船首で船の進路を確認してるナミの横で、私も航路の先を眺める。どこまでも広がる海。この先、一体どんな島に辿り着くんだろうか。
突然、波が大きく船を揺らす。わっ、と体制を崩しかけたが、なんとか持ち堪え、ザバァ!!!と大きな音がした方を振り向くと、見たこともない大きな…ねこ…!?
「なんか出たァ!!!」
「海ねこ!!!」
「っっア゛ア゛〜〜〜〜!!!」
「海獣だ〜〜〜〜っ!!!」
「か、海獣…!?」
あ、あんなに大きな生き物見たことがない…!!顔はちょっと可愛いけど…いやでも大きすぎて恐怖を感じる。怖いもの見たさで船尾の方へ行けば、その迫力はさらに増した。で、でか…!!!
「4日ぶりのメシだァ!!!」
「メシだぁ!!!!」
確かに私達はここ数日まともに食事を取れていない。まぁそれは、盗み食いをしたルフィ達のせいなんだけれど。それでもなんとかスープなどの食事を用意してくれるサンジくんに感謝しかないが、ルフィはずっとお腹を鳴らし続けていたので、人が変わったような様子で海ねことやらを退治しようとしている。
そんな船尾側とは打って変わって、ナミは冷静に進路を確認していた。こちら側からは魂の叫びのようにメシ―――!!!と叫ぶ声が響き、その剣幕に恐慄いたのか、海ねこが後退る。船バック!!バック!!というルフィの無茶ぶりに、ナミができるかァ!!とツッコミを入れた。
「逃がすんじゃねェぞ、確実に仕留めろ!!!」
「だめっ!!!!」
ゴゴゴン!!と三連発音がして、ルフィ、ゾロさん、サンジくんの3人は倒れた。攻撃したのは、なんとビビだ。
その隙に、海ねこは海底へとあっという間に逃げて行く。
「な…なんで!?ビビちゃん…!!!」
「ビビ、コノヤロ何すんだァ!!!」
「食べちゃだめなの!アラバスタで海ねこは、神聖な生き物だから。」
「!!」
アラバスタで神聖な生き物がこんな所に。ということは、やっぱり近づいてきているんだろうか。アラバスタに。てかあの巨大なねこが神聖な生き物とは…世界には色々あるな。
腰を抜かしていたらしいウソップは立ち直り、チョッパーにカームベルトで海王類と勇敢に戦った時の話とやらをしようとしている。カームベルトって…なんだっけな。後でまた本を読もう。
「く…くいもんが逃げた…」
ガジガジと柵を泣きながら噛んでいるルフィ。よっぽどお腹が空いているんだろう。
「だけど安心して。もうすぐお腹いっぱい食べられるから。」
「本当か!?今度は何ネコが出るんだ!?」
ビビの言葉にルフィが眩しいほどの笑顔を向ける。なんでネコ縛りなんだろう。いや、ルフィ面白いな。
「ビビ!風と気候が安定してきたみたい。」
「ええ…アラバスタの気候海域に入ったの。海ねこが現れたのもその証拠。」
「後ろに見えるあれらも…アラバスタが近い証拠だろう。」
「後ろ…?」
船尾から遠く見える海の上には、何隻もの船が私達と同じ進路で向かってきている。
「船があんなに!!いつの間に!!?」
「おい、あれ、全部B・Wのマーク入ってんじゃねェか!!!」
「社員達が集まり始めてるんだわ…!!」
「あれは恐らく『ビリオンズ』!!オフィサーエージェントの部下達よ…」
「敵は200人はかたいって訳だ…」
「200人…そんなにいるの…」
「ええ。それもB・W社精鋭の200人。ウイスキーピークの賞金稼ぎとはわけが違う!!」
ウイスキーピークと言うと…確かビビがルフィ達に会った場所だったと聞いたけれど。賞金稼ぎってことは、やっぱり海賊だから手配書?みたいなものがあるのかな。また後で見せてもらおう。
「い…いい…!!今のうちに砲撃するか!!!」
「行ってぶっ飛ばした方が早えよ!いやまて!!メシ食うのが先だろ!!」
「バカ、気にすんな。ありゃザコだ!!」
「そうさ!本物の標的を見失っちまったら終わりだぜ。こっちは9人しかいねェんだ。」
そう、これから向かうのは戦場。私達はこれから、戦いに行くんだ。
「とにかくしっかり締めとけ。今回の相手は謎が多すぎる。」
ゾロさんが言っていた“対策”。ナミが私の左腕に、私はビビに、ビビはナミにそれぞれその印となる包帯を巻き付けた。
「なるほど。これを確認すれば仲間を疑わずに済むわね。」
ゾロさんの名案に、頭いいな、と感心する。これならきっと大丈夫だ。
「そんなに似ちまうのか?その…“マネマネの実”で変身されちまうと……」
「そりゃもう“似る”なんて問題じゃねェ。“同じ”なんだ。おしいなーお前見るべきだったぜ。」
「おれァ、オカマにゃ興味ねェんだ。」
「おれ達なんか思わず踊ったほどだ。」
「あんな奴が敵の中にいるとなると、うかつに単独行動もとれねェからな!!」
本当に、その通りだ。その場にいない誰かに化けられたら、相手の思うツボになりかねない。その為の“対策”ではあるけど、ないに越したことはないだろう。
「なあ、おれは何をすればいいんだ!?」
「あ、それは私も知りたい。」
チョッパーの疑問に、私も便乗する。こんな私でも、何か役に立てるのだろうか。
「できることをやればいい。それ以上はやる必要ねェ。勝てねェ敵からは逃げてよし!!精一杯やればよし!!」
「お前それ自分に言ってねェか?」
「クエ!!!」
「おれにできることか……わかった!!」
「私も、できることやる!!」
「名前ちゃんは、おれのそばにいてくれ!!」
何故かハートを飛ばしながらそう言うサンジくん。……私が頼りないからそばにいた方が安心なのかな?
