揺れる瞳はアイドル


言ってしまった後に気づいた。いや、急すぎる!!!!後悔しても遅い。目の前の彼は目を丸くして「え、」と固まってしまっている。


『あー、や…ごめんなさい、つい。なんかすごい落ち込んでたので、』


冷や汗をかきながら言い訳をした。ほぼ初対面の知らない人に「うちにカレー食べにくる?」って言われたら怪しすぎる。私なら絶対行かない。変な提案をしてしまった自分を殴りたい。後悔の波に打たれながら彼を見上げると何やら考えているようなそぶり。


「あの、一応確認やねんけど、」

『はい?』

「…俺のこと知ってます?」


俺のこと知ってます?
…とは?彼の言葉を飲み込んで、頭にハテナが浮かぶ。いや、知らない。知らない、けどこうやって聞く人って大抵何かしらの有名人だと思う。確かに彼は長身で、深めに被った帽子から少し見える顔は多分イケメン。


『えー、っと。その、すいません、私…』

「いや、すんません!違うんす、知らないなら知らないで全然…!」


ぺこぺこ頭を下げ合っていたと思ったら、次は2人であわあわと慌てている姿は滑稽だろう。やはり彼は何かしらの有名人なのかもしれない。職場と家の往復のみ、たまにドラマを見るけど、ゲームばかりしてるから最近の有名人には本当に疎いのだ。


「えっと…一応、一応なんすけど、」

『はい、』

「…なにわ男子って知りませんか?」


なにわ男子、その言葉に身体がぴくりと反応した。え、その言葉は知ってる。社長の娘さんが好きなアイドルグループで、大阪で食べたお好み焼き屋さんの店員さんの推し、……え、ちょっと待て。


『えー、えー、っと…ちょっと待ってくださいね、』

「あ、知らないなら別に、」

『いや、違くて!あの、なにわ男子、は知ってるんです、』

「え?」

『名前は、知ってて…そして、』


混乱する頭を必死に動かしながら、記憶を辿る。改めて見上げた目の前の彼、気まずそうに揺れた瞳を見てドキリとした。


『…お好み焼きのお姉さんの推し!?』



私に数日前コーヒーを譲ってくれて、尚且つ今目の前でカレーを欲している彼は、まさかのアイドルグループの人でした。


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