最近、昔と比べて何処となく裏道さんの顔色と、出勤してからのコンディションが良い…まで行かなくてもマシな気がする。

本人に自覚があるかは知らんけど、普通と言ってた割にはなまえさんとの同棲生活が順調なんだと思う。

いいなあ彼女。元は俺が憧れてた人だし、と今日も今日とてぼやきつつ欠伸をしながら従業員出入りを抜けたら見慣れた背中を見つけて声をかけた。


「裏道さんおはざーす」

「………はよ」


さっきまでの考えを打ち消すテンションで返事をされて、思わず顔が引き攣った。


「な、んかあったんスか?…まあ、あったんスよねその顔は」

「ねえよ」

「まあまあ今日猫田んとこで話聞きますから」

「しれっと予定立てんな。奢らねえぞ」

「熊谷にも招集かけときますね」

「おい人の話聞け」


金欠だったしラッキー。
これは珍しくなまえさんと喧嘩した、ってとこだな多分。
面白そうだし猫田んとこである程度強い酒が入れば少しくらいは話してくれるかもしんないし、その後すぐ熊谷にも声をかけたらけっこー渋られた。

昼休みに会ったなまえさんは彼氏の方とは違って普段通りだったけど「今日裏道さん借りていいっすか?」と聞いた二つ返事で了承してくれたし。


仕事終わり「帰る」とゴネる裏道さんをまあまあ宥めて男3人で店に向かった。


「裏道さん、前回どうでした?彼女さんの様子」


カウンターに並んでから早速ニヨニヨ問いかけてきた猫田に裏道さんの顔が更に険しくなる。

猫田のいう「前回」なまえさんを連れて4人で飲みにきた時も色々あったもんな…ほんと。


「どうもこうもない、二度と余計な事すんな」

「でも兎原から次の日ちょっと機嫌良かったって聞きましたよ?」

「お前!?マジ余計な事喋んな!?」

「今日は男だけで飲み明かしましょうか、雨降り予報で丁度人来なさそうだし」


ワインボトルに入ったゴリゴリの日本酒を裏道さんのグラスいっぱいに注ぐ猫田。
暫く4人でしょーもない話をしてる間も裏道さんのグラスだけ空にならないように注ぎ続ける姿に前情報ないのに察し能力が高すぎんなと最早引くレベル。


「同棲して暫く経ちましたよね、どうです最近?」


でもってしれっと聞くあたり、俺ももし彼女が出来たらこーやってオモチャにされるんかなと思った。


「最近…?ダンベルを離し飼いにしてたら怒られた」

「そりゃ怒りますよ、凶器っスもんあれ」

「あと、洗濯とか掃除とかもっと分担しようって」

「あ〜あるあるですね」


頷く猫田に、でも裏道さんって家事やんないタイプじゃなくないか?部屋はいつも綺麗だったしと思ってからすぐ。


「一人暮らし長かったから分担しなくても全部俺だけで出来るし。別に今のままでいいって言ったらそれからなんか不服そうな顔してて」

「そっち?やりすぎて怒らせるパターン珍しくないスか」

「あいつの方が飯作ること多いし、他の面で支えられてる事が大きいから寧ろそれでも足りないくらいだと思ってたんだけど…俺は」


日本酒が少しは効いたのか、顔色は変わらんもののぽそぽそ話始めた裏道さん。

他の面、とは主に精神的な部分なんだろう。最近の様子を見てればそんくらいはわかる。
なまえさんに手を出される前にせっせと家事を終わらせる姿は似合わなすぎて、想像するとちょっとオモロいけど。

同棲生活に揉め事なんて付き物なのに、のらりくらり交わしたくなるような事も朝から考えるくらい真摯に向き合ってんのはある意味本気で付き合ってる証拠だ。

言うと怒るけど、なまえさんのことめっちゃ好きだからなあこの人。


「もしかして裏道さん「別に今のままでいい」しか言ってないんじゃないですか?」


ただこの人はそれを本人に伝えるのが時たますごく下手くそで。

熊谷の言葉にらしくもなく、ただ目を瞬いていた。


「いや、分担しなくても全部俺だけで出来るってとこもちゃんと言った。」

「不正解です」

「えぇ急に何、なんのクイズ?」

「クイズより簡単なことです、伝えるべきはそこよりその後言ってた事ですよ。
正しくは「いつも美味しいご飯ありがとう。側に居てくれるだけで嬉しいからこれくらいは俺にやらせて」です」

「おお…!」


パチパチ拍手が猫田と被った。


「今のままじゃ対等に思えないんですよ、なまえさんは。それでもやらせたくないなら伝え方一つで変わります」

「…赤ペン先生?」

「裏道さん家に一緒に住んでるじゃないですか、家賃とか光熱費はどうしてます?」

「…俺。出すって言われたけど断った。」

「なら向こうはより気にします。よほど図太くない限りそれが普通かと」

「確かに。しかもさっきの裏道さんの言い方だと突き放されてるみたいでちょっと寂しいよね〜俺だったらさっきの熊谷の台詞に、愛してるとちゅうもオマケでつけるかなあ」

「お前がやると逆に胡散くせえだろ」

「言うて熊谷は絶対出来ないもんね?」

「やらねえだけだ」

「それじゃあ裏道さんと変わんないでしょー」

「……………」


猫と熊、女心のわかるモテ男達によってボコボコにされた裏道さんはついに黙り込んでしまった。

容赦ないからな、こいつら。

ある程度参考にはなるが実現できる範囲なのかはまた別問題である。


その後、良い感じに酔いが回ってきた頃に三人で店を出た。
弟と待ち合わせしてるらしい熊谷とはすぐに別れて、気まずい空気の中2人並んで歩いてたらふと裏道さんが足を止める。

ORERAnoMACARON、というこの人の雰囲気には似ても似つかない店の前で。


「寄ってくから先帰れ」

「前くれた上手いマカロンってここのっスか?よくこんな店知ってますね」

「…まあ色々あって」


店に入ってく裏道さんに着いてったらちょっとウザそうにされたけど。

そいえばなまえさんは前に宅飲みした時、彼氏の好きなとこに「マカロンを、たまに買ってきてくれて…それがすごく、美味しいっ」と言っていた。

だんだん話が繋がってきて、さっきは色々言われてたけどこの人にはこの人の伝え方があんだなあと、なんかしみじみ。

最終的になまえさんが喜べば、もうそれが正解だろうしな。


「キャラメル味10個ください」

「え、全部キャラメル?」


前言撤回、そのなまえさんが好きな味なんだろうけど、流石に飽きんだろ。なんでこうも極端?


「裏道さん、せめて半分くらいは違う味のがいいと思いますよ!それは俺でもわかります!」

「ならこの塩キャラメルも追加で」

「あ、もういいっす」


昔、俺がこの人を放っておけなかったように、なまえさんも裏道さんのこう言う不器用なところがもしかしたら刺さるのだろうか。

結局華やかさが売りであろうマカロンはその持ち味を全く活かせない色合いになってしまったが、次の日は少しだけコンディションがよかった裏道さん。
後輩達のアドバイスを何処まで実行したかは知らんが、なんやかんや解決したんだろうなと思って「よかったスね」と肩を叩いたら肘打ちを食らった。


…今日も今日とて理不尽。今回はけっこー頑張ったと思うけど、俺?


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露草