とにかく、ウソップの言う通り、私にできることをやろう。
「港に近付いてきたぞ。」
「西の入江に泊めましょう。船を隠さなきゃ。」
「あれが……アラバスタ。」
見えてきたひとつの島。私がこの世界に降り立ち、初めて辿り着いた島。ビビの故郷。そして、平和の為に戦う国。
ずい、とルフィが左腕を伸ばし声を上げる。それに倣い、私達は円になり、左腕を伸ばした。
「よし!とにかくこれから何が起こっても、左腕のこれが、仲間の印だ。」
仲間の印。それは、とても心強くて、胸が温かくなる響きだ。
「………じゃあ、上陸するぞ!!!メシ屋へ!!!!あとアラバスタ」
「ついでかよ!!!」
こんな状況でも、相変わらずなルフィだからこそ、安心できる。ルフィに、本能での行動はつつしんで!と必死に言い聞かせるナミと、分かってるのか分かってないのかよくわからないけど返事だけはいいルフィ。戦いが目前だというのに、彼らとならば。私は思わず声を出して笑った。
その直後。ルフィはメシ屋と大きな声で叫びながら船を飛び降り一目散に走って行ってしまった。この海賊の船長は、自由すぎるな。やっぱりルフィって、面白い。
「どうしよう。『ナノハナ』の町は広いから、ルフィさんを探すとなると大変よ!」
「心配ねェよ、ビビちゃん。町の騒がしいところを探せばいい。いるはずだ。」
「ははは、そりゃいえてる。」
「それより、あいつにはもっと自分が賞金首だってことを自覚をしてほしいのよね。こういう大きな国では特に…!!」
「放っとけ。どうにでもなる。とにかくおれ達もメシを食おう。考えるのは全部その後だ。」
「そうだね。後、着替えとか欲しいな…」
船から降りた私達が真っ先にしなくてはいけないのは、ゾロさんの言う通り、食事だろう。腹は減ってはなんとやら、という言葉があるくらいだ。空腹では力も出ないだろう。ルフィもあんな勢いよくご飯を求めて走っていくくらいだし。真意は謎だけど。
「待ってあれは……!!Mr.3の船!!」
「何!?」
「……まさか…あんにゃろ、くたばってなかったのか…!?」
「あの船は確か“ドルドルの実”の能力を動力にしてるはず……来てるんだわ…この国に…」
「Mr.3って、ええっと確か……」
「この前話した、キャンドルの能力を持つエージェントよ。」
「ああ、そっか。キャンドルのドルね。思い出した。あれ、でも倒したんじゃなかった?」
「そのはずなんだけどよ。しつこいやつだなー。」
倒したはずの敵まで、この国に来ているのか。それにしても、キャンドルの能力ってどういうことなのか全然想像つかないな…悪魔の実って、変な能力多いんだな。
私達は町のハズレに身を潜め、ビビとカルーは顔が割れてる為迂闊に歩けないので代わりにサンジくんとチョッパーが買い出しに行ってくれるのを待つことになった。
待つこと暫く。サンジくんとチョッパーが戻ってきて私達はなんとか喉とお腹を満たすことが出来た。しかし、サンジくんがルンルンで帰ってきた意味を深く考えていなかったことを、後悔することになるとは思いもせず。
「素敵っ♡こういうの好きよ!私!!」
「でも…お使い頼んで何だけど、サンジさん、これは庶民というより踊り娘の衣装よ…?」
「いいじゃないか、踊り娘だって庶民さ〜♡♡要は王女と海賊だとバレなきゃいいんだろ?」
「でも砂漠を歩くには…」
「大丈夫、疲れたらおれが抱っこしてあげるしよ、ホホ♡」
美女2人に露出度の高い踊り娘の衣装を着せることに成功したサンジくんは上機嫌。それに引き換え、私の気分はダダ下がっていく。
「ほら、名前、いつまでそんなとこで縮こまってるのよ。観念しなさい!」
「や、ちょっと…!ナミとビビみたいにスタイルよくないんだからほんと無理…!サンジくんのバカ…!!」
「なーに言ってんのよ、アンタだって十分じゃない。ね?サンジくん。」
「ん?」
