日付が変わる少し前。ガチャリ、と鍵が開く音がしてバタバタと玄関へと向かう。少しだけ外の冷気を纏った駿くんが照れくさそうに「ただいま」と言う姿がなんだかくすぐったい。
『おかえりなさい!生放送お疲れ様』
「遅くなってごめんな」
『んーん。全然』
お疲れだろうにニコニコ笑顔を浮かべている駿くんに、私も笑顔が移る。駿くんは手洗いうがいを済ませて「すぐシャワーして着替えてくるから待っとってな」と洗面所へと向かった。
まだしっかりと引っ越し作業ができていない彼の部屋は実家から持ってきたベッドと寝具類、わずかな着替えだけ置いてある。年明けには、この家での本格的な同居が始まる予定だ。
「あ、これ。言うとったケーキ」
『わ!美味しそう〜!サイズもちょうど良い』
「あれ、奈那ちゃんこれ買ってきたん?」
『ん?そうそう!帰りにコンビニで見つけて、懐かしいなぁって。シャンメリー、子どもの頃クリスマスに飲まなかった?』
「飲んだ飲んだ!お酒飲んだ気分で」
『駿くん、まだお酒ダメだし、これでクリスマスっぽさ少しでも出るかなって』
部屋着に着替えた駿くんからケーキを受け取り、皿に移し替えフォークを添える。本当はシャンパングラスが良いんだけど、そんな洒落たものは家になく、いつだか買って放置されていたワイングラスにシャンメリーを注いだ。
「奈那ちゃん、お酒結構飲むん?」
『んー?程々に?嗜む程度。強いやつはすぐ酔っちゃうから、度数弱いチューハイとかをちびちび飲む感じ』
「へぇ、そうなんや。俺も早く飲んでみたい」
『駿くん、お酒弱そう』
「まぁ、自分でも強くはなさそうな気ぃする」
ダイニングテーブルではなく、ソファー前にあるテーブルまでケーキと飲み物を運び、座る。あ、これ有名なケーキ屋さんのケーキだ!と目を輝かせていたのがバレたのか、こちらをみながら小さく笑う駿くんがいて急に恥ずかしくなった。
『じゃあ…メリークリスマス、イヴ…ってことで?』
「まだギリギリ、イヴやな」
『かんぱ〜い!』
グラスを合わせ、シャンメリーを一口飲み込む。ん、甘い。次は美味しそうなケーキにフォークを刺しパクッと食べると、ふんわり柔らかい食感と甘すぎず食べやすい生クリームが口内に広がる。ん〜!!美味しい!
パッと2人で顔を見合わせ、うんうんっと頷く。
『こんな美味しいケーキ食べられるのも駿くんのおかげです』
「いやいや、俺は何も。スタッフさんが用意してくれとったから」
『そういえば今日の歌番組、録画してあるの』
「え"」
『今一緒に見る?』
「え〜!あかんあかん!いやや!恥ずかしいもん」
『え?歌詞間違えた?』
「間違えてへんけど!」
せっかくだから、駿くんと録画した歌番組を見ようと思ったけど、どうやら恥ずかしい様で鑑賞会はお預け。明日1人でゆっくり見よう〜と思いながらケーキを食べ進め、あっという間に完食。ごちそうさまでした!
「あ、」
『ん?どうした?』
「あ〜日付、変わったなぁって」
『あ、本当だ』
テキトーに流していたテレビの番組がいつの間にか違うものに変わっていて、日付が変わったことに気づく。
『今頃、子どもたちの元には世界中のサンタさんからプレゼントが届いてるのかなぁ』
「…じゃあ、奈那ちゃんにも」
『え?』
「はい、メリークリスマス」
駿くんの手元には何やら某有名ブランドの紙袋が。え、と驚いて固まってすぐにソレが何なのか理解する。
『ええええ!…いいの?!』
「うん。っていうか、貰ってくれへんと困る」
『えぇ…ありがとう』
私が紙袋を受け取ると、ホッとした様な笑顔を浮かべる駿くん。嬉しいなぁとほっこりしつつも、ソファーの陰に隠したおいた私からのプレゼントも『メリークリスマス』と言って差し出した。
「………嬉しい」
『ははは!そんなに?』
「そんなに、やで。もう、めっちゃ嬉しい。ありがとう」
悩みに悩んで駿くん本人からヒントをもらったクリスマスプレゼント。彼は袋からそっと開け「わ、めっちゃええやん!」とプレゼントのマフラーを眺めている。ちゃんと喜んでもらえた様で本当に良かった。
『迷って結局無難な色にしちゃったんだけど』
「この色ならどの服装でも合うし、毎日つけていけるから嬉しい」
『よかったぁ。あ、私も開けて良い?』
私からの問いにコクンとうなづきながら「ちょっと緊張するな」ってつぶやく瞬間に小さく笑う。誰もが知っている有名ブランドの袋の中にはラッピングされた箱が一つ。ゆっくりとリボンを解き、箱を開けると…
『キーケースだ!かわいい〜!』
ブランドのロゴがプリントされている可愛らしいキーケース。すごく素敵なものを貰えた嬉しさもありつつ、私が『こんな高いもの、本当に良いの??』と申し訳なさそうに聞くと「…実は、」と駿くんが苦笑いしながら自身の鞄へ手を突っ込む。
『あ、』
「俺も…同じの買ってもうて」
『キーケース、お揃い?』
「家の鍵新しくなったし、新しいキーケース探しとったら、これえぇなってなって。あ、中の色味は違うねんけど」
『あ、本当だ。でもお揃い、なんか嬉しい』
「ほんま?嫌やない?」
『本当に嬉しい、ありがとう駿くん』
そう返事をすると、彼は「ああ〜良かったぁ」と後ろのソファーに傾れ込む。クッションを抱えながら「…安心したら眠なってきた」と可愛らしい一言。
デビュー前からデビュー後の今も、驚くくらいの忙しさで、明日…というか日付が変わった今日もクリスマス生配信があると言っていた。年明けの休みも引越し作業で潰れてしまうし、今が束の間の休み時間とも言える。
『駿くん、そこで寝ちゃったら風邪ひくよ』
「ん〜〜わかってる〜」
『明日、朝ごはんいる?』
「…え、作ってくれるん」
『もちろん。家事多めにするって約束でここに住まわせてもらってるんだし』
「いや、でも奈那ちゃん仕事休みやんな?」
『うん』
「じゃ、ゆっくり寝ててえぇよ。俺、明日配信のリハあってちょっと時間早いし」
『え〜?別に起きれるけど…あ、でも駿くんギリギリまで寝てたいか』
「あー…たぶん、そうなりそうな気ぃする」
じゃあ、朝ごはんはまたゆっくり食べれる時に。ということで、そろそろ寝ようと腰を上げる。そういえば駿くんがここの家に夜から朝までいるのは初めてだ。お互い自室があるから、一緒に寝るわけではないけれど何だかソワソワしてしまう。そんな私に気づかず駿くんはすでに歯磨きを終え、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出していた。
「…じゃあ、先寝るな?」
『ん、おやすみなさい』
「おやすみ」
LINEで「おやすみ」を送り合うことがあっても、こうやって直接本人を目の前にして挨拶をするのはどうにもこうにもくすぐったい。何だかにやけてしまう頬を押さえながら、就寝準備をしようと気持ちを切り替えた。
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