「明日も作ってやろうか?」
「お前の分もこれからは俺が作ってやる!」


そう宣言された翌日。
お昼休みの時間が来て、昨日はどうなったのかと詰め寄ってきたエビちゃんに事の顛末を話すと、エビちゃんは眉間に皺を寄せ黙ってしまった。
そして…彼女の口から飛び出たのはとんでもない一言。


「……それってさ、告白通り過ぎてプロポーズじゃん」
「プロッ…!? ごふッ!」


思わず飲んでいたコーヒー牛乳を吹き出しそうになり、我慢するが逆に気管に入ってしまいごほごほとむせる。
……い、今、この子なんていいました…?ぷ、ぷろぽ…


「プロポーズ! これから俺が作ってやるって、要するに一生俺の料理を食べてくれ…ってことでしょ!? いやー…やるわね、アイツ」
「いやいやいやエビちゃん!? ありえない! それは絶対ありえないと思うよ!?」


うんうんと頷き、なぜか一人納得しちゃっているエビちゃん…ダメだ、この子私の話聞いちゃいねえ。


「そ、そもそも瀬多くんが私のこと好きなわけないでしょ! わ、私エビちゃんみたいに可愛くて綺麗じゃないし…」
「そりゃ確かにあんたよりあたしの方が綺麗に決まってるけど」


耳の後ろに手をやり、ウェーブのかかった茶髪を払いながら流し目でこちらを見るエビちゃん。……うん、同じ女として少し悔しいけど、やっぱ美人だなぁ。


「でも、あんた知らないだけで結構隠れファンとかいんのよ?」
「えええっ、嘘だー!」
「嘘じゃないっつーの! 案外近くにいたりするかもよ? ね!一条くん!」
「へっ! え、ええええ俺!?」


彼…隣の席でお弁当を食べていた一条くんが、突然話を振られて弾かれたようにこちらを見て困惑している。その向かいでは、3組の長瀬くんが弁当箱を持ち上げてご飯を口にかきこんでいた。今日はこっちの教室で二人で食べているらしい。


「い、いや、いきなり振られても…!」
「そうだよエビちゃん、一条くんは関係ないでしょ」
「さあ、どうかな〜?」
「ちょちょちょ、え、海老原!!」


なぜか慌てた様子の一条くんが、エビちゃんを廊下まで連れて行ってしまった。…何やらこそこそ喋っているが、ここからでは聞こえない…うーん何話してるんだろ…気になる…


「ちょっと!何すんのよ!」
「それはこっちのセリフだよ! どういうつもりだよ海老原!」
「えー? だって一条くん鈴のこと、……でしょ?」
「う、そ、それは……」


ふと視線を感じてそちらを見やると、長瀬くんが私のお弁当箱を穴が空くほど凝視していた。


「…藤田って、料理出来たんだな」
「え?」
「前はいつもパンとかだったろ?」
「あ、うんそうだけど…これはね、実は瀬多くんが作ってくれたの」


そう、私のお昼ごはんは、昨日に続き今日も瀬多くんお手製のお弁当だ。
今朝昇降口で偶然会った時に、「はいこれ」と渡されたお弁当箱。度々は流石に申し訳ないと返そうとしたが、「食え」と目で語る瀬多くんに何も言えなくって、渋々受け取ったのだ。
まあ…渋々、とは言っても、私の良識がそう遠慮をさせるのであって…胃袋は欲望に忠実でした。だって悔しいけど…美味しかったんだもん! 瀬多くんのお弁当!!


「そういえば、あいつが前作ったとんかつは確かにすごくうまかった!」
「そうなんだ……あ、よかったらおかず一つ食べる?」
「いいのか!?」
「うん、なんか私一人で食べちゃうのもったいない気がして」


それにさっきからずっと物欲しそうな目でお弁当見てくるし…とは口には出さないで、長瀬くんに弁当箱を差し出す。彼はその中からひとつ、赤くて一番目立つウインナーを選んだ。
それを箸でつまんで、物珍しそうにしげしげと眺める長瀬くん。


「…こんなの作るんだな、あいつ」
「ね。でもかわいいよね、それ」


長瀬くんの箸でつままれたウインナーは、片側が八方に切って開かれていて…所謂タコさんウインナーだったのだ。ちなみに両側が開かれているカニさんバージョンもある。
しかも、ちゃんと顔とおぼしき場所に目と口までついていて、とても凝っている一品だ。

正直、我らが特捜隊リーダー瀬多くんの、クールで寡黙なイメージに似合わなくて、蓋を開いた時はちょっと驚いた。
でもそのギャップがちょっと面白い。
長瀬くんと共にタコさんウインナーを味わっているとやっとエビちゃんと一条くんが戻ってきて、四人で談笑しつつ、そしてエビちゃんは相変わらず勘違いしたまま、お昼休みの時間は和やかに過ぎていった。




時は流れて放課後。
職員室にちょっと用事があり、それが終わっていざ帰ろう!と廊下を歩いていると、


「あ」
「あ」


靴箱の前で瀬多くんとばったり。
彼も今から帰るらしく、自分の箱から靴を出していた。


「あ…あの、お弁当ご馳走様でした! 美味しかった!」
「…そうか、ならよかった」


そう言い、頷く瀬多くん。きっと料理上手な彼の事だから、周りから絶賛されることには慣れているんだろうな。彼の料理の腕は風の噂では聞いていたけど…ぶっちゃけ特捜隊に入るまではクラス違うからそんなに面識無かったし、まさかここまでとは思わなかった。ふといつだったか、雪ちゃんが「うちの板前にスカウトしたい…」とぼそっと零していたのを思い出す。その後すぐに冗談だと言っていたが、あの時の彼女の気持ち…今なら分かる。いっそ一家に一人瀬多くんが欲しいくらいだ。
ぼんやりとそんな事を考えていると、すいっと目の前に差し出された彼の手の平。


「ん?」
「弁当箱。洗うから返してくれ」
「えっ…ああ、いやっ! いいよ私洗うから!あとお金も払うよ!」


タダで食事を作ってもらい、弁当箱まで洗わせるのは流石に申し訳ないので、家に持ち帰って洗って翌日返し、その時に材料費も払うと瀬多くんに言うと、彼は少し考えてから私の申し出を承諾してくれた。(財布を確認したけど今はちょっと持ち合わせがなかった…)


「あ、そういえば…」
「ん?」


私も靴箱から靴を出しながら、ふと思い出した事を口にする。


「瀬多くん、タコさんウインナーとか作るんだね。少し意外だった」
「…ああ、あれか」


表情はあまり変えないが、少し照れ臭いのか頭をかく瀬多くん。


「丁度菜々子の小学校も今日は弁当の日で…作ったら喜んでくれたんだ」
「へええ…いいお兄ちゃんだねえ」


…思わず、台所でエプロンを着けて真剣にタコさんウインナーの小さな顔を作る瀬多くんを想像して、そのギャップに少し吹き出しそうになったがなんとか堪えた。


「明日も作ってやろうか?」
「え?」
「タコさんウインナー」


…これは、明日も作ってくれるということ、だよね。お弁当を。
でもやっぱり申し訳ないと思うのと、またあのお弁当が食べたいという二つの気持ちが心の中をぐるぐるして答えかねていると、「どうなんだ」と返答を急かす声。
思わず「は、はい! 食べたいですセンセイ!!」と答えると、彼は満足そうに微笑んだ。

……当分、私の胃袋は彼に掴まれたままみたいです。


(まあ…暫くはこのままでも、いっか)
君を待つ間、空を見上げた。