「おはようございます、早いですね裏道さん」
「…おはよ」
相変わらずテンションは低いけど。
当日の朝、早めに集合場所である局内駐車場に行ったら一番のりで裏道さんがいた。
「いつもは10分前行動だけど、なまえはもっと早く来ると思ったから。少し話す時間ほしくて…待ってた。」
「…え、」
何それめっちゃ可愛い。
「次はいつ二人で会えるかわからないですもんね…私連休明けから新しいセット作らなきゃいけないんで多分残業ですよ〜」
「そのことなんだけど、」
「裏道さんなまえさんおはざース!!」
裏道さんが何かを言いかけてごそごそ上着のポケットを漁ったとこで朝からやたら元気な声が響いて、振り向けばお馴染みの二人が。
裏道さんの顔が一瞬でまた真顔に戻ってしまった。
「兎原、少しは空気読まないといつか本当に裏道さんに埋められるぞ」
「なんで?今俺なんもしてなっいで!!なにするんスかぁ裏道さん!」
「いや、ハエがいたから?」
裏道さんの手厳しいチョップが兎原くんの脳天を直撃。
その後思ったより早く人数が揃いみんなでバスに乗り込んだ。
前日に配られた座席表、私の隣は熊谷くんで兎原くんは今回もカッペリーニちゃんの隣、熊谷くんに座席交代をせがんでたが軽くあしらわれていた。
席に着く前に棚の上に荷物を乗せていたらスマホが震えて、画面を見たら裏道さんから。
『夜、旅館のロビーで待ってる』の一文に思わず、一番後ろの席で池照くんと共に出木田さんと風呂出さんに挟まれてる裏道さんを見る。…よくこの状況でメッセージ送れたな。
「なまえさん、こっちの鞄も上に乗せときますか?」
「あ、ごめんっ熊谷くんありがとう」
「LINE彼氏からですか?ニヤけてますよ。夜二人で会えるといいですね」
「…っ熊谷くん、………いつから気づいてたの?」
「さあ?なんのことだか。そろそろ発車ですよ」
そっと耳打ちしたら軽く流されて、二人で何事もなかったように席につく。
バスが走り出してすぐ、後ろから気になる会話が聞こえてきた。
「裏道くんさ〜そろそろ身、固めようと思ってたりしない?知り合いに良い娘さんがいてね、裏道くんのファンだって言うし今度紹介しようか?」
縁に肘をついて窓の外をボーっと眺めてたけど背筋が伸びて。
「家庭もつと変わるよ〜」なんてディレクターの言葉にそわそわして横を見たら熊谷くんとばっちり目が合ってしまった。
「今彼女いるので、せっかくですがすいません」
「裏道くん彼女いたの!なら、残念だけど仕方ないか〜」
よかった、裏道さんがあんなストレートな断り方するとは意外だったけど。
ほっと胸を撫で下ろしたら横から小さく笑い声が聞こえた。
「え、笑った?なぜ?」
「笑ってないです。それより、よかったですね」
「…なんのことかな?」
「安心したってもろ顔に出てます」
「っ」
熊谷くんってちょっと裏道さんに似て意地悪なとこ、あるかもしれない。
*
今回の宿はまあまあ高そうな温泉旅館。
適当に辺りを散策した後、男女で別れて早速名物の温泉に浸かった。
「で?」
「で?とは?」
「なまえちゃん彼氏いたことなんで教えてくれなかったの!」
「なまえちゃんの彼氏の話なら噂聞いたよ、マッチョなんでしょ?」
「私も聞いたよそれ!マッチョでマカロン買ってくる人だーって!」
どこ情報?と考えてすぐ兎の顔が浮かんだ。
裏道さんじゃないけど、余計なこと喋りやがってとチョップを入れたい。
露天風呂に入ってすぐ、詩乃さんとメイクさん達に取り囲まれて話題はこの前それとなく濁して誤魔化した私の彼氏の話になった。
絶対隠したいわけじゃないけど、噂が広まっても良いことないよねって事で裏道さんとは長らくこっそり付き合っているワケだが。
最近の裏道さんはバレるバレないということより、バレそうな状況で私を揶揄うのを、少し愉んでいる気もする。
それはこの前の裏道さん宅飲み会で思ったことだ。
「彼氏年下?それとも上?」
「2個上です…」
「なまえちゃんって熊谷くん達の一個上だよね?ってことは…彼氏、裏道さんと同い年か!」
「みたいですねっ、はは…」
その裏道さんです、とは言えない。
「なんか意外かも。だってなまえちゃんさ、昔池照くんみたいな人がいいって言ってなかった?だから年下が好きなのかと思ってた」
「え、そんな事言いましたっけ?」
「言ってたよお、まだ入ったばっかの頃かな?」
「他の男性陣は顔が怖いって怯えてたもんねー」
そう言われれば言ったような…?
美大を卒業してからなかなか思う所に就職できず、知り合いのコネでなんとか掴み取ったこの仕事。
初めたばかりの頃は仕事が辛くて一番物腰柔らかくて話しやすかった池照くんがひっそり癒しだったっけ。
あの頃、裏道さんはちょっと怖い人と思ってたけど気づいたらたら好きになっていて、
今は誰よりも優しいこと、知っている。
「女湯めっちゃ盛り上がってんなー…なまえさんの彼氏、裏道さんと同い年らしースよ」
「あ、…そ。」
そんな会話が男湯に筒抜けだったことには気づかず。
- 4 -
*前次#
ページ:
露草