"よくわからない関係"なのかなって思っている。彼と私は。
ただのクラスメイト?に、キスしたり抱きしめたりするのかしら。
でも、好き!とか、付き合おう!とかなったわけでもない。
"友達以上恋人未満"?
それもなんだか違う気がする。
かと言って、私は誰にも言えない彼の大切な秘密を知ってしまっている。
幼なじみっていうのも、違う気もする。
でも、彼が大切な存在だというのは確かで。
私が彼に恋心のような何かを寄せているのも、自覚している。
彼がどう思っているかはわからないけれど。
言うなれば、私は彼にとって、"秘密保持者"なのかしら。
なんてね。
「な、な……え?」
「…なによ、変?似合ってない?」
急いで準備をしてちょうど終わった頃、タイミングよく呼び鈴が鳴った。
扉を開けて目があった黒羽くんは、くりくりな瞳をぱちくりさせて、口をあんぐりと開けている。
デートって言われてちょっと気合い入れて、軽くメイクしてお気に入りの白のワンピースを着てみたけど、気合い入れすぎたかしら。
こいつ気合い入れてやがるとか思われたかしら。…それは嫌だな。
「…やっぱ着替えてくる」
「ま、待って!」
「…っ、…なに…?」
「そのままでいい、いや、そのままがいい!」
「そ、そう…?」
「かわいくてびっくりしただけだっつーの!」
「…っ…!」
この人は本当に、私の鼓動を乱すのが得意なんだな、なんて他人事のように思った。
目の前にそびえ立つのは、杯戸シティホテル。
その迫力とこの状況に、今度は私が口をあんぐりと開ける。
「く、黒羽くん、」
「黒羽くん?」
「…か、快斗くん、あの、なんでここ…?」
「いいからいいから」
楽しそうに笑う黒羽くん、…快斗くんは、呆然としている私の腕を引いて中へと入っていく。
どこへ行くのか聞かされずに連れて来られたのが、この辺りで有名で大きなホテル、なんて。びっくりするに決まってるじゃない。
豪華なロビーを抜け進んできたのは、ホテル内のレストラン。今の時間はランチバイキングをやっているようだ。
目の前に広がるおいしそうな料理に、生唾を飲み込む。
「こ、ここ高くない…?」
「大丈夫だよ、実はここのバイキングの無料チケットもらったからさ、だから気にせず堪能しようぜ!」
「そうなの?」
「こういうとこ嫌だったか?」
「ううん、そんなことないよ!びっくりしただけ。」
「そっか。せっかくだしいっぱい食おうぜ!」
「そうだね。」
「なに笑ってんだよ。」
「なーんでもない!」
こんなやり取りが、なんだか嬉しい。
一高校生がこんなところで食事なんて、ちょっと背伸びして大人になった気分。
そんなことを考えていたら、また手を引かれた。
腕を引かれていたのが、いつの間にか指が絡まっていて、所謂恋人繋ぎに変わっている。胸がむず痒い気分。
くすぐったくて、苦しくて。
こんなにドキドキしてるのは、私だけだろうか。
彼は、どう思っているんだろう。
鞄を置いて料理を取りに行く。
お皿いっぱいに料理をよそう快斗くんに笑ったり、私のお皿に盛り付けられた魚料理を見た快斗くんがものすごく怯えたような顔をするから笑ったり、笑いすぎだって怒られたり、拗ねてる顔の快斗くんが可愛くて頭を撫でたら嬉しそうな顔したり、そんな快斗くんに、ドキドキしたり。
こんな幸せでいいのかってくらい、いっぱい笑って、料理もおいしくて。楽しい。
座っている窓際の席から見える町並み。とても素敵な街に思える。
私が浮かれているから余計かもしれない。
そういえば、杯戸町に来たのは久しぶりだ。
いつ以来だろう、なんて考えていると、今朝の電話を思い出した。
園子が言ってた米花博物館って、確かこの辺りだったかしら。
あ、と開きかけた口を紡ぐ。
快斗くんに、キッドの話をしようかと思ったけれど、内緒にしておこうと思ったからだ。
私がいたらびっくりするかもしれない。そう考えたら、なんだかもっと楽しみになってきた。
「どうした?」
「ん?ううん、なんでもないよ。」
「そっか。あ、オレちょっとトイレ行ってくっから、食べて待ってて。」
「わかった。」
「悪ぃ、すぐ戻るな。」
「ん。いってらっしゃい。」
片手を上げて謝り、レストランを出ていく快斗くん。
そんなに謝る必要ないのに、と頭の片隅で思いながらもパスタを頬張る。おいしい。
あんまり食べすぎたら太るかな、なんて思うけど、おいしすぎてこれは食べすぎてしまいそうだ。夜減らそう。
最初のうちはおいしい料理に気を取られていたけど、なかなか帰ってこない快斗くんの心配と寂しさがこみ上げてきて、さっきまでの楽しかったのが嘘みたい。
時間がかかってるみたいだけど、何かあったんだろうか。
軽くため息をついて、気を取り直してデザートを取りに行こうとした矢先、目の前にピンクの可愛らしい小さなバラが現れ、思考が止まる。
驚いた顔で振り返ると、予想通り、そこには快斗くんがいて、少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。
「お待たせしました、お姫様。」
「お姫様って…もう。」
「はは、わりぃな、ちょっと迷っちまってよ。」
「快斗くんが迷う…?」
そんなことあるんだろうか。そんなイメージはない。
何か引っかかるけど、あんまり深く聞いてはいけないのかしら。
深く考えそうになった思考を頭の隅にやって、あ、と思い出したように口を開く。
「おかえりなさい。」
ぱちぱちと瞬きをする快斗くん。
驚いて言うタイミングを逃してしまったから今言ってしまったけど、変だったかな。
「なぁ、もっかい言って?」
「え?」
「もっかい。今の。」
「おか、えり…?」
あまりにも真剣にもう一回と言うもんだから、ちょっと動揺しつつも言うと、快斗くんはすごく嬉しそうな顔をした。
「な、なに?」
「なんか、すげーいいなって思って。」
「そう…?」
「うん。」
「なら、いいけど。」
「ただいま。」
微笑みながら"ただいま"という快斗くんの破壊力ときたら、上手く言葉にできないけど、とんでもなくすごかった。
どもってただ、うん、としか言えない私を見て快斗くんが笑う。
なんなんだ。なんなんだこれは。恥ずかしすぎないか。
誤魔化すようにデザートを取りに行く私を、後ろからにやにやと追いかけてくる快斗くんが、とんでもなく憎たらしいと思った。
next.
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