「そんでぇ、俺は脈があると思ったから連絡先聞いたのにぃ明らかに顔が引き攣っててぇ…」
「ペース早いな。まだ飲み始めて何分?」
「30分です。しかもこいつ缶ビール2本しか開けてません」
「…まあ、色々思うことあんだろ」
既に出来上がった兎原の愚痴にいつもながら適当に相槌うってなまえを見る。
酒は強くないから専用に買った度数弱めの酎ハイをちびちび飲んで、話を聞いていた。
「どう思いますかぁ!?なまえさん」
「え、なにが?」
「だからぁ女の子はぁ興味ねえ男から連絡先聞かれんのはやっぱり嫌なんスかねぇ」
「客から聞かれるのは嫌なんじゃないのか、ガールズバーの女の子だったら」
「熊谷には聞いてねえの!なまえさんならほら、この前別番組のスタッフにぃ連絡先?聞かれてたじゃないっスかあ。だから気持ちわかるかなーって」
なんだその話は。俺、何も聞いてないけど。
トイレ行く時にたまたま見たという兎原に、困ったように笑ったなまえがチラっとこちらを見て目が合った。
「もちろん!教えてませんからね!?」
「やっぱりぃ…やっぱ嫌なんだぁあ」
「えええ泣いてる?今のは…違くて、ほら!私は一応…恋人、いる身だからっね!?」
「なまえさん、彼氏いたんですね」
「マジぃい!?ダブルショック!!憧れてたのにっ!」
本当は言うつもりじゃなかったであろう情報を、多分勢いで口走ったであろうなまえ。聞きづてならいこと言いながらまた机に突っ伏した兎原の肩を「この人だけはやめとけ、殺されるぞ」と何かを察したらしい熊谷が叩いた。
「彼氏さんの、どこが好きなんですか?」
でもって察した上でそれを聞く熊谷のメンタルは流石のものだと思う。
「え、えっと………き、筋肉?」
「彼氏マッチョなんスか!?俺もけっこー鍛えてますよぉ元陸上部だし!」
「だからやめとけ。もし裏道さんくらい筋トレが趣味だったら敵わないだろ」
「裏道さんくらい筋トレする人なんて世の中にそういねーじゃん!」
いや、俺だし。
「裏道さんは興味ないんスか、なまえさんの彼氏ぃ!」
「うーん、…他には?」
「ほ、他?」
「他に好きなトコ。教えてよ、俺にも」
音が聞こえそうなくらいボッと顔を赤くしたなまえは持っていた酎ハイを一気に口に含んだ。
下手なこと言えばバレるし、少し考えてから視線を逸らして掠れるような声で口を開く。
「マカロンを…」
「マカロン?マカロンってなんだっけぇ熊谷」
「ちょっと黙れ」
「マカロンを、たまに買ってきてくれて…それがすごく、美味しいっ」
「…へえ」
「マカロンって…ああ、あのカラフルなやつかぁ!マッチョが買ってたらなかなかヤバくね?」
「兎原、今日はもう帰るぞ」
「え、なんで!?」
「お前の為に言ってる」
バタバタ慌ただしく、まだ飲みたいという兎を熊が半ば無理矢理引き摺って帰って。
思ったより早くなまえと二人きりになった。
さっきの会話の流れから微妙に気まずい空気が流れていて、「なんか追加でおつまみ、買ってきましょうか」なんて言いながら立ち上がったなまえの手を掴む。
「俺、聞いてなかったんだけど」
「な、なにがですか?」
「局内で口説かれた話」
「だって、ちょっと声かけられただけだし…裏道さん、そんなに興味ないかなって、」
「興味ないように…見えんの?」
「っや、ちょ…!うらみちさ、」
なまえの細い腰を抱き寄せて、口を塞ぐ。
角度を変えて何度も噛み付くようにしてから強引に舌を捩じ込んだら俺のシャツを握る手にぎゅっと力がこもった。
「っん、はぁ…いっ…息が、」
「…まだ、やめない」
逃げられないように後頭部に手を回して、薄く目を開けると酔いもまわって潤んだ瞳に一頻り満足したトコで唇を離した。
「…興味、しかないんだけど」
「っえ、?」
「なまえのことならなんでも知りたいし、マカロン好きならまたいくらでも買ってくるし」
「っずるいと思いました、さっきみたいにみんなの前で言わせるなんて」
ほんとは裏道さんの好きなトコなんて、他にも沢山ある。けど、一番は私にしか見せないちょっと子供みたく拗ねるとことか、不器用に笑った顔が…好きだ。
「マカロンは、キャラメルの味が好きです」
「あとは?」
「あとは…今日、ほんとは私も裏道さんと二人で過ごすの楽しみにしててっ」
「…それは俺も」
「だから…続き、してほしいです
さっきのキスのっつづき」
掴まれたシャツの襟に、強引になまえから押し当てられた唇。酒が一気に全身に回ったかのように、頭がクラッとした。
「今日は約束破っちゃったので…ちゃんと穴埋め、させてください」
「朝までかかってもいい?それ」
「いい…ですっ」
ほんとはもう、そんなことしなくていいくらいには気持ちは満たされてるけど。
それは、あえて黙っといて今はこの状況をたのしむことにする。
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露草