また、があることに気づかない



私の急な誘いに高橋くんは目をキラキラと輝かせる。ええの?!と言う声は思っていたよりも弾んでいて、大型犬が尻尾振ってるみたい。高橋くんさえ良ければ、と続けると生姜焼き食べたい!とニコニコ。やばい、なんか餌付けしてる気分。


『すぐ出来るしテキトーに座ってて』

「はーい、テレビつけてもえぇ?」

『ご自由にどうぞ』


まさかの展開で高橋くんとご飯を食べるpart2がやってきた。味噌汁用にお湯を沸かして。玉ねぎを切ってからフライパンを温め、油を入れる。お肉を焼きながら、チラッと高橋くんを盗み見る。誘ったのはこちらだけど彼はもう少し警戒心というものを持った方が良いのではないだろうか。仮にもアイドルだし。私がプライベート写真でも流出するとか考えないのかな、と余計な心配をしてしまった。


『高橋くん』

「はい?」

『お味噌汁の具、何が良い?』

「え、味噌汁まであるん?!」


ぱたぱたとなぜか嬉しそうにキッチンまで来た彼。うわ、めっちゃ生姜焼きの良い匂いーと顔を綻ばせている。カレーの時も同じ顔してたなぁ。お味噌汁の具は高橋くんのリクエストでネギ多めの豆腐とわかめの味噌汁に。千切りキャベツとポテサラをつけて、完成!


「やっば、こんなん生姜焼き定食やん」

『はは、確かに。さ、冷める前に食べちゃおう』


いただきます!と2人とも手を合わせて、食べ進める。生姜焼きを一口食べた高橋くんは「めっちゃ美味い!」と一言。そう言われると悪い気はしないので口角が上がる。うん、我ながらこれは美味しい。


「凛さん、ちゃんと自炊してすごいよなぁ」

『んー、でも面倒な時はカップ麺とかで済ませちゃうし。夜は半額の刺身とお酒だけの時もあるよ』

「凛さん、お酒飲めるんや」

『まぁ、甘い系ばっかりだけどね』


一人暮らしをしている家で誰かと話しながら食べるのは、何だか不思議な気持ち。でも悪くない。むしろちょっと嬉しいな、と感じてしまっている自分がいる。


「あ〜美味かった!ごちそうさまでした」

『あ、食器そのままで良いよ』

「えぇって、食器くらい片付けさせてー」


疲れてるだろうに片付けを手伝ってくれた高橋くん。食後のお茶でも出そうかと準備をしたら、テレビから彼が出演している映画の特報が流れた。


「あ、」

『メタモルフォーゼの縁側、だっけ』

「知ってるん?」

『この前エンタメニュースで見たの。高橋くん映ってて、わぁー芸能人じゃんって思った』

「なんやそれ」


確か映画はもう公開されていたはず。時間があれば見に行きたいなぁ。目の前の彼が演技をしている姿は、想像できなくて。やっぱり私の中ではまだ彼が芸能人なんだと感じていないのかもしれない。


『意外と学ラン似合うよね』

「俺、何でも着こなすねん」

『…着こなせてるから、言い返せないのが悔しい』


いたずらっ子のような顔をして笑う高橋くんは、少し幼さが残っていて。無意識に可愛いなぁと思ってしまった自分がいた。


「あ、そろそろ行かんと。あと30分で迎えくるわ」

『え、これから仕事?』

「せやで。これからツアーのリハやからハードやねん」

『いや、朝5時に帰ってきてるのにハードすぎるでしょ』

「ま、生姜焼きパワーで頑張るわ」


改めて、ごちそうさまでした。またなんかお礼するな、と言って彼は仕事へと向かった。生姜焼きを食べて少しでも頑張ってくれたら良いのだけど。会った時よりも少し元気そうな彼に心の中で静かにエールを送った。



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