誰にも渡しはしませんよ

「おはようございます名前さん!良かれと思って、お迎えにあがりました!」

愛しの彼女である名前さんが玄関から出てきたので開口一番に挨拶をしました。僕が迎えに来ることを知らなかった名前さんはとてもびっくりしていて、大きな目がいつも以上に開いています。そんな顔もまた可愛くてずっと見つめていたかったんですけど残念ながらそんなにのんびりしている時間はありません。

「名前さん、ほら早く学校行きましょう」

未だに驚いている名前さんの手を握って歩きはじめました。大人しく僕に促されるまま歩いている名前さんもまた可愛いです。

「驚きました?名前さんと1秒でも長く一緒にいたくてお迎えにあがりました!」

名前さんは僕より一学年上なので学校ではなかなか一緒に入れる時間がありません。なので朝の登校する時間は名前さんの時間を僕がもらいたいと思っているんです。


なんてことを一人で話してこんでしまいました。名前さんのことになると話が止まらないのは僕の悪い癖です。でも名前さんは僕の話を止めずに最後まで聞いてくれます。そんな優しいところも大好きです。

僕だけ話してばっかりなので名前さんからの話もなにか聞きたいな、と思っていると

「おーい!真月ー!」

後ろから遊馬くんの声が聞こえてきました。

「おはようございます!遊馬くん!小鳥さん!」

僕の姿を見かけたらしい遊馬くんと小鳥さんが走って来てくれました。

「真月くんおはよう。あれ、隣にいる女の子って?」

そう言えばお二人に名前さんのことを紹介するのを忘れていました。

「彼女は名字名前さんと言って、僕の大切な人なんですよ」
「真月くんの彼女さんかあ!可愛い人だね!
私は観月小鳥って言います」
「俺は九十九遊馬!よろしくな!」
「えっと、あの、」

恥ずかしがり屋な名前さんは小鳥さんと遊馬くんに対してどんな返事をしていいのか考えているみたいです。悩んでるところも可愛くてずっと見ていたかったんですけど困っている彼女を助けるのは彼氏の務めなので助け舟を出すことにしました。

「小鳥さん、遊馬くんごめんなさい、名前さんあまり初対面の人と話すのあまり得意ではないんです」
「そうなんだ!気が付かなくてごめんなさい!」

それでも小鳥さんは僕と名前さんとのことが気になるのか、いつから付き合っているのか、や、どんな所が好きなのかを僕に質問してきました。女の子はこういう話題がやっぱり好きですよね。僕も名前さんとのことついいっぱい喋っちゃいました。

いくつかの質問を答え終え名前さんのほうを見ると、こういう話題に興味のなかった遊馬くんは名前さんに興味の矢印が向いたらしく話しかけていました。

「名前さんって俺らより一つ学年が上だろ?どうやって真月と出会ったんだ?」
「じ、実は、」







「だめですよ」






遊馬くんと名前さんが話しているところに無理やり割り込んで、ぎゅっと名前さんの手を握りました。

「いくら遊馬くんにでも大切な名前さんとの出会いは教えられません!内緒です!」
「そうだよ遊馬!2人だけの大切な秘密ってあるんだから!」
「へー、そういうもんかよ〜」

そんな話をしながら歩いているといつの間にか学校に着いてしまいました。本当は二人きりで登校したかったんですけど名前さんのことを遊馬くんと小鳥さんに紹介できる良い機会だったので良かったです。

「じゃあ名前さん一旦ここでお別れですが、帰りも良かれと思ってお迎えにあがるので教室で待っててくださいね!」
「名前さん今度ゆっくり話そうね!」
「またな!」

名前さんと会えない間は悲しいですが、帰りも一緒に帰れると思うと今日1日頑張れる気がします。


「真月くんなんか嬉しそうだね」
「はい!名前さんと行きも帰りも一緒なんて幸せですから!」
















やっと一人になれた と、ほっと息を吐く。

朝から驚いた、だって顔も名前も知らない男の子が家の前に立ってて私の名前を呼びながら迎えに来た、なんて言うから。
しかもその子は私と自分が付き合ってると思ってるらしい。
途中でその子の友達らしい男女二人組が来てくれたからどうにかこの人とは他人なのって伝えようとしたけど握りしめられた手に恐怖を感じて結局何も言えなかった。勝手に帰りの約束も取り付けられてしまった。どうしようあのオレンジの子から逃げられる自信が無い。こわいこわいこわい、だれか、助けて。



ねえ、どうか悪い夢なら冷めてほしい



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