凛さんは、もう少し警戒心を持った方がえぇと思う。そう感じたのは何度目やろうか。目の前の鏡を見ながら髪の毛をいじる。思い出すのは昨日連絡先を教えて欲しいと言った時の驚いた表情やった。
「恭平ー、髪やってー」
「ええよ、どんなんする?」
りゅちぇに呼ばれて近づく。今日は初めて出演する音楽番組の生放送。先輩方もたくさん出ていて、シャッフルメドレーなんかもある。りゅちぇのリクエスト通り、髪をいじりながら自分のスマホをチラッと見た。
「なんかあるん?」
「ん?」
「スマホ。今日やたらと気にしてへん?」
「そ?」
「まぁ、恭平がスマホ触ってるのなんて日常茶飯事やけど」
大きなきゅるんとした瞳に問われて、少しドキリとした。昨夜、凛さんと偶然会って夜中やっていうのに、1人でコンビニ行こうとする姿を見て慌てて引き止める。あの人警戒心無さすぎやねん。ほぼ初対面の俺を疑うことなく家に入れるし、少し乱れたスーツ姿で1人歩くとか何考えてんねん、と自然と眉を顰める。
「できたで」
「おー、ありがとう」
お礼を言われ、自分のスマホを手に取った。出番までまだ時間はある。連絡ツールアプリを開くも、いまだに凛さんからの連絡はない。深夜に帰ってきたってことは今日は仕事休みやろうか。うーん、と悩みながらメッセージの内容を考える。
「誰に送るん?」
「へ、」
「うーん、何て送ったらえぇんやろって独り言漏れてんで」
ニコニコ、いやニヤニヤと言うたほうがあってる表情の大橋くんがこちらを見ていた。あかん、なんかめっちゃ面白いこと見つけたみたいな顔しとる。
「なぁなぁなぁ、なに?彼女?」
「ちゃうって」
「えー、嘘やーん絶対女の子やろ」
「大橋くん、うーるーさーいー」
無駄に絡まってくる大橋くんを引き剥がして「ほら、大吾くん呼んでんで」と伝える。まぁ、呼んでへんけど。大橋くんが離れたのを確認してから、スマホを取り出してささっと文字を打つ。
《18時から日テレの音楽番組》
それだけ打って、送信ボタンを押した。
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