未定




「なにケータイ見てニヤニヤしてんだ。キメェ」
「チクチク言葉やめなさい」

 夏休みも中盤に差し掛かった頃。私は今日、久々に飛雄の家に遊びに来てきた。
 今日はバレー部がたまたま休みらしいので、久々に一緒にバレーのDVDを観ようという話になった。

「最近できた友達がさ、お父さんの小説の感想をメールで送ってくれたの。それがうれしくてつい」
「へぇー」

 あいかわらずぶっきらぼうな飛雄の返事は、今ではすっかり慣れてしまい日常と化していた。

「お父さんの読者層って、基本的に大人の人ばっかりだから、若い人が読んでくれるとうれしいんだよ」
「お、今のブロックすげぇ」

 飛雄はもう私の話に興味を失い、私が持ってきたバレーのDVDに夢中になっている。これも今では慣れたもんだ。

「やっぱりタッパあると迫力あるね」
「読みもすげぇな」
「この選手がいると、どっから打っても壁を感じそう」

 海外選手のプレーに圧巻され、ふたりで試合運びについて語り合う。バレーの話なら飛雄も興味を失うことなく、長く続く。これも今では当然にわかっていることだ。

「千早ちゃん髪伸びたね」
「でしょ? 肩まで伸ばしたの久々だよ」

 美羽ちゃんは、少し伸びた私の髪でヘアアレンジをして遊んでいる。美羽ちゃんにやってもらうと、いつも髪が綺麗になるから、私も好きなようにやらせていた。

「いつも飛雄に構ってくれてありがとね。飛雄、家でも学校でもバレーばっかで友達いないからさ」
「うるせえ」
「いいんだよ。私も飛雄といるのは楽しいから」

 やはり飛雄には友達と呼べる存在はいないようだ。飛雄がそれでいいなら私も大して気にならないが、家族としては心配なのだろう。

「あ、ずっとテレビ取っちゃってごめんね。美羽ちゃんも観たいテレビあるんじゃない?」
「大丈夫だよ。髪やってるから好きに観てて」
「わかった、ありがとう」

 もう三本は観てるDVDも、あと二本は残っている。飛雄は全部観るつもりなのだろう。わかりやすいほど夢中だ。

「千早ちゃん、髪どこまで伸ばすの?」
「うーん、とりあえず背中までかな」
「じゃあ、髪の手入れのやり方教えてあげる」
「ほんと? 教えて!」

 美羽ちゃんが、髪を伸ばすなら手入れも欠かさないほうが良いとアドバイスをくれる。

「お風呂上がりの濡れた髪に、ヘアオイルかヘアミルクを毛先につけるといいよ。千早ちゃんは癖毛で広がりが気になるって言ってたよね? ならヘアオイル試してみたらいいかも」
「ヘアミルクとヘアオイルでどう違うの?」
「ヘアミルクはダメージが多い人向け。保湿力が高いの。千早ちゃんは癖毛だけどダメージは少ないから、ヘアオイルでしっとりさせたら良いと思う」
「両方使っちゃダメなの?」
「ダメージがひどくて乾燥してるなら良いと思うけど、千早ちゃんの髪なら両方使うとベタベタしちゃうかも」
「なるほどー。今日ドラッグストア行って、ヘアオイル買ってみるね」

 髪を大事にしている美羽ちゃんのアドバイスは、とてもタメになる。髪を伸ばすと決めたのだから、私も美羽ちゃんに倣って髪の手入れをがんばってみようと思う。

「飛雄も美羽ちゃんも直毛だからうらやましいなあ」
「直毛は直毛でめんどくさいよ。せっかく髪セットしても、すぐ取れちゃうの。癖毛のほうが髪巻いたりしたとき、形がしっかりつくから、そこがうらやましい」
「へぇー、癖毛も悪いばかりじゃないかも」

 そうは言っても、私に髪を綺麗に巻ける技術なんて持ち合わせていないので、今は縁のない話だ。

「もっと伸びたらヘアアレンジ色々教えて」
「いいよいいよー。いっぱい教えてあげる」

 髪の話になると、美羽ちゃんはうれしそうにする。髪を大事にしたくてバレーを辞めただけあって、美羽ちゃんの髪はとても綺麗なストレートヘアだ。癖毛のメリットを教えてもらったばかりだが、やはり私は美羽ちゃんの髪がうらやましいと感じた。

「あ、私そろそろ買い物行かなきゃ」
「もうそんな時間? じゃあ、今やってるアレンジ早めに終わらせるからね」

 美羽ちゃんは手際よくパパッとアレンジを済ませた。

「どう? いい感じじゃない?」
「めっちゃかわいい! 美羽ちゃんすごい!」

 美羽ちゃんから手鏡を借りて自分の髪を見ると、編み込みの入ったハーフアップに変身していた。

「さすがすぎる。サイコー」
「ふふっ、ありがとう」

 ちょうど髪のアレンジが終わったタイミングで、DVDの試合も勝負がついたようだ。飛雄は四本目のDVDに手を伸ばし始めた。

「そのDVD貸しておくから、終わったら返してね」
「おう」

 バレーの試合を観るのに夢中な飛雄は、こちらを振り向くことなく返事だけ寄越した。

「髪やってくれてありがとね」
「また遊びに来てねー」

 美羽ちゃんにも声をかけて影山宅を出ると、ギラつく太陽の日差しが私を急激に襲ってくる。
 熱中症になりかけた日を思い出して、なにか起きたとしても無茶はしないと気を引き締めた。

 今日は特売とかはないし、夕飯なににしよう……。

 暑いので、すんなり胃に入るものがいいかもしれない。つけ麺なんかどうだろうか。細かい工程も要らないし、腹にもたまる。

 うん、つけ麺にしよう。
 考えるのめんどくさくなってきた。

 料理のレパートリーが増えてきたとはいえ、毎日違う献立を考えるのは結構面倒くさい。麺のぬめりがついた鍋やザルを片付けるのはわりと手間だが、レシピとして考えるなら麺は楽だ。

 つけ麺にするならネギがほしいし、メンマとチャーシューも買わなきゃ。
 そういえば白髪ネギとかやったことないな。今日試しにやってみようかな。

 自宅に帰るがてら、買い物リストを頭の中に並べていると、ふとあることを思い出す。

「飛雄にバレーしよって言ってないな……」

 部活の邪魔をしたくなくて、時間の空いたときに言おうと思いつつ、タイミングを見計らっているうちに言いそびれてしまっていた。

 今度会ったときこそちゃんと言おう。
 言っておけば、飛雄から時間の空いたときに声かけてくれるかもだし。

 そう結論づけて、私はまた思考を買い物リストに戻した。