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人間誤ちを犯してしまう事は誰にだってある。問題なのはその誤ちを犯してしまった後それをどう対処するか、なのだけど。
時にはもう取り返しのつかないどうしようもない事もあると、この歳になって初めて知った…かも。


「………うそ。」

それはいつもの朝だった。
鼻につく濃いお酒の匂いと激しい頭痛で目が覚めた。
目を開けて一番に視界に映ったのは見慣れない天井。
見れば私は高級感漂う見知らぬ部屋のベッドの上にいて、ここが自分の家ではないことは明らか。
そして痛む頭を抑えながらゆっくり上半身を起こした時、もぞもぞと横で何かが動いた。
まさか、不安が頭をよぎり恐る恐る布団をはいでみれば、そこには見知った男が気持ち良さそうに寝息をたてていたのだ。

「お、沖田……く、ん」

なぜ彼が私の横で寝ているのだ。しかも服を着てない。
そしてよく見れば私もキャミソール一枚だった。

「…………」

………いや、待て待て待て。まだナニかがあったと決めつけるには早い。
まずは冷静になってタイムマシンを探そう、坂田さんがよくやってるじゃないか、自動販売機に頭を突っ込んで……ってそうじゃなくて。
とりあえずはいでしまった布団を再び沖田くんに被せて見なかったことに。滝のように流れ出した冷汗とは裏腹、すやすや気持ち良さそうな寝息が聞こえる。

今すぐこの場から逃げ出してしまいたい衝動を抑えながらまだ眠っているであろう脳みそを私は必死にフル回転させた。

昨日は確か、仕事終わりにそのまま沖田くんと居酒屋に二人で飲みに行った。
それでお互い日頃から溜まってた仕事のストレスやら上司の愚痴やらを肴にお酒を飲みまくって、それから……それから?………ダメだ思い出せない、肝心なところの記憶がぶっ飛んでる。
というか頭が痛すぎてもうこれ以上なにも考えられん。完全なる二日酔いだ。

………私は酔った勢いで同じ会社の人と、しかも今まで可愛いがってきた後輩、沖田くんと一線を越えてしまったのだろうか。
その真相を全て知っているのは隣で呑気に寝息をたてている彼だけで。
だけど今の私には沖田くんを起こして真相を確かめる勇気もなくて。
一旦落ち着いて深呼吸した後、とりあえずまずは服を着ようと思いベッドから出ようとしたその時、後ろから腰をぐいっと強い力で引かれた。

「わっ、」

小さく声をあげ私はバランスを崩し背中からベッドに倒れこむ。
そして、

「おはようごぜェやす、なまえせんぱい」

耳元で沖田くんの声が聞こえた。

「おおおおおおきた、くん、」

「どもりすぎですぜ、せんぱい」

沖田くんが口を開けばそれと一緒に吐息が耳を掠めた。
いつの間に起きたんだろう。
しかもまだ寝ぼけてるのか心なしか沖田くんの声がいつもより甘ったるい気がする。こんな沖田くん、知らないんだけど。

「先輩起きるの早いでさァ、俺まだ眠い」

「い、いやっあの……たまたま目が覚めた、から」

「まだ日も登ってやせんぜ、一緒にもう一眠りしやしょう」

そう言ってぐっと腰を引かれた。
素肌と素肌が密着して触れた部分だけに異様に熱が集中する。
というかどういう状況これ……!

「ちょ、お、沖田くんっ」

私の腰にしっかりと回っている沖田くんの腕を掴む。
引き剥がそうとしたけど力の差からそれはかなわなかった。

「なんで抵抗するんでさァ」

「だ、だって私っあの、」

「なまえ先輩…もしかして昨日の事、覚えてない?」

「……う、うん」

ゆっくり頷いて見せると沖田くんは表情一つ変えないまま「ふーん」っと言って私を見た。

「昨日はあんなに俺のこと、総悟って呼んで縋ってたねにねィ」

「………えっ?」

今……なんて?
耳を疑いぽかんとする私を見て沖田くんはニヤリと口角を上げる。

「…沖田くんっそれは、どういう……?」

「覚えてないなら思い出させてあげやしょうか」

ギシっとベッドが軋む音がして、気づいた時には沖田くんが私の上に覆い被さっていた。

「ちょ、お、きたくーん?」

「昨日、飲みすぎてベロンベロンに酔ったなまえ先輩をこのホテルまで運んでやったのは俺でさァ」

「…そう、なんだ。それはありがとう」

「最初は手ェ出すつもりなかったけど、先輩酔いが回ったせいか服脱ぎだすし可愛い声で俺の名前呼ぶし」

ちょっと待って。私、そんなことしてたの?我ながらイタイ酔い方すぎる。

「で、俺も男だし、我慢とかできなくて」

「……もういいよ!ありがとう、わかったから」

我が醜態をこれ以上聞いてられない。両手で顔を覆ったまま項垂れる私に「これからがいいとこなのに」と口を尖らせた沖田くん。
でも話を聞けば非があるのはどちらかといえば私。よりによって同じ会社の後輩と……。頭の中で受け入れがたい現実と直面してたら指の隙間から沖田くんとばっちり目が合った。

「でも俺ァなまえ先輩だったから、」

沖田くんが真剣な表情で私を見下ろしながら口を開いた。

「なまえ先輩じゃなきゃ、セックスなんかしやせんでしたよ」

「………沖田、くん?」

「寧ろなまえ先輩はこうでもしないと俺の事、ただの後輩としか見てくれやせんでしたよね。俺は先輩に男として見られたい。………この意味、わかりやすか?」

カーテンの隙間からオレンジ色の眩しい朝日が顔を出して沖田くんと私を照らす。
鼻につくお酒の匂いが、眩しい朝日に照らされた沖田くんの綺麗な髪の毛が、真っ直ぐ私を見つめる熱帯びた瞳が、全てが私をクラクラさせた。

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露草