つぎに目をあけたとき

無言で名前と対峙してからどれくらいの時間が経っただろう。30分、それとも1時間、いや、むしろ5分も経っていないかもしれない。名前のいつも俺に向けるあの眩いばかりの笑顔は鳴りを顰め、ただただ俺を見つめていた。



そして、二人の間に流れていた永遠とも感じられる沈黙を破ったのは名前であった。


「私さぁ、」
「ああ」


いつもなら俺に返事をする隙も与えず、俺が話を聞く体勢をとっていなくともそのまま自分の話したいことを続ける名前だが今回は歯切れが悪い。




「死ぬまで凌牙と、一緒に生きたかったなあ」



切なく寂しげでやりきれなさを含んだ声色だった。ずっと一緒にいて初めて聞くような声だった。


名字名前との関係を言葉にするのは難しい。恋人ではなかった。しかし、友達と言うには深く、親友という括りには収まりきらない女であった。璃緒にはよく、ほかの男のものになる前にさっさと自分のものにしておきなさいよ、なんて言われていたが、俺はそれをうるさく思っていたし別に自分のものになんてするつもりはなかった。あいつはうるさくて我儘でデュエルはそんなに強くなくて、何よりも自由が似合う女だった。だから俺とあいつの関係を言語で括る必要なんて感じてなどいなかった。あいつの傍に俺がいて、俺の傍にはあいつがいる、それだけでよかった。







よかった、はずだった。
いや、本当は心の奥では気がついていたのかもしれない。このタイミングで自分の気持ちに素直になるなんてなんて皮肉だろうか。

「……」

俺が思考に耽ている間、再び俺と名前の間には沈黙が流れた。そしてそれを打ち破ったのもまた名前であった。

「あ、でも私が死んじゃうから願い叶うのか!」
「………」

おいバカ、無理やり元気そうに振舞ってるのなんて分かるんだよ。声が震えてるし泣きそうな顔してるの気がついてねえのかよ。

「ねえ、」
「……」
「…何か言ってよ」
「…………わるい」

俺があいつに何か言う資格なんて持ってるはずなんてなかった。なぜなら俺は今からバリアンのナッシュとして人間界を滅ぼすのだから。

「いいよ、凌牙が決めたことなんだから」

なんでこんな時だけ物分りが良くなるんだよ。いつもみたいにバカみたいにうるさくしながら我儘言えよ。なんで、なんでそんなに悲しそうな顔して笑ってるんだよ。






「でもね、ほんとは、欲を言うとさ…………」
「………」
「わたしも、バリアンが、よかったなあ。そしたらずっと、ずっと凌牙と一緒にいれたのに」



叶えられることなら俺だってそのお前の我儘叶えてやりてえよ。


「…悪い」
「謝らないでよ」
「俺も…」
「……」
「お前がバリアンだったら、よかったって思う」
「……うん」


もし俺がバリアンじゃなかったら、もしあいつがバリアンだったなら、もしあいつと出会っていなければ、なんて色んなifを想像した。無駄なことだとはわかっていた。どうしたって現実は変えられない。俺はバリアンのナッシュで、あいつは人間の名字名前だ。

「ねえ、凌牙!来世ではずっと一緒にいようよ」

………馬鹿野郎。
来世なんて遠くて待てるわけねえだろ。

「地獄で待ってろ!全部片付いたら直ぐに迎えに行ってやるから」
「ねえ!私、地獄行き確定なの!?」

やっと今日初めて名前が心から笑った。
やっぱり俺はお前のその笑顔が好きだ。

「凌牙いないと寂しいから出来るだけ早く迎えに来てね!」
「あぁ。我儘なお姫様をいつまでも一人寂しく待たせる訳にはいかないからな」


お前の我儘は絶対に叶えてやるから、お前がつぎに目をあける時には、その瞳には俺が写るように、なんて思ってる俺の我儘をお前が叶えてくれよ。



Top