第一印象:黒髪、長身。ちょっと猫背

『はあああー!最高だったあー!!』


今回の戦いは無事我がチームの勝利!接戦だったけど、白熱した戦いだった。何よりfiveさんが圧倒的に強かった。さすがわたしの師匠!仲間内で功績を称え合い、ログアウトしてからソファーに倒れ込む。


『…明日、大阪出張だ』


ゲームが終わった途端、現実の世界に連れ戻される。何となくつけたテレビからは何やら今人気のアイドルグループが音楽番組に出ているようで。ウトウトと瞼が落ちるのを感じながらもテレビの音が耳に入ってきた。


「ほんっま、こいつ本番10分前までゲームやってるんすよ!」
「いや、今日は大切な戦いがあったんす」


わいわいと賑やかな会話から「ゲーム」という単語が聞こえると、自然と頬が緩む。人気アイドルでもゲームするのか。そんなどうでも良いことを考えながら私の意識はすぐに途絶えた。


▽ ▽ ▽ ▽


スマホの目覚まし音で目が覚めた。ソファーで寝落ちしてしまった体がミシミシと鳴っている気がして、内心やってしまったなと落ち込んだ。


『あぁ、体痛い…』


ぐーっと体を伸ばして、カーテンの隙間から溢れる光に目を細める。今日は大阪出張。前々から決まってたので、準備済みなのが不幸中の幸いだ。テレビをつけると「おはようございます!」と早朝から爽やかな声を出すアナウンサーに感心する。仕事とはいえ、すごい。

顔を洗ってスキンケアをしてから、キッチンに向かって気づいた。お米を炊いてなけりゃパンもない。…朝食にできるものが何もない。


『仕方ない、コンビニ行くか』


潔くコンビニに行く決心がつくのも、住んでいるマンションの一階にコンビニが併設されているからだ。会社から住宅手当が出ることと、女の一人暮らしなんだからセキュリティーはしっかりしてるところにしろと親に口酸っぱく言われた結果、今の住処に行き着いた。


『ま、数分だし部屋着で良いよね』


髪を手櫛で整えて、スリッポンを履いて玄関ドアを開けた。薄紫のパーカーワンピースの部屋着を着て、エレベーターボタンを押す。すぐにきたそれに乗り込めばあっという間にコンビニだ。

いらっしゃいませーの声を横目に、まずはコーヒーが置いてある場所へと足を進めた。ふぁ、と欠伸がもれて眠気覚ましにコーヒーは必須だなと感じる。お気に入りの某コーヒーショップのコーヒーで良いか、と思いながらその場所へ行くと先客がいた。黒髪、長身。すらっとした背丈、でも少し猫背気味の男性がコーヒーを吟味していた。


「んー、これでえぇかなぁ」


相当悩んでるのか彼は独り言にしては大きい声を発している。あんまり凝視するのも良くないよな、と思いコーヒー売り場からパンコーナーへ行こうと回れ右。コンビニの特製サンドイッチでも先に選んでおこう。


「ちょお!みっちー、ここにおったん?俺めっちゃ独り言いうてたやん」
「えー、なにそれ恥ず!」


サンドイッチを手に取ったところで、先ほどの黒髪長身さんが私の隣でパンを選んでいた男性に声をかけた。ケラケラ笑いながら立ち上がった彼も、まさかの長身。心の中で「でかっ!」と思ったのは内緒だ。黒髪長身さんのお友達も黒髪長身さん。なんか絵面がすごいな。2人とも深めに帽子をかぶってマスクをしているから分からないけど風貌的にはイケメン。会話を盗み聞きするわけにもいかず、私はコーヒー売り場へと再び足を伸ばした。


『コーヒー…え、ない!』


うそだろ、と驚愕する。私のお気に入りの某コーヒーショップのブラックコーヒーが無いのだ。早朝だからなのか、なんなのか。私のお口はブラックコーヒーモードだったので想像以上にショックを受けた。いや、でも仕方ない。ブラックコーヒーは他にもあるし、味が違えど飲めば結局美味しいから平気だ、と自分を納得させようとした時。


「おねぇさん、これ飲みたかったん?」

『…え?』


少し気怠そうで、ゆったりとした低い声が耳にスッと入ってきた。パッと見上げると今日何度目かの黒髪長身さん。彼の手には私が飲みたかった某コーヒーショップのブラックコーヒーがあった。


『あ、それ…』

「これ、飲みたかったんやろ?」

『え?あ、はい』

「せやったら、これ飲み。俺違うのでえぇし」


ポンっと私の手に優しく置かれたコーヒーと目の前の彼を交互に見る。良いのだろうか、譲ってもらっても。だって、


『…めっちゃ悩んで決めてたコーヒー、譲ってもらって良いんですか?』

「え、悩んでたとこ見られてたん?はっず…」


彼は自分の目元を恥ずかしそうに隠して、肩を揺らす。あんなに大きな独り言なら近くにいたら聞こえてます、とは言えず眉を下げた。


「まぁ、俺は違うのでも大丈夫なんで。おねぇさん、飲んでや」


そう言って彼は近くにあったカフェオレを手に取りレジに向かっていた。一連の流れにポカンとして、お礼を言い忘れたことに気づいた頃には黒髪長身さんはコンビニを後にしていて。少し緩くなったブラックコーヒーをギュッと握った。


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