君さえ


大馬鹿者は恋をした (ttg/写真家/BLD)


※ててご写真家BL夢/色々捏造ご都合主義/夢主は馬鹿


 初めてそのひとを見た時、自分の脳天へ雷が落ちたかのような錯覚に襲われた。もちろん実際にそんなことが起これば、僕の命など一瞬にして消え去ってしまうだろうけれど。

 世界はこの感覚を、『一目惚れ』と呼ぶらしい。

 僕が彼女と初めて出会ったのは、荘園でのゲームの最中だった。スタート直後に撮られた写真と、写真世界で椅子に座らされた僕。『写真家』というハンターが最近猛威を振るっているという噂を聞いていた僕は、仲間から教えられた対処法に則って、すぐさまマップの隅へと逃げた。そして、写真世界が崩壊すると同時にダウンした僕と、
 それと同時に僕の目の前に現れた彼女。

 動けない体で見上げた景色の中に彼女を映した瞬間、僕は恋に落ちた。

 風になびく白く長い髪と、神秘的な空色の瞳。真っ直ぐに伸びた背筋と揺れる服の裾があまりにも優雅で、まるで1枚の絵画のようだと本気で思った。
 地面に倒れている僕の姿を見てにっこりと笑った彼女は、問答無用で僕を風船に括り、ロケットチェアへと連れて行く。

「髪の毛が解けてしまった……まあ、結び直す暇もなさそうだし後でいいか」

 服装は動きやすいようにするためか男性のものであり、声も女性にしては落ち着いていて、ハンターであるからその背丈も随分高かったけれど、それすらその美しさを引き立てる要因になっているのだからどうしようもない。どくどくと高鳴る心臓が、ハンターが近くにいるからなのか、それとも彼女が近くにいるからなのか、僕には分からなかった。

 結局その後仲間が救助に来てくれたけれど、僕はトンネルをされ続けて脱出することは叶わなかった。けれども、仲間の内2人が逃げてくれたためゲームは引き分け。多分僕が最後まで残ったとしても彼女に気を取られてろくに戦えやしなかっただろうから、最初に吊られてしまったのは逆に良かったのかもしれない。

 トンネルされる時、彼女に剣で切り付けられた瞬間も、彼女のその美しさに視線を奪われてしまっていたのだから。サバイバーである僕がハンターである彼女に恋をするだなんて道化にも程があるけれど、好きになってしまったものはどうしようもない。頭で恋愛が出来たら苦労なんてしないのだから。


 荘園に戻ってからしばらく、僕は彼女のことばかりを考えてぼんやりと虚空を見つめるという間抜けな姿を周囲に曝していた。
 彼女のことを思い出すたびに胸が高鳴って、息が苦しくなる。
 しかし、もう一度会いたいと願っても、なかなか彼女と再びゲームで出会うことはなかった。いっそのことハンターたちの住む屋敷へ突撃してしまおうかとも考えたけれど、そんな度胸を持ち合わせていたなら彼女に一目ぼれをしたその日に突撃している。
 そうやってまた思考をどうどう巡りさせて、はあとひとつため息を吐く。最近はずっとこれの繰り返しだ。

「この間から様子がおかしいけれど、何かあったの?」

 すると流石に心配されてしまったようで、医師であるエミリーさんがそんな声をかけてきた。心配してもらえることはありがたいし、申し訳なさも感じるけれど、だからといってこんなどうしようもない恋煩いを人に聞かせていいのだろうか。

「どんな相談でも聞くから、いつでも言ってちょうだいね」

 一目惚れなんて初めてなうえに自分と彼女んお立場の違いに思い悩んでいた僕は、彼女の優しさに甘えることにした。

「……実は、僕、ハンターの方に、恋、をしてしまったみたいで」
「あら、そうなの? まあ、ゲーム以外でハンターとサバイバーが仲良くすることは許されているし、あまり立場は気にしなくていいと思うわよ。……それで、お相手は誰なの?」

 何故か天使の笑みを深くして僕に問うてくる彼女へ、僕はしどろもどろになりながら答えた。好きな人のことをこうして口に出すのはやはり恥ずかしい。


「ええと、……写真家の、ジョゼフさん、です。この間のゲームで彼女に一目惚れをしてしまって」


 その瞬間、エミリーさんの笑みが固まった理由を、その時の僕はまだ知らなかった。


2019/7/15

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