2人にデレデレしていたサンジくんはナミに呼ばれて縮こまって隠れていた私の方に視線を向ける。目がバッチリと合い、サンジくんは固まった。私が今着ているのは、ナミのともビビのとも少しデザインが違う、肩が丸出しのチューブトップ(ノースリーブの上着はあるけど)にレースが施された付け袖、お腹も勿論丸出しで、下はレースのフリルが少し多めなロングスカート。他に用意されていたアクセサリー類はまぁ…好きだけど。いやこの衣装も見る分にはいいんだけど。自分が着るとなると話は別だ。
いたたまれずに視線を逸らしそうになったが、サンジくんは天を仰ぐように上を向き、目を掌で覆った。そんなに見てられないほど酷いってことか。
「もういいって、私別の服に」
「天使すぎるぜレディ……………」
「え゛っ」
サンジくんはいつの間にか目の前に来ていた。いつもの(最近見慣れてきた)メロリンした顔を浮かべていたので、ああ、こんなんでもいいのか。と少しだけ安心してしまった。サンジくんの女好きにほんの少し救われている気がする。
「…しかし、美女3人に比べておめェらときたら…海賊をカモフラージュしてもせいぜい盗賊だぞそりゃ!」
「てめェとどう違うんだよ。」
「ん?チョッパー、お前なにやってんだ?」
チョッパーは寝転び、鼻を押さえながら悶えているようだ。
「鼻が曲がりそうだ」
「?」
「…そうか。トニー君は鼻がききすぎるのね。『ナノハナ』は香水で有名な町なのよ。」
「香水?」
「中には刺激の強いものもあるから…」
「これとか?」
ナミがサンジくんにお使いを頼んでいた香水を手にシュッシュと振り撒くと、チョッパーは鼻を押さえ悶絶しながらやめろと叫ぶ。確かにちょっとスパイシー系の香りがしていて、鼻が効きすぎるチョッパーにはキツイかもしれない。その横でサンジくんはメロリンしていて、ゾロさんがそれに対してアホかと言い放ち、またも喧嘩が勃発しそうになった。しかしメロリンラブって面白いな……
そんなサンジくんは私にも香水を買ってきてくれていて、可愛らしい装飾が施された小瓶に入ったそれは、フローラルな香りがしている。とてもいい香りだ。サンジくんは中々いいセンスをしている。ここで振り撒くとまたチョッパーの鼻が大変そうだから今はやめておこう。
香水で有名な町、か。
「名前さん、どうかした?」
香水の瓶を眺めたり蓋を開けて匂いを嗅いだりしながら色々考えていると、ビビが声をかけてくれる。心配させてしまっただろうか。
「あぁいや、香水で有名な町っていうのが、個人的に気になって。色々終わったら、ゆっくり見て回りたいなって思ってたの。」
「おれが買ってきたの、気に入ってくれたかい?」
「もちろん。とても良い香りだし、何が調合されてるのかなとか、どんな風に作ってるのかなとか、この町の手法とか何が有名なのかが気になって。」
「調合、って、あんた中々変なところ気になるのね?」
「あ、そっか。まだ言ってなかったっけ。私、調香師見習いなんだ。」
「「「調香師??」」」
私の言葉に、皆が首を傾げた。
「ちょーこーし?ってなんだ?」
「調香師。つまり、香りを調合する人のこと。香水とかが主に有名だけど、他にも色々、香りに纏わるもの全ての調合をするの。最も、私はまだ見習いだからまだまだ勉強中なんだけど…もっとたくさんの調合をして一人前になって、世界中のたくさんの香りを知って、最高の香りを調香したいんだ。」
「素敵な香りを生み出せる名前ちゃん…なんって素敵なんだ…!!」
「いいじゃない調香師。男くさい船がいい香りになるわね。」
「男くさいってお前な…でもそれなら、おれの新兵器開発の参考にもなりそうだ!」
「名前ってスゲェんだな…!」
「そうね、とっても素敵な夢だわ。全て終わったら、ぜひこの町を案内させてちょうだい。」
「うん、ありがとうビビ。」
皆が私の夢を認めてくれる。素敵なのは皆の方だろう。皆にもきっと、夢があるんだ。また、そんな話が出来たらいいな。
