君さえ


君の声で世界は始まる
















「――あれ、キミ、もしかして起きているのかい?」




 ……暗闇の中に、ふと誰かの声が聞こえた。

 聞き覚えのあるその音は、何もないがらんどうの世界に突如として与えられた温かな響き。深い闇の中に忘れかけていた、失いかけていた輪郭が、記憶が、少しずつ身体に戻っていく。宿っていく。
 ぱちり、ぱちり、と何かが連鎖的に弾けていくような感覚。粛々と保たれ続けていた『無』が次々と『有』に塗り替えられていく、革命の瞬間。

 誰かに名前を呼ばれている。
 どうやら、ようやく朝が来たようだ。

 ゆっくりと瞼が持ち上がっていく。久方ぶりに世界に晒された瞳へ、容赦なく眩い光が注ぎ込まれてきた。
 微睡みの残る意識のまま、ぱちりぱちりと瞬きを繰り返す。おもむろに首を動かして、声の聞こえた方へと視線を向けた。

 窓の外から降り注ぐ真白い光が、世界の輪郭を美しく描いている。その世界の中に佇む彼の姿を認めた瞬間、思わず涙があふれていった。





「――おはよう、ニグレド。気分はどう?」





fin.
2021/3/30

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