A-3

「なまえ先輩」

その時、頭上から聞こえた声にゆっくり顔を上げた。
そこには私を見下ろす沖田くんの姿があった。

「匂いでようたァいつからンなに酒弱くなったんですかィ」

「沖田くん……いいの?お店出てきちゃって」

「大丈夫でさァ、それより突然出て行っちゃた先輩の方が気になったんで」

「………ごめん」

私は視線を沖田くんから地面の石ころに向けた。
沖田くんは蹲る私に合わせるようにその場にしゃがんで私の頭を撫でた。

「…なんで合コンなんかに来たんでさァ。つーか合コンがどんな場所かわかってますかィ?」

「それくらいわかってるっ、でも、先輩の誘い…断れなかった…から」

口ごもる私に沖田くんはため息をついて。

「ま、俺も人の事言えないけどねィ。俺も近藤さんが人数足りねェつーからしょうがなく」

「………そう」

「じゃなきゃこんなとこ来ねーよ、俺が興味あんのは先輩だけなんで」

「………っ、」

さらりと爆弾発言を言ってのけた沖田くんに驚いて顔を上げると彼はにやりと口角をあげていた。

「今回の合コン、近藤さんとあの無駄にテンション高い先輩が幹事だったらしくて」

「…そうなんだ」

「でもなまえ先輩に会えたし、なによりいいもん見れたから俺ァ来た甲斐あったかなと思って」

「いいもん?」

「なまえ先輩、俺があの先輩に絡まれてんの見て嫉妬してやしたよね?」

な……!

「ち、ちち違う!違う!嫉妬なんて…!」

「でもこっちなんか言いたげな目でガン見してたじゃないですかィ」

「っそれは…」

否定できない。あの時私は無意識で沖田くんのこと見てた、身体を密着させてた二人を見て嫌で目を背けた。よく考えればそれは沖田くんが言うように嫉妬以外の何者でもない。しかも、簡単に見抜かれるなんて不覚である。
全身の熱が一気に上昇したような気がした。
顔を真っ赤にしながら何も言い返せず黙り込む私を沖田くんは真っ直ぐ見つめながら、頭を撫でていた手を後頭部に回して、顔を近づけてきた。

「お、おおきた…!」

これからおこるであろう事を察して私は声をあげ身を捩った。
だけど沖田くんからは逃れられるはずなくて、

「今更逃がすわけねーだろィ」

その言葉と同時に唇が重なった。
角度を変えて何度も噛むようなキスがふってくる。
沖田くんのキスはほんのりお酒の味がして、甘くて、熱くて油断すれば意識を全て持ってかれる。
ぎゅっと沖田くんの服を握りながら薄っすら目を開けたら沖田くんをバックに道行く人がこちらを見ていた。
そういえば、ここ道端だった…!
とてつもなく重大なことに気づいて私は慌てて沖田くんを止めようと口を開いたのだけど、それがまさかの逆効果。
口を開いた瞬間、待ってましたと言わんばかりすかさず舌が滑りこんできて激しく口内を犯される。
もう見られてる恥ずかしさと、キスの恥ずかしさで視界が涙で滲んできた。
そんな私の反応を楽しむように舌を絡ませる沖田くんはやっぱドSで。

「……っふ、はっはぁ」

「なまえせんぱい…かわいい」

唇が離れていった瞬間、大きく息を吸い込んだ。
呼吸を乱す私とは裏腹、沖田くんは余裕な顔して笑ってる。

「鼻から息すればいいんですぜィ」

「そ、そういう問題じゃない…!」

「でも満更でもないんですよねィ?かーわいい」

「……っこんの、」

口じゃどう頑張っても勝てないので鋭く睨みつけたら「そういうの逆効果だし」っと言われたのでああ、私はこの人にはなにしても勝てないんだなということを察した。
結局、もう最初から沖田くんのペースに巻き込まれてそこから抜け出せなくなってるのだ。

「……沖田くん、そろそろお店戻ろう?みんな心配してるよ」

「えー…いやでさァ」

「でも一応合コンの最中だったし」

「今日はこのまま俺と二人で帰りやしょう」

「……人の話聞いてる?」

最早話が噛み合ってないんだけど。
まるで子供のようにやだやだ駄々こねる沖田くんに自然とため息が出た。

「今戻ったら先輩また山崎の隣じゃねェか、そんなの許さねー」

「そんなこと言われても……」

「それになまえ先輩だって、」

「ん?」

「あんなキスした後に俺と離れるの嫌でしょう?」

ニヤッと意地悪な笑みを浮かべた沖田くんに再び身体の熱が上昇した。
全てを見透かしたかのようなその瞳に私はただただ真っ赤になりながら固まる。
言い返そうと思えばできないこともない、けど不思議とそれを否定する気持ちにもなれなくて。

「行こ、せんぱい」

差し出された温かい手を私はぎゅっと握った。

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露草