「エヅケってなにクマ?」
「お前、相棒に餌付けされてんだって?」
「……………はい?」


耳に入った言葉が聞き間違いだと思いたくて、たっぷり間を取って品出ししていた手を止め振り返り聞き返せば、声の主…某口を開けばガッカリ王子、花村陽介がダンボールを抱えてこちらを見ていた。
その後ろから同じくダンボールを抱えた金髪碧眼の美少年…熊田ことクマが花村の肩口にこちらを覗き込んだ。


「エヅケ? エヅケってなにクマ?」
「ほい、これ次のな」
「げえ…まだあるのか…」


夕飯時のピーク時を過ぎ、平日なのも相まって食品売り場の客はまばらだ。
クマの質問を華麗にスルーし、花村は私の隣にダンボールを置いて、中身を取り出し始めた。
もうすぐバイトも終わりだし…もうひと踏ん張り!と意気込んでいたところに、この量とは。箱の中の積み重ねられた大量の商品達を見て、思わずげんなりしてしまった。


「ねーねー、エヅケって何クマー! クマにも教えてちょーだい!」
「お前は知らなくていいっつーの!」
「ええー、ヨースケのケチ! いけずー! ……ねえスズチャン、クマに教えて?」


両手を前に組みながらキラキラ美少年スマイルでこちらを見るクマに、苦笑いしながらさり気なくスルーしつつ、品出しをテキパキ始める花村に向き直った。


「クマは置いておいて…餌付けって何さ花村」
「そのまんまの意味だろ。相棒から聞いたぜ? お前、あいつに弁当作ってもらってるんだって?」
「あーう、うん…食生活がなってないだの説教されたら、今度から俺が作ってやる!って…」
「ふーん…あの後そんなことあったのか。アイツ普段穏やかだけどキレるとこえーからな…」


瀬多くんの怒り状態を見たことがあるのか、苦笑いを零す花村。……確かに、あの時屋上で突然怒り出した瀬多くんは怖かった。一瞬バルザックでも喰らって激昂状態かと……テレビの中じゃないからバッドステータスになるわけないんだけどね。


あれからなんだかんだで一週間。
朝に瀬多くんと、お昼のご飯が詰まったお弁当箱と洗い済みの空のお弁当箱+材料費を交換するのが最近日課になってきていた。
最初の頃こそ遠慮していたものの、瀬多くんは全然迷惑そうではなさそうだし(むしろ食え残すなと言われる)、なにより瀬多くんの作るお弁当はとても美味しい。
だから彼のご好意に甘えて、毎日お弁当を頂いているんだけど……た、確かに餌付け、と言われても仕方ないような……瀬多くんが私なんか餌付けしてもしょうがないと思うけど。


「アイツ、あれで結構頑固でやると決めたらやる!ってヤツだからなー。まあでもラッキーなんじゃねえの?」
「え?」
「瀬多の弁当、毎日食べれんだろ?羨ましすぎるっつーの!」


アイツの作った肉じゃがマジ美味かったんだぜ!と笑顔で話す花村。
瀬多くんの作った肉じゃがか……た、食べたい!絶対美味しいに違いない……!
バイトでまだ夕飯食べていないし、想像してたらお腹が減ってきた。


「うう……明日の昼が待ち遠しい……」
「……あ! あれセンセイクマ! おーい!」


エヅケの意味を教えてもらえなくていじけながら品出ししていたクマくんが笑顔で立ち上がり、生鮮食品コーナーの方に声をかけ手を振る。つられてそちらを見やると、噂をすればなんとやら。買い物かごを持った瀬多くんがそこにいた。


「こんばんは。三人共、バイトお疲れ様」
「こんばんわクマー! センセイはお買い物クマか?」
「ああ。明日の昼と夜の材料を買いに」
「よう相棒。ちょうど今お前の話してたんだぜ?」
「あ、瀬多く…」


ぐーっ。


「………」
「………」
「………」
「………」


そんな間抜けな音が鳴り響いて、その場にいた全員が一瞬固まった。
音は確実に私のお腹から鳴っていて、一斉に三人の目がこちらを向いて、一気に顔が熱くなった。う、うわ、うわわわ……! これは絶対私ってばれたよね……


「……お前さ、人の顔見て腹が鳴るって、やっぱ餌付けされてんじゃねえの?」
「ち、ちが……!」
「スズチャンのハラノムシが暴れてるクマねー!」


あああ恥ずかしい……!! ちらっと瀬多くんの方を見ると、口元を押さえて笑うの我慢していて……をああもう! 恥ずか死ぬ!
更に羞恥で真っ赤になったであろう顔を思わず両手で隠したら、瀬多くんのくすくす笑う声が聞こえて、もっと顔が熱くなった。


(ところで、相棒のところは今日の夜何だ?)
(菜々子のリクエストで肉じゃが)
(に、肉じゃが……!)
(あっ、スズチャンのハラノムシがご乱心クマ!)
(あああもう鳴りやめ私の腹の虫!!!)
(……ぷっ)

君を待つ間、空を見上げた。