私は、海に嫌われているらしい。
幼い頃の記憶はほとんどないけれど、気が付けば私は極度のカナヅチだった。
周りにもカナヅチの子は何人かいたけど、私はその子達と比べ物にならない程で、幾度も溺れそうになった。周りからは過去のトラウマかもしれないと言われたけれど、そんな記憶もないからわからない。
しかし、私は今、そんな海に向かって真っ逆さまに落ちていた。
一面に広がる真っ青な海に。
そもそも私は海にいただろうか?
いや、そんなはずはない。
いつもの見慣れた街中にいたはずだった。
私は何故落ちている?
そうだ。私は、屋上から落ちたんだ。
人生で、恐らく初めてであろう、向けられた殺意によって。
けれど、それならば何故、海の上にいるんだろう?
向けられた殺意に、落ちる時の内臓の浮遊感に、眩暈と吐き気がして一瞬気を失っていた。しかし、気が付けば、海だ。
夢でも見ているのだろうか?これが夢であればいい。私はどうせ、泳げないのだから。
いやでも、そのまま屋上から落ちていたとしても、生き延びるとは限らない。
どちらにせよ、このまま身を委ねるしか無いのだろうか。
私は、死ぬのだろうか?
やっぱり私は、海に嫌われているかもしれない。
" ―――こっちだよ "
どこからか聞こえた声に、諦めから閉じていた瞼をそっと開けば、明るかった空はいつの間にか暗くなっていて、暗闇から舞降る雪が映る。あぁ、どうりで寒いわけだ。
よく見ると、真っ暗な空の左側だけぼんやりとピンク色に染まっていて、降っている雪も少しピンク色のものが混ざっている。不思議に思い、吸い寄せられるようにその光を辿れば、目の前に広がる光景に驚愕した。
大きな、桜だ。
雪の降る島に、大きな大きな、夜桜。
見たことのない絶景に、目の奥がじわりと熱くなる。
こんな景色が見れるのならば、私は、
もう少しだけ生きていたいと思ったんだ。
気が付けば海面がだいぶ近付いている。むしろ随分ゆっくりと落ちているようだった。
このスピードならば、海に叩きつけられることはないかもしれない。ぐるりと下を向いてみれば、そこには海にゆらゆらと浮かぶ船。島に停泊させているであろうその船に、私の体は突っ込もうとしているではないか。
えっ、と焦ったのも束の間、ゆっくりと落ちているはずだった体は支えを無くしたかのようにスピードを上げて船の上にある数本の木の間へと落ち、体と頭をぶつけ、私はそのまま意識を失った。
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