その後の休憩時間、夜時間あるかと連絡したら『今日は無理です』と一言返事がきた。
ダメでも普段なら代えの日程を教えてくれんのに今日はそれ以上連絡が来なくて。
悪いのは俺、よくわからん飲み会に参加した上に一言もあいつに言わなかった。加えて三者から聞くという一番最悪な知り方をしたし多分、怒らせたんだと思う。
鳴らないスマホに危機感だけが募って、たまらず全部の収録を終えてから、人がいない隙を見計らって裏にいたなまえに声をかけた。
「ちょっとでいいから時間くれ、今」
「まだ仕事中です」
「…すぐ終わるから」
半ばというか完全に無理矢理なまえの腕を引いた。
楽屋に連れ込んでまた、例の如く内側から鍵をかける。
「…なんですか」
初めてだった、こいつにこんな素っ気ない態度をとられんのは。
「ごめん。昨日は変な飲み会に参加して」
「それは気にしてません」
「…とても気にしてない顔には見えないんだけど」
「女の子と飲んだ事に怒ってるんじゃないですよ、私」
逸らしていた顔を真っ直ぐこちらに向けて、険しい顔をしたままなまえは言葉を続けた。
「行ったのは別にいいです。裏道さん自ら参加するタイプじゃないし、…仕方なくなのはわかるから」
でも、
「一言くらい、何か言ってほしかった。
……一応、彼女なので。」
肝心な部分が聞こえるかどうかのやたら小さな声。
ギリギリ耳に届いて、恋人関係にも報連相ってやっぱ大事なんだなとこの歳になって痛感する。同時に、付き合い始めた頃と違って取り繕うことなく素直にそんな事を言ってきたなまえの姿が不謹慎ながらなかなかに可愛くて。
一瞬フリーズした俺に「まだ仕事あるので、」と軽く頭を下げ扉に手をかけたなまえ。また、すかさずその腕を掴む。
「待った、まだ話終わってないって」
「とりあえず今は、戻らないと」
「無理。そんなん聞いてこのまま帰せるわけねーだろ」
そめそも一応ってなんだ。
最初はどうであれ今はそんな半端な気持ちで付き合ってるつもりは全くない、寧ろ好きだと認めたあの日から知りたくもなかった重たい感情を確実に覚え始めてるんだぞ、こっちは。
掴んだ腕を引き寄せて、そのまま腕の中に閉じ込めたら途端になまえは大人しくなった。
「…次、なんかあった時はちゃんと先に言うから」
「…はい」
「そもそも昨日みたくならないように気をつける。…ほんと、悪かった」
こんなありきたりの事しか言えない分も強く抱きしめながら胸板に顔を埋めるなまえの頭を恐る恐る撫でてみる。
少しして控えめに背中に回ってきた腕になんだか俺の方が酷く、安心した。もしこのままフられでもしてたら多分、いや確実にショック死してたと思うから。
「……私も、すいませんでした」
「なんでなまえが謝んだよ」
「さっき怒ってないって言ったけど…ほんとは少し、怒ってたんです」
「女の子と飲んだ事?」
「も、ありますけど。私はここまで裏道さんに近づくのかなり時間かかったのに。他所から簡単に掻っ攫われたら流石に嫌だなと、思って…」
「なんだそれ」
「っだって、」
「…顔、上げて」
言いながら既に近づけて、目が合った瞬間に薄く開いた唇に噛みついた。驚いて目を開けたままのなまえに構わず何度も、啄むように。
申し訳ないとは確かに思ってる。けど、こんな本音が聞けんなら結果的にラッキーイベントだったし、なまえの感じてるそれは怒りというよりもっと別の…アレだ、
「はぁっ…う、らみちさん、苦しいですっ」
「ごめん、つい」
嫉妬って、される相手が彼女だとこんなにいいモンだったとは…初めて知った。
止まらなくなって普通にやりすぎた自覚もある。
「っほんとにそろそろ仕事…戻らないとなので」
「その前に次空いてる日だけ教えてよ。そん時になんでも我儘聞くから」
「なら今日泊まりに行きたいです」
「今日?俺はいいけど、予定あるんじゃなかった?」
「…意地張っただけなので。まあ仕事はまだ全然残ってるので遅くはなっちゃいますが」
「…いいよ、いくらで待つから」
「っじゃあまた、後で」
腕の中から名残惜しく温もりが消える。
さっきまでとは違い綻んだ顔で離れてく背中を見送りながら、どっかのタイミングで合鍵渡したら受け取ってくんないかな、なんて事を考える。
扉が閉まる寸前で、なまえが顔を出してもう一度こっちを見た。
「裏道さん」
「なに?」
「好きですよ」
すぐにバタン、と閉まった扉。
…もし明日が休みだったら壊れるくらい抱き潰したかもしれない。
「人生で初めて仕事でよかったなんて思ったな…」
いや、真面目に?
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露草