B-1
沖田くんの手を握り、合コンを途中で投げ出して二人で並んで歩いた街は何故だかやたらと色づいて見えた。
何を話すわけではなかったけどあの帰り道は私にとって特別なもので。
沖田くんの顔もまともに見ることはできないまま電車に揺られた。
沖田くんは当たり前の様に私の最寄り駅で降りて、私を家まで送ってくれた。
気の利く女性なら「ちょっとお茶でもしてく?」なんて言うとこだろーけど生憎私にそんな勇気はなくて。
お礼だけ言って去って行く沖田くんの背中を黙って見送った。
沖田くんも沖田くんで人前であんなキスしたくせに送り届けたら何食わぬ顔して直ぐ帰るところが変に律儀で、なんだか可笑しくてすこし、笑ってしまった。
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次の日、いつも通り会社に出勤するとディスクの前では鬼の形相をした先輩が私を待ち受けていた。
「なまえちゃあん!?」
「せんぱいっ!?何事」
「何事?じゃないよ!それこっちの台詞だから。なんで昨日合コン途中で帰ったの!」
…あ、そういえば先輩達の存在忘れてた。
色々あったおかげで私の頭の中は沖田くんでいっぱいだった。
単純な脳みそをしている私は一つの事に気を取られると他が見えなくなる癖がある。
ははは…っと乾いた笑いを浮かべたら先輩は額に青筋を浮かべて、私の頭に拳骨を落とした。
「ったぁ…!っすこしは手加減して下さいよ!」
「問答無用!というかなまえちゃん、あなたいつから沖田くんとできてたの?」
「はぁ!?で、できてる?私と沖田くんが?」
「だってなまえちゃん昨日沖田くんと一緒に帰ったんでしょ?」
「な、なんで知って…」
「なまえちゃんが座敷出て行った後すぐ沖田くんもいなくなったからそれくらい察しがつくわ。合コン歴が長い私を嘗めないでちょうだい」
先輩すごい…。
でも目が、目が怖い。
「私も沖田くん狙ってたのに。まさかなまえちゃんに横取りされるなんてっ油断してたわ…」
「先輩、なんか勘違いしてますよ。私別に沖田くんとは付き合ったりしてないんで…」
「…え、そうなの?」
「…はい」
私と沖田くんは酔った勢いで、色々アレしてアレしたり流れでキスもしちゃったけど。
私は別に沖田くんの特別な女の子、彼女とかじゃなくて。
なんか自分で言ってて悲しくなるけど……って、なんでそこで悲しがる必要がある私。
「でもなまえちゃん好きなんじゃないの?沖田くんのこと」
先輩は表情一つ変えないままさらりとそう述べた。
「な、違いますよ!」
その言葉に私は自分の顔が赤く染まるのを感じた。
「だってあなた、合コンの時私が沖田くんにくっついてるの見て嫉妬してたじゃない」
「え!?先輩気もづいてたの!」
というか沖田くんにもそこ指摘されたのに…!
そんなにわかりやすいの私って。恥ずかしすぎる…こんなの中学生レベルじゃないか。
「あんなにガン見されたら誰だってねぇ。まあ私も酔いまわってたしちょっと意地悪したくなっちゃって後半は見せつけたけど」
「先輩…悪女」
「なまえちゃんが消極的すぎるのよ」
「でも…別に嫉妬したからって、その人が好きってわけじゃなくないですか?」
「じゃあなまえちゃんはほんとーに沖田くん好きじゃないの?」
「いや…好きですけど。でもこの好きが…恋愛感情なのかどうか、わからなくて。」
そう言うと先輩はすこし呆れた様な顔をして深くため息をついた。
「なまえちゃんってさぁもしかしなくても鈍感?というか馬鹿?」
「え、ば、馬鹿ってっ…」
「顔に好きって書いてあるから。いい加減認めて楽になんなよ」
もちろん恋愛の好きね。
そう言葉を続けた先輩に、一瞬頭がフリーズした。
私が…好き?沖田くんを恋愛感情で?つまりは男として?
頭の中に、沖田くんの顔が浮かんで、そこでやっと意味を理解した私は体温が一気に急上昇するのを感じた。
真っ赤になる私を見て先輩はニヤニヤ笑う。
「あらまぁ初々しい反応ね、もしかして初恋?」
「ち、違います…!けど、こんな感覚久々すぎて…」
どうしていいかわからない。
長年恋愛より仕事派で恋の仕方も忘れてしまった。
いい歳して何やってんだ私は、若干自分に呆れたつつあった。
でも、逆にこの歳だからこそ、どうしたらいいのかわからないのかも。
「でもまぁ沖田くん狙ってる子は私だけじゃなかったからねぇ、他にもギャラリーがいっぱい…」
「今この流れでそれ言いますか…」
「合コン投げ出されたお返しにいらん情報も与えとこうと思って」
「……根に持ってるんですね」
「ま、なまえちゃんはなまえちゃんなりに頑張ればいいって!素直に気持ち伝えればきっと通じる…はず。多分!」
そう言って笑いながら私の肩をバシバシ叩く先輩は何処までも適当だった。
でも先輩は先輩なりに私を勇気ずけようとして…。
やっぱ私いい上司持ったなぁなんてしみじみ思ってたら先輩が何かを見て小さく声を上げた。
そして突然「私提出しなきゃいけない書類あったんだった!ちょっと行ってくる!」なんて言いながらそそくさ去って行った。
突然の先輩の行動を不審に思いつつ私は自分のディスクにつこうとした時、
「おはようごぜェますなまえ先輩」
背後から声がして、振り返るとそこには沖田くんの姿が。
「お、おお沖田くんっ!」
なんでこの状況で沖田くん来るんだ…!
というかさっきの話聞かれてないよね?
「なんでンなどもるんでさァ」
「べ、つに…どもってなんか…」
「顔、真っ赤ですぜィ」
「それは…暖房がちょっと暑くて!…ねえ?」
なんとも苦しい言い訳をする私に沖田くんは不審な眼差しを向けている。私は余計に恥ずかしくなって、でも沖田くんの顔をみたらなんだかいたたまれなくなってしまって、
「なんか冷たい飲み物でも買ってこようかな!」
それを誤魔化す様に私も先輩の後を追って、逃げる勢いでオフィスを飛び出した。
ああもう…こんなんでこれから大丈夫なのか、先が思いやられる。
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露草