目覚め
「う、そ…」


目の前の光景に思わず足がすくみ、その場に座り込んでしまった。

振り返った視線の先に居たのは、怪物。
闇のように真っ黒なスライムのような体に、緑の仮面と伸びた手。腕の先の人のそれと同じ形をした手には、ぎらぎらと月の光に照らされた長剣が握り締められていた。


「あ、……あ…!」


逃げなきゃ。そう思うのに恐怖で立ち上がる気力も無い。
じりじりと距離を詰めてきて、頭上に剣が振り上げられる。
恐い。恐いこわいコワイ。私、この怪物に殺されるの?
いや、だ。いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!こんな所で、



死にたくない!!!










「え…?」


暗転。
気が付くと、私は何も無い真っ白な空間にいた。
そして、目の前に私の胸辺りの高さで一枚のカードがゆっくりと回転しながら空中に浮かんでいる。


「やあ」


カードをぼうっと見つめている最中、突然掛けられた声に驚いて顔を上げる。
そこには黒と白の縞々模様の囚人のような服を着て、深く・・・それでいて透き通る青い目の、不思議な雰囲気を纏う黒髪の男の子が立っていた。


「君も、とうとう来たんだね。待ってたよ。」


そう言ってにっこり笑う彼とは面識は無いはずなのに……
何故だろう、ずっと昔、どこかで会ったような……?


「さあ、はじまるよ」


男の子はゆらり、と私に向けて手を上げる。
すると空中を舞っていたカードが、徐々に光りだす。
無意識に、私はそれを両手の平に乗せた。







いつの間にか白い空間から、先程の状況に戻っていた。
異様な雰囲気の街、目の前の怪物。ただひとつ違ったのは、手の平のカード。
誰かが、自分を呼べと訴えてる。


「ペ…ル………ソ…ナ」


ゆっくりとその言霊を紡いで、包み込むように両手で力強くカードを、祈るように握り締める。
途端、白い光に包まれた。


『我は汝…汝は我…』


頭上を見上げれば、そこには白い光に包まれた、黒髪に翡翠の瞳で、真っ白な衣に身を包んだ少女が佇んでいた。
これが…私の力…ペル、ソナ。


『我は汝の心の海より出でし者…"宵の星"、アステールなり…』


自分でも知らなかった力に驚いていると、ペルソナ……アステールの登場に怯んで動きを止めていた怪物は、再び剣を私目がけて振り下ろしてくる。
それを、アステールが間に入って、持っていた大きな杖で受け止めてくれた。
力ではこちらの方が上だったようで、剣を跳ね退け、私はその名前を叫んだ。


「アステールッ!!!」


その叫びに応えるように、アステールの持っていた杖が光りだす。怪物の周りを古いお札のようなものが囲むと、白く強い光が溢れ、次の瞬間強い衝撃波が放たれた。
目の前の怪物はまるで暗闇に光が射して無くなるように、消え去った。

気付くと、私はまだ異様な雰囲気の中に静かに立ち尽くしていて。
アステールは青い光を振り撒きながらその姿を星の模様が描いてあるカードに変え、私の中に消えた。


「汐!!」
「汐!無事!?」
「お兄ちゃん……おねえ、ちゃ……」


聞き覚えのある二つの声が重なって聞こえて、振り返ればこちらに走ってくる会いたかった兄姉の姿。
私も駆け寄ろうとしたのに、怪物を倒した安心感と脱力感、そして急に襲い来る疲労と睡魔でその場に崩れ落ちる。しかし倒れそうになった私を、寸での所で二人が支えてくれた。
二人が呼びかけてくる声を聴きながら、私は遠くなる意識の中、なぜかあの男の子がどこかで微笑んだ気がした。




(おめでとう、そしておかえり)
君を待つ間、空を見上げた。