アーヴァインは昔、孤児院にいた。4歳くらいの話みたい。
魔女戦争が終わった頃だったから、親のない子はたくさんいた。そんな場所で育ったアーヴァインには、特別な子がいたみたい。
元気にアーヴァインを呼ぶその子が大好きで、一緒に遊ぶ時は戦争ごっこが多かったとか。

「…その孤児院…石の家?」
(セルフィ?)
「そうだよ〜」
「石でできた古い家?……海のそば?」

キスティスもセルフィと同じくアーヴァインの昔話にくいついてきた。

「そうだよ〜。ガルバディア・ガーデンで会った時、僕はすぐにわかったよ〜」
「どうして言わないのよ〜」
「そう、どうして?」
「だって2人とも忘れてるんだも〜ん。僕だけ覚えてるのって、なんか悔しくてさ〜。元気なセルフィとえばりんぼうのキスティ」

どうやら、セルフィもキスティスもアーヴァインと同じ孤児院出身だったみたい。でも2人だけじゃなかった。
ゼルも会話を聞いて、何か思い出したみたい。近くの海岸で花火をした事、そして天敵の男の子がいた事。

「サイファー…あいつも一緒だった」
「うわ〜!一緒だったんだ!」
「リノアとファーストネーム以外、みんな一緒だったんだ」
「ってことは〜!」

思い出に喜々としていたセルフィ。私とリノア以外って事は…。

「ああ…俺もそこにいた」

同じ孤児院で育った子が、みんなバラバラになって再びここに集まっている。これは、何かの縁だろうか。
それから、もうひとり。エルオーネも同じ孤児院にいたのだと。みんなより年上だった彼女はみんなからお姉ちゃんと呼ばれて親しまれていたみたい。
忘れていた記憶が蘇り、さっきまで暗かった雰囲気が少し明るくなった。

「みんあお姉ちゃんが好きだったのに、スコールが独り占めしてたんだよね〜」
(へぇ〜スコールにもそんな時期があったんだ)

可愛いな、なんて思いながらニヤニヤしてると、それに気づかれたのかスコールに少し睨まれてしまった。

「…あんた、よく覚えてるな。…おかしな話だ。俺は…こんな性格だから、誰も引き取ってくれなかったんだと思う。たぶん、サイファーも同