黒髪、長身。そしてグループ名から察するに彼は大阪出張で行ったお好み焼き屋さんの店員さんの推しだと判明した。正直言って、名前は覚えていない、ごめんなさい。
「…お好み焼き?」
『いや、えーっと…その、なにわ男子の方、ですよね?』
「え?わかるん?」
『あの、数日前テレビで見ました。…名前は、分からないですすみません!!』
「え、謝らんといて…!」
グループ名は知っている。けど個人個人の名前は知らない。素直に謝って、彼を見上げる。いや、マジか。ジャニーズのアイドルってことは芸能人、なんだよね。わぁ、初めて芸能人に会ったかも…
『えっと、あの、カレーの件は忘れてもらって、』
「え?!」
『え、いやだって…』
そう言えば私は彼がアイドルだと知らずに、カレー食べに来ます?なんて軽々と誘ってしまっていたのだ。誘ったことは忘れてください、と伝えると彼は驚いたような反応。え?普通に考えて知らない人の家にカレー食べに来たらダメでしょ?アイドルなんだし。と言う言葉はぐっと飲み込んだ。
「カレー…」
『…そんなに食べたかったんですか?』
「いや、今日めっちゃ忙しくて。朝から収録して、昼ちょっと食べたらダンスの振り入れでガッツリ踊って、奇跡的に早く帰れたんでカレーの気分でおったのに、ないし…」
早口で喋る彼はよほどカレーを食べたかったんだろう。私の家には1人で食べ切ることができなさそうなくらいのカレーがある。もういっそのこと、お裾分けとしてカレーだけ渡してしまおうかと悩んでいたら、彼が「そうや!」と何か閃いたらしい。
「俺、この間コーヒー譲ったっすよね?」
『え、あ、はい…』
「せやったら、そのお礼ってことでカレー食べに行っても良いっすか」
『えええぇ…!』
知らずに誘ったのは自分だけど。彼の提案に思いっきり疑いの声をあげる。いやいや、ダメでしょ。あんた、アイドルだよ!!と叫びたい。そして今このコンビニで話してるのも色々まずいのでは?!とさらに冷や汗が出る。フライデーされない?文春砲?!とキョロキョロしてしまったのは言うまでもない。
「俺マジで今人生で1番腹減ってて死にそう」
『いやいや、そんな』
「もう無理、今すぐカレー食べへんと死ぬ」
『…えぇ、』
「コーヒー譲ったのになぁ…」
『うわぁ、ずるい…!』
なんとも子どもじみた言い訳を述べる彼に正直降参です。はぁ、と小さく息を吐いて覚悟を決めた。仕方ない自分がポロッと誘ってしまったのだから。もっと言うと彼にコーヒーを譲ってもらったのだから。いろんな言い訳を考えて、彼氏に視線を合わせた。
『…お口に合うかわからないけど、それでもよければ』
そう呟くと、彼はいつか見たくしゃっとした笑顔を浮かべて「やった!」とニコリ。可愛い笑顔にドキリとしたのは内緒だ。
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