうち必ず嫁にもらう予定なんで」
回ってきた腕に抱き寄せられ、隊長の胸に顔を埋めたまま固まった。
この場を凌ぐ為の隊長なりの嘘なのだろうけど、あまりの事態に動けなかった。けどそれはお母さん達も同じらしく沖田隊長の言葉に呆然としてるうちに隊長は「帰りやすぜ」と私の手を引いた。
露草
前 もどる 次