「…おい、聞いてないぞ」

「ちょ、痛い痛い…マジすいませんって」


テーブルの下で隣に座る兎原の足をグリグリ踏みつける。


珍しく真面目な顔して「相談があります」とか言うからこれまた珍しく兎原とサシで足を運んだどろぶねや。
適当に頼んだ酒とつまみが届いてもなかなか切り出そうとしない兎原に「で、なんだよ」と声をかけたタイミングで見覚えのない女の子二人が俺たちのテーブルに来て、その時点で嵌められた事にすぐ気がついた。


「同じ陸上部だった子達なんスけど、どーしても裏道さんに会いたいって頼まれて…仕方なく」

「タダで引き受け…てねえよな?言え」

「…お礼に今度友達の可愛いコ紹介してくれるって言われたんで、ラッキー!って」

「………」

「いや、ほんとすんません。でもこーいうとこから生まれる恋愛もありますし、彼女いないんだからこれを機に是非!」


二人仲良く化粧直しに行ってる間に吐かせたら、まあ想像の範囲内の回答ではあったけど。

なまえと付き合ってる事は誰にも言ってないし、元々俺が合コンとか嫌いな事を知っててこの場をセッティングしたという事以外、兎原を責められない。

ここまで来た以上は仕方ない、今は当たり障りなくどーやってこの状況を乗り切るか…、考えながらため息をついて一先ず煙草に火をつける。


「…彼女欲しくないんスか?裏道さん」

「ちげぇよ。…ただ、」

「ただ?……女の子に興味ない、とか?」

「しばくぞ」

「ひぇ」


単純にあいつに誤解されるような事、したくなかったなと思っただけだ。








「いつにも増して顔色悪いな、裏道さん」

「あ〜昨日のアレだろうなあ」

「お前またなんか余計な事したのか?」


…気ぃ使って死ぬほど疲れた。
一本目の収録が終わって、スタジオ前の椅子でダレる俺を見て兎と熊のそんな会話が聞こえてきたが、全く悪びれない兎をシめに行く気力すらわかない。

怒りを無関心が塗り替えたら終わりだと、前にも考えたことあったな確か。


「裏道さん、大丈夫ですか?今日ずっと顔色悪いですけど」

「…ああ、へーきだから」

「よかったらこれ」


どうぞ、と渡された冷たいペットボトル。
わざわざスタジオから出てきてくれて、事情も知らない故のなまえの気遣いに何処とない後ろめたさと罪悪感をヒシヒシ感じる。


「やっぱ合コン向いてないっスねー裏道さん」

「合コン?」


でもって兎は早いうちに黙らせておくべきだったとすぐに後悔した。


「…合コン、行かれたんですか?」

「合コンつーか俺と同じ陸上部だった子が裏道さんのファンだったんで、昨日紹介したんスけど」

「へぇ、そうだったんですね」

「…お前、マジで余計な事、」

「んな事より、なまえさんもよかったら今度一緒に飯でも」


行きませんか?という兎原の誘いを聞く前に、呼び戻されたなまえは「では、」とすぐにスタジオの中へと消えて行って。何処となく笑顔が冷たかったような気がして渡された水を片手にさっきより激しく項垂れる。

最近は前より距離が縮まって、せっかく少しずつお互いの事がわかってきてたのに。


「ちぇ、なまえさん忙しそースねぇ」

「おい…歯ぁ食いしばれ」

「いつの間にめっちゃキレてる!?」


怒りが無関心をめちゃくちゃに塗り替えたのでとりあえずボコった。


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露草