「んー…クマオくん…?」

「クマオくんじゃねえよ」

「……ぁ、うらみちお兄さんだあー…」

「…水、飲む?」

「飲むっ」


間違えられてかなりムっとしたけどとりあえずそれは置いといて。


女子部屋に勝手に入るわけにも行かないし、とりあえず誰もいないのを確認してから後輩達と共用の自室に運んだ。

普段あんま隙のないなまえは酒が入ると寧ろ隙しかない。
そのギャップが唆るポイントだからこそ、外では飲まないでほしいのが本音。

弱いのは自覚あるみたいだし、付き合いもあるだろうから注意したことはないけど

今回は少し、…いやかなり、ヒヤッとした。


蓋を開けてペットボトルを手渡すと何口か飲んでからまたすぐウトウトし始めて、取り上げる前になまえの手からボトルが滑り落ちた。


「つ、つめたっ、」

「だろうね。…タオルと着替え持ってくるから、ちょっと待って」

「やだ、行かないでっ裏道さん…」


人の気もしらないで、マイペースな酔っ払いに甘えるような声で呼ばれて真っ赤な顔したまま袖を引かれる。

浅く息を吐いて、布団に足を崩して座るなまえに目線を合わせるようにして屈んだ。


「…なに、実は煽ってんの?」

「だって、っせっかく二人きりになれたのに…すこしでも長く、一緒にいたい。」

「やっぱだめ」

「だ、だめ?一緒にいるの、っ嫌って…こと?」

「じゃなくて…もう何があっても外で酒飲むなよ、絶対」

「んっ…!」


口を塞いで流れるように細い身体を押し倒す。
ただでさえ体格差があんのに酔っ払ってたらもう、主導権なんてこっちのもんで。
逃げるなまえの舌を絡めて、はだけた着物から覗く足の間に膝を捩じ込んだ。

背中に回ってる手にいつも以上に力が入って服を強く握られる。
何回こういうことしても未だに息が上がって悶える姿にたまらなく心を掴まれてつい、どうしても苛めたくなる。

唇を離して首筋を伝いながら鎖骨と肩の間に歯を立てた後、強く吸い付いた。


「やっ痕、見えちゃうから…っだめ」

「ここなら隠せるだろ」

「温泉!まだ…明日、も入るからっ」

「…なら、上手いこと誤魔化して」


少し酔いが醒めたのか、頭をぐいぐい押し返されたが両手を掴んで布団に押し付けた。
何個か痕をつけて顔を上げると、熱っぽく揺れてる瞳と目が合って。…そんな顔されると多少の罪悪感はあるものの、それ以上に唆られるもんがある。


「っうらみちさん…、今日は優しくないっ」

「優しいだろ、充分。それともやっぱ、池照くんみたいのがいいって?」

「池照、くん?」


何故ここで池照くん?みたいな顔されて露骨に視線を逸らす。

温泉での会話が丸聞こえだった、とは口が避けても言いたくないし。

昔の話だろうし、今は俺のものなんだから気にする必要なんて微塵もないのに。
それでも大人気なく独占欲を剥き出しにしてるのは単純にあの時挙がった名前があまりに俺とは違うタイプだったから。…子供みたく拗ねた、それだけなんだけど。


「っ私が好きなのは裏道さんだけ、っこれからもずっと、わたしは…」

「わかったから、一旦黙って」


まさかそんな真っ直ぐな答えが返ってくるとは。
自分から仕掛けたはずなのに逆に不意打ちを食らって、誤魔化すようにまた口を塞いだ。


「…はぁっ、うらみちさ…ひ、人来ちゃうかも…だから、」

「自分から沢山煽っといて、…今更やめられるわけねぇだろ」

「っだって、」

「やじゃないくせに」


なまえの浴衣の帯を解き胸元に手を伸ばしたとこで、俺の羽織ってた半纏のポケットからチャリンと音を立てて畳に滑り落ちた物。

俺の動きが一瞬止まったとこで、なまえが手を伸ばしてそれを拾い上げる。


「鍵?…裏道さん家の、?」

「…それ、今日の朝渡そうとしてたやつ。俺のうちのスペア」

「え、じゃあ…合鍵?」

「いつでも好きな時来ていいから。なんなら来て。

………俺が会いたいから」


やたら語尾が小さくなった。酒とは関係なしに赤くなったなまえの耳に誤魔化すように噛みついてみたら大きく身体が跳ねて。

こいつが思うほど優しくないし、ほんとはこれでも独占欲抑えてる方。
噂になるのは嫌だけど変な虫がつくくらいなら付き合ってんの周りにバラしてもいいか、なんて最近では思い始めてる。

こいつも厄介な男に引っかかったなとは自分で思うけど、今更離すつもりはないからそれはこの先も、ずっと黙っとくことにする。





目が覚めて気づいたら朝だった。


いつの間に自分の部屋にいて、隣では同じくお酒くさい詩乃さんが熟睡していた。

二日酔いなのか頭が痛い。なんだかすごくリアルな…凄まじく恥ずかしい夢を見ていた気がするんだけど、


干してあったタオルを持って眠気覚ましの朝風呂に向かう、大浴場の暖簾の前で鉢合わせした。…裏道さんに。


「おは、おはようございます…」

「おはよ」


吃る私とは裏腹、いつも通りな裏道さんにやっぱり今までのことは夢だったか。と胸を撫で下ろしたのも束の間、


「見えてる。ちゃんと隠した方がいいよ、それ」

「え、」


言ってここ、と自分の鎖骨を指差した裏道さん。固まる私に薄ら口元を緩めると、そのまま男湯の暖簾を潜って行ってしまった。背中を見送って我に返ってから、お風呂の鏡で見てみたら鎖骨…だけじゃなく他にもなんだか沢山赤い痕が残ってて、


「ゆ、夢じゃなかった…!」


ついでにいつの間に羽織っていた半纏のポケットから裏道さん家の合鍵が出てくるまで後少し。


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露草