" April fool
月が二人を分かつ時
漆黒の星の名の下に
波にいざなわれて
我は参上する
怪盗――― "
「え、今なんて言った?」
『だぁーから、1412号よ!怪盗1412号!最近世間を賑わしてる怪盗よ!あんた知らないの?』
「いや…知ってる、けど…」
あたたかな陽気。少し浮き足立っているような季節、春。
眠気を誘ってくる季節、と言う方が私にはあっている気がする。
そんな季節の中、相も変わらず平凡な日常を送っている。
またあんな、非日常的なことが訪れようとしているとは思いもしないわけで。
それを彷彿とさせるように、私の携帯が着信を報せた。
表示された名前を見れば、懐かしい幼馴染み。
といっても、学校も違えば、住んでるところも近くはない。
幼い頃からよく連れていかれたパーティーで知り合い、仲良くなった子だ。
電話がかかってきたのもかなり久しぶりで、久しぶり、なんて典型文で挨拶を交わすと、いつものように高めなテンションで、思わぬことを喋り出したのだ。
"怪盗1412号"
そう―――怪盗キッド。
私の、つい先日までの非日常を作り出した張本人の名前を彼女が口にし、耳を疑った。
『ちょっとー、聞いてるの?』
「あ、あぁ、ごめん園子。で、その怪盗がどうしたって?」
『そうそう、その1412号がね、うちの所有してる宝を盗むって予告状出してきたのよー!それでどんな顔してるか気になっちゃってさー!』
「は、はぁ…」
どんな顔してるか、なんて。彼女は相変わらずユニークな性格をしている。日本を担う大財閥のご令嬢とは思えない。そこが彼女のいいところでもあるが。
それにしても、あのキッドが。思わぬ身近なところで予告状を出すなんて思いもしていなかった。複雑な気分だ。
『ね、ね、面白そうでしょ?久しぶりに名前にも会いたいしさー。よかったら来なよ。あーついでに、数日後にQセリザベス号でパーティーもあるのよ。』
「も、盛り沢山ね。相変わらずね、鈴木財閥。」
あはは、と笑う彼女も相変わらずだ。
彼女のことだから、パーティーは絶対参加だろう。
会うのが目的ならその前のも行くべきなの?なんて思うけど、キッドのことも気になるし、それに彼女にそんなこと言っても仕方ないだろう。
私も久しぶりに会いたかったのは事実だ。
『それよりも、あんたのとこはどーなのよ。
おば様の噂はよく聞くけどねー。』
「あぁ、うん。頑張ってるみたいね。」
『海外飛び回ってる一流デザイナー。ほんと、かっこいいわよねー。さすがとしか言いようがないわ。』
「そうね。私もそう思う。」
『おば様もパーティー来れるならって思ったけど、やっぱ忙しいかな?』
「そうね…最近は全然帰ってきてないし、すごく忙しいみたいだから。」
『そっか…まぁ、あんただけでも来なさいよ!そのときにあんたの話じっくり聞くわ!
あ、ついでに名前は会ったことないかもしれないけど、私の幼馴染みとかも来るからさ!紹介するよ!』
「うん、楽しみにしてるね。」
『OK!じゃあまた詳細メールで送っとくわ!』
「はいはい」
別れの挨拶を交わし、電話の切れた無機質な音が響く。
最後の最後まで明るい彼女に、なんだか元気をもらった気がする。
特に元気がなかったわけではないけれど。
それにしても。
彼女に会うこととかパーティーのこととかよりも、私の中で一番引っ掛かるのはやはり、怪盗キッド。
『――最も美しい星を頂いてごらんに入れましょう。』
キザな台詞と、彼のぬくもり。
思い出せば今でも顔に熱が集まるほど恥ずかしい記憶。
それはそれは、非日常な時間だった。
あれからキッドには会っていない。
もちろん、"キッド"ではない"本当の彼"には、よく会っているが。
キッドの噂とか、本人から色々話を聞いたりはしているけれど、私自身が、白を纏ったあの彼を見ることは、あの日以来なかった。あまり見られたくないのかな、なんて思っていたし。
そんなときに舞い込んだ、今回の園子からの誘い。
私はまた、あの白を纏った彼に会いたいと思っていた。
"本当の彼"に会っているのに、会いたいというのはどこか変な気もするけど。
でも、どちらの彼も、私にとっては大切な存在だから。
その姿が見たいと思ってしまうのだ。
そうこう考えていると、園子から詳細のメールが届いた。
「…米花博物館、ね。」
了解。と、シンプルに返事を返し、携帯を置く。
と、同時に、また着信を報せる音が響く。
今日はよく電話が来る日だな、なんて思っていたら、目に飛び込んできた名前を見て心臓がどきりと跳ねた。
一呼吸置いてから、通話ボタンを押す。
「…はい」
『名前ちゃん?オレ!』
「名前見たらわかるよ、黒羽くん。」
『んだよー。しかもまた黒羽くんって言うし。』
「あー…はは。」
名前で呼べ、なんて言われたのはつい最近のこと。
今まで苗字で呼んでいた彼も何故か私の下の名前で呼び出したし、慣れない。すごく慣れない。
「それで、どうしたの?」
『そーそー。今暇かなって思って。』
「今?」
『暇だったらさ、オレとデートしねぇ?』
「え…っ」
デート?今デートって言った?
動揺する私をよそに、おーいとか呼びかけてくる黒羽くん。
待って。待って。
デートってどういうことだ。
「あ、あの、黒羽くん…?」
『ん?』
「で、デートなの…?」
『え、ダメ?』
「だめじゃない、けど、」
『名前ちゃん、』
「な、なに?」
『オレは、名前ちゃんとデートしたいんだけど。』
「ぅ…」
ずるい。ほんとにずるい。
黒羽くんにそんなことを言われたら、行くとしか言えないじゃない。断るつもりだったわけじゃないけど。
デート、か。
『ね、オレとデートしてくれる?』
「…はい。」
『ありがと。すぐ出れそう?』
「ちょっと準備したら、出れるよ。」
『では、お迎えに上がりますので、ご支度をお願い致します。お嬢さん?』
突然かしこまった口調になる黒羽くん。誰かさんを思い出させるその口調に、つい笑みが零れる。
「もう、なにそれ。」
『雰囲気出るだろ?』
「はいはい。」
『んだよー。つれねーの。』
「ごめんね?」
『いーよ、これからデートするから』
「…うん。」
『じゃあ準備して待ってて!』
「はーい。」
通話が切れて、一息つく。デート、デートだって。
少しにやける頬を抑え、時間がないと焦り、急いで支度を始めた。
next.
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