休憩室で一人お昼ご飯を食べていた時だった。
「あの、連絡先教えてもらえませんか?」
多分別番組のスタッフさんらしき人に声をかけられて、もちろん断ったけどなかなか引いてくれず。何故か向かいの椅子に座られた。
そうこうしてるうちに収録を終えたであろう演者の人達が遅れてぞろぞろ中に入ってきて、
その中にはもちろん熊谷先輩もいて、側から見たら何故か知らない男の人と二人でご飯を食べてる風に見えてしまうこの光景。
なんか言われるかな、と内心ちょっとドキッとしたらまるで視界に入っていないかのようにスルーされてそのまま熊谷先輩は近くの席でご飯を食べ始めた。
その後も特になに言われる訳もなく。
自惚れすぎてたのか、それにしても普通ちょっとくらい「あいつ誰だ?」とか聞かない?
「熊谷先輩って嫉妬とかしないタイプですか?」
思い切って二人きりの時に自分から聞いてみた。
「タイプというか、いい歳してするもんじゃないだろそんなん」
「そういうもんですか、」
「お前と違って大人だからな」
熊谷先輩らしいと言われればそうだけど。
その言い方は、ちょっと寂しい気もする。
*
「熊谷先輩って嫉妬とかしないタイプですか?」
聞かれた時、この前のアレかとすぐにわかった。
なまえに絡んでた見覚えのない男、嫉妬もなにもアイツが男に向けていたまるで興味なさそうな顔を見てたらそんな感情は湧かない。
俺の前とは天と地くらい白けたツラをしていてなんなら少し、優越感すらあった。
「みよじさんにまた声かけてみようかな」
「諦めてねえの?」
「人懐っこそうな感じ、可愛いじゃんあの子」
着ぐるみ姿のままスタジオに向かう途中。
近くから聞こえてきた声に横にいた兎原が勢いよくこっちを見てきたのでとりあえず肘打ちした。
「連絡先、教えてくんないかなあ」と続ける男はこの前なまえに絡んでいたそいつ。
嫉妬なんかしない、どうせまた軽くあしらわれて終わりだ。人懐っこそうってのは合ってるがそれが他に向くことは俺がいる限り一生ない。
ただ、それでも念の為。
「そいつ元ヤンの彼氏いるクマ」
「ク、クマオ…くん?」
「手ぇだしたらボコる…ボコられるから、やめといた方が身のためクマァ」
「マジかよ」
「彼氏いたんか、しかも元ヤン」見るからに肩を落として去って行った男を見送って再び何事もなかったようにスタジオに向かう。「元ヤン彼氏こえ〜」とわざとらしい言い方をした兎原の腹にもう一度肘を入れた。
嫉妬なんかしない、よく考えたらするよりずっと前に叩き潰しておけばいいから。
昼休み今日は休憩室に姿が見えなかったなまえ。
用がある時にいない奴だな、思いながら探してると休憩時間が終わるギリギリに備品室に入って行く姿が見えて、その後を追った。
上の棚にある箱が取りたいらしく爪先を立てながら手を伸ばすなまえの背後に立って変わりに手を伸ばした。
「これか?」
「あっ、熊谷先輩。…ありがとうございます」
「今日、うち泊まり来い」
「と、唐突っ。…珍しいですね、先輩の家って。どうしたんです?」
「はち太が友達の家に泊まりに行くって、今日いないから」
「寂しいんですね」
「……まあ」
寂しい、というか。
はち太に仲の良い友達が出来たのは喜ばしい事だし、いないなら真っ先にこいつを呼ぶ事しか考えてなかった。今更それに気がついて自分でも驚いてる。
そんな事も知らずに「なら帰りにラーメン食べて帰りましょ」と嬉しそうに笑うなまえ。
…昔っから、こいつのこういう顔に弱いのは自覚がある。
でもってあの頃と違い今は俺のしたい時したいままに出来る事。それにまた、たまらない優越感を感じて気づいた時にはいつもすぐに手が、伸びている。
「せ、先輩っ。顔近いです」
「近づけてるからな」
「人来たら困るので、」
「来ねえよ誰も」
「だからその、謎の自信はいつも何処から来るんですかっ!」
「俺が入ってくる時鍵かけた。だから今回はマジ」
「聞いてない!…っ今は、やめてください」
「なんで」
「時間ギリギリだし…仕事、戻れなくなります。」
帰ったら好きなようにして、いいですから。
やたらと赤い顔して身体を押し返された。
多分こういう姿を他の奴に晒した時が一番…嫉妬に、狂う気がする。
一瞬俺の動きが止まった隙に距離を取ろうと後ずさったなまえの腕を掴んで、頸に噛み付いた。
「っ!ちょ、な、にして」
「…暴れんな」
「痕つける気じゃないですよねっ?見えちゃいます、そこ!」
抵抗しようとする両手を掴んで、そのまま無視して白い肌に吸い付けば肩が跳ねて途端に大人しくなった。
…好きにしていい、なら今日は見えないとこにも沢山つけたい、そんな気分だ。
「忘れんなよ、さっき自分で言ったこと」
「っどうせ私が忘れたって、するくせに。どうするんですかこんなところにつけちゃって!」
「今更だろ、お前に元ヤンの彼氏いるって噂ちょっと広まってるしな」
「え?な、なんで?」
「さあな」
それくらい自分で考えろ。
お前と付き合い始めてからこっちはかなり、余裕ねぇんだ。
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露草