君さえ


ごめんなさい、愛していました(dmmn/ヴァイエン)


※元指揮官ネームレス女夢主/悲恋
※ヴァイエン様お誕生日おめでとうございました。今でもずっとずっと貴方のことが大好きです。


 10月3日。
 スマートフォンに映し出されたその日付に謎の引っ掛かりを覚えた私は、その違和感の正体を探ろうと必死に思考を巡らせた。
 何か用事を入れていただろうか。そう思ってスケジュール帳を開いてみても、10月3日の欄は白紙のままそこに佇んでいて。ならば何かのイベント事……たとえば、そう、記念日だったり、──誰かの誕生日、だったり。
 開いたスケジュール帳をぼんやりと眺めながら、ふとその言葉に意識を落とす。同時に視界に映りこんだのは、10月3日の左隣の空白にぽつりと並べられた、10月2日の文字列。もう既に終わった昨日の残滓。
 ……誕生日。ああ、そうだ。誕生日だ。
 ぱちん、と何かのスイッチが入るかのように、全て全てが私の頭の中で鮮明な輪郭を描いた。
 10月2日。指揮官。プネブマ。

 ──ヴァイエン、様。

 黒い短髪、長い前髪を止めるヘアピン、聡明さと温かさを孕んだ丸いグレーの瞳。若々しい見た目にそぐわない老成した口調と言動は、彼の生きてきた486年という時間の延長線上に紡がれたもので。6年前、地球から突然プネブマ星へと飛ばされてきた何も知らない私に、優しく時には厳しくあの世界での生き方を教えてくれたひと。
 ヴァイエン様。
 心の中に彼の名前を呼ぶ。瞼の裏に彼の姿を思い出す。5年という月日の中にもう随分と色褪せてしまった記憶にはもう、大好きだったはずの彼の声も、彼の姿も、彼の温度も、残されてはいなくて。
 じくりと心臓がしみるような痛みを訴える。
 溢れ出した涙が頬を滑って顎先を伝い落ち、10月2日にぽたりと情けない水跡を残した。

 好きなひとだった。愛したひとだった。
 私に恋を、愛を教えてくれたひとだった。

 優しくて、聡明で、温かくて、朗らかで、
 そして、もう永遠に会うことの出来ないひと。

 空を見上げた。雲ひとつない満天の星空がそこには広がっていて、そこに瞬くひとつひとつの星を視線になぞりながら、私はまた彼の名前を口ずさむ。あの星々のどこかで、貴方は今日も、あの穏やかな微笑みで世界を見つめているのでしょうか。

 ヴァイエン様。ごめんなさい。

「……お誕生日、おめでとうございました」

 貴方を忘れゆく、貴方を確かに心から愛していた遠い星の人間からの、貴方の生と命への祝福を。
 どうか貴方が、あの星々のどこかで今日も明日もその先も、幸せで有り続けますように。


2020/10/3

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