「裏道さぁん、きょー飲みに行きましょ!」

「行かない。帰る」


収録が終わって明日は待ちに待った休日。
やたらと猫撫で声の後輩が勝手に控え室に入ってきたが奢る気はないし今日は死んでも真っ直ぐ家に帰る。絶対。

そそくさ着替えを済ませ荷物をリュックに詰め込んだ。


「着替え早っ!今日なんか予定あるんスか?」

「お前には教えない。」

「えーじゃあ今日は三人かー」

「三人?熊谷とあと誰。池照くん?」

「池照くんは小百合さんの散歩あるからって断られました、だから俺と、熊谷とあとなまえさん」

「なまえ?」


え。なんでアイツ飲み会参加することになってんの。
お互い明日休みで、アイツもセットの背景がやっと描き終わったから今日は早く帰れそう!って収録前に連絡がきてた。だから俺だって出木田さんにまた余計に声かけられまいと気配消してここまできたのに。


「お前か?お前が無理に誘ったんか?」

「ちょ、裏道さん痛い痛い!脳が揺れる!」

「大して入ってないだろ」

「なんでそんな怒ってるんスか!?」


机に置いてあったうさぎの頭を被せて左右に思い切り振ってやった。余計なことしやがって、二人っきりで過ごせんのいつぶりだと思ってんだ。


「また振られたからなまえさんにアドバイスくださいって泣きついたらちょっとならってOKくれたんで!」

「あいつお人好しなんだぞ、簡単に泣きつくなよ」

「あれ?裏道さんってなまえさんと仲良かったでしたっけ?」

「………別に。俺も飲み会行く」

「マジっスか!裏道さんの奢り!?」

「お前にだけは奢らない」

「えぇ…でも俺金欠なんすよぉ。」

「なら飲み会なんて開くな」

「じゃあ裏道さん家で宅飲みにしましょ!…あれ、でもそいえば予定、あるって言ってませんでした?」

「それはお前のせいでなくなった」


この恨みはゆくゆく晴らすとして。
これ以上時間を削られるのも癪だから頭にハテナを浮かべるうさぎに「早く着替えてこい」とだけ言って先に局を出た。
夜空を見上げながら隣の公園のベンチで一服。

ほんとならこれから、俺のうちで二人で飯を食べながら、またコバイキンの顔を描かされて大変だった話して、俺もなまえのあのセットを作るのが大変だったとか話を聞いて。
お互い日頃のストレスを癒す時間になるはずだったのに。

ふよふよ空に昇っていくタバコの煙をただ見上げていたら、公園の外に人影。俺の姿を見つけると入館証を首に下げたままこちらに駆け寄ってくるのが見えた。


「裏道さん!こんなところに!まだ局内にいると思って探しちゃいました、着替えるの早いですっ」

「…お疲れ。今日は早く帰るつもりだったから、…予定あったし?」

「…それは…本当にすいません。兎原くんが涙目だったから、ほっとけなくて」

「そんなのは割と日常だから、気にしてたらキリない」


怒ってはないけど。今夜を楽しみに仕事をしてたのは俺だけかと思うと面白くない。煙草を灰皿に押し付けなまえを見たら辺りを気にするように見渡した後、少し顔を近づけてきた。


「飲み会が終わったら、今日…そのまま裏道さん家に泊まりに行ってもいいですか?」

「今日、俺ん家で宅飲みになったけど」

「え!?聞いてた話と違う!よく了承しましたね」


声を上げたなまえの腕を掴んでぐいっと強引に引き寄せる。
少し前のめりになった所で耳朶に触れそうなくらい唇を寄せた。


「あいつらが帰ったらしれっとそのまま泊まってって」

「…っ、わ、かりました」


わかりやすく照れる姿に少し、満たされた。
続きはまた後で埋めてもらうとして、何事もなかったように二人で兎原達を待つ。


体操のお兄さんをやってる俺と、ママンとトゥギャザー担当美術のなまえ。

俺たちが付き合ってることはまだ、誰も知らない。


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露草