『あぁ…流石に疲れた、』
よれよれになりながら、何とか自宅に到着。名古屋出張から帰ってきた私は大変疲れていた。天候不良で帰りが遅くなり、もう深夜1時。キャリーバッグを置いて、ソファーに雪崩れ込む。明日休みで良かった。
『お酒飲みたい、』
疲れたからかグイッと一杯行きたい気分だ。よいしょ、と身体を起こして冷蔵庫の中を開ける。
『あれ、ビールない…』
確か後一本だけあったはず、と思っていたのは勘違いだったようだ。チューハイもなけりゃビールもない。でもお酒は飲みたい。もうこれはコンビニに行くしかない。部屋着に着替えるのさえ面倒くさくてスーツのまま家を出る。7月に入り、一気に暑さが増してきた。玄関を出るとむわっとした熱気を感じる。
エレベーターに乗り込み、チーンと1階に着いた音。歩き出したら、見たことのある背中姿。
『あ、高橋くんだ』
「、わぁ、びっくりした…凛さんやん」
郵便受けを見ていたのか何通かのDMを持っている高橋くん。私が後ろから声をかけたことにビックリしたのか肩が揺れた。ごめん、驚かせてと苦笑いすると、ちょっとムッとした表情で「こんな時間にどこ行くん」と問われる。
『お酒飲みたくてコンビニ行こうかと』
「…スーツ姿で?」
『さっき名古屋から帰ってきたばっかりなの。天候不良で交通機関乱れちゃって。高橋くん、今帰り?』
「せやで」
『遅くまでお疲れ様。じゃあ、』
「こーら、ちょい待ち」
腕をグイッと引っ張られ、私の動きが止まる。なんか前会った時も引き止められたなぁなんて思いながら彼を見上げた。
「こんな夜中に1人でコンビニ危ないやんけ」
『いや、徒歩数秒の距離』
「あかんあかん。何あるかわからん」
『何もないよ』
「夜中にスーツ姿の女が1人でコンビニ行ったらナンパされるに決まってるやん」
『ないない』
終始眉を顰めながら話す高橋くん。どうにもこうにも腕を離そうとはしてくれない。でも私は一刻も早くお酒が飲みたいのだ。
「一緒に行く」
『え、いいよ、大丈夫だって』
「あーかーん。女の子がこんな時間1人で歩いたらあかんの!」
これは絶対譲らないパターンのやつだ。このままじゃ埒があかないので小さくため息。少し離れて歩くことを条件にコンビニまでの数歩を一緒に歩く。まぁ、正直「女の子」って年齢じゃないけど心配してくれての行動だろうし、ありがたい。
▽ ▽ ▽ ▽
コンビニではビールひと缶、酎ハイも手に取る。小腹も空いてきたので何かおつまみでも欲しいなぁ。空きっ腹にアルコールはよくないし、とお菓子コーナーへ行くと何やら高橋くんもお菓子を吟味中。
『なんか美味しそうなのあった?』
「ん?これ新商品やなぁって」
コンビニ内でも距離をとって小声で会話。彼が手に取っていたのは人気のお菓子の新商品。期間限定味らしい。じゃあ、それちょうだいと受け取って一緒にお会計。また地味に距離をあけてマンションへと入る。高橋くんのおかげ?で何事もなく帰宅できた。
「家まで送ってく」
『ねぇ、徒歩数秒だって』
「何があるかわからん」
『何もないよ』
エレベーターに乗り込み、8階ボタンを押す。高橋くんって意外と心配性で頑固だ。風貌的に「自分で帰れるやろ?大丈夫、大丈夫」って感じだと思うのに。いや、それは失礼か?
『お仕事帰りのところありがとね』
「勝手について行っただけやし」
『まぁ、確かに』
「こら、納得したらあかん」
ははは、と笑ってコンビニの袋からさっきのお菓子を取り出す。はい、ちょっとしたお礼とそれを渡した。ええの?の声に頷く。最初からその予定だったわけだし貰ってもらわなきゃ困る。
『じゃあね』
「あ!」
『ん?』
忘れとった!と何やらズボンのポケットをガサゴソする彼。何を忘れた?と思ったらポケットから黒いスマホを取り出して、少し遠慮がちにこう言った。
『連絡先、教えてくれへん?』
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