「とにかく、これでアラバスタの砂漠を越えるための物資は揃ったわけだ…」
「ビビ、これからどこへ向かうって?」
「ええ…まず、何よりも先に“反乱軍”を止めたいの!またいつ暴動を起こして無駄な血が流れるかわからない。そのために、リーダーのいる“反乱軍”の本拠地、『ユバ』というオアシスを目指すわ。」
ユバへ行くには…とビビが言いかけた時、ゾロさんが隠れろ、と声を上げ手を引いた。壁に身を隠し、町の方を向けば何やら騒がしい。
「海軍だ。何でこの町に……!?…しかもえらい騒ぎ様だぜ…海賊でも現れたか。」
白い帽子を被った兵隊らしい人達、あの人達が海軍…?逃がすなと叫びながら誰かを慌ただしく追いかけているようだ。一体どんな海賊が…と目を凝らしていると、なんと…
「「「(お前か―――っ)」」」
その場にいた全員思わずズッコケてしまったが、なんと、追いかけられてるのはルフィだ。こっちに来ないで、という願いも虚しく、ルフィは大きな声で、よう!!ゾロ!!!と叫んでしまい、私達はあっという間に海軍に見つかってしまった。
「麦わらの一味がいたぞォ!!!」
「バカ!!てめェ一人でマいて来い!!!」
「お!みんないるなー!!」
ルフィは海軍達を引き連れこちらへ向かってくる。私達も急いで逃げなければ、皆で捕まってしまう…!
「逃がすかっ!!!“ホワイト・ブロー”!!!」
海兵さん達とは違う服装をした大柄な男の人が前へ出てきてルフィへと技を放った。まずい…!!
「危ない…ルフィ!!」
「“陽炎”!!!」
「!!?」
「え!?」
ルフィに放たれた技が、何者かの技、火によって止められる。一体何が起こったの…!?
「………!!?てめェか。」
「やめときな。お前は“煙”だろうが、おれは“火“だ。おれとお前の能力じゃ勝負はつかねェよ。」
「誰なの……!?あれ。」
「………………………エース……!?」
ルフィを助けてくれた人。火を纏う彼は、ルフィに”エース”と呼ばれた彼は、ニッと笑う。私の心臓は、どくんと波打った。
「変わらねェな、ルフィ。」
見覚えのないはずの姿に、胸の奥がじわりと熱くなる。まるで、ルフィに会った時と同じように。私は、この人にも会ったことがあるのだろうか。
「とにかく、コレじゃ話もできねェ。後で追うからお前ら逃げろ。こいつらはおれが止めといてやる。」
大きな、逞しい背中を向けた彼は、行けっ!!と叫び、ルフィの行くぞっ!!という声に私達は弾かれたようにその場から逃げ出した。何、誰なの!?という皆の疑問に答えがないまま、私達は何処へ向かうのかとにかく走っている。するとビビが、一度船に戻ろうと提案した。
「船に乗る!?島を出るのか!?」
「ううん、船で河から内陸へ入るの…そしたらその先は砂漠よ!『ナノハナ』に寄ったのは、必要物資の調達のため!」
「急げ急げ、海軍が来るぞっ!!」
「乗り込んでイカリを上げろ!!」
バタバタと目前の船へ向かって走っている中、ルフィは後ろを振り向いたまま走り、先程エースと呼ばれた彼のいた方向を見つめている。
「やー、まさかこんなところでエースに会うとは思わなかったな。」
「あの、ルフィ…エースって……」
「ルフィ!!さっさと乗れよ。」
「あー」
ビビはカルーを呼び止め、何やら話をしている。何か大事な頼み事をしているようで、私も先に船に乗ろうとしていると、ルフィに腰を掴まれた。
「え」
「よっと」
ルフィは私を掴んだまま飛び上がり、一緒に船に乗り込んだ。慣れないこの浮遊感。乗せてくれるのはありがたいけれど、毎回びっくりしてしまうのでせめて何か言ってからにしてくれないかな…。
カルーは船から去っていき、水をゴクゴクと飲んでいてビビに早速怒られていた。船に乗り込んだルフィも水を浴びるように飲んでいてサンジくんに怒られている。
うん、前途多難だ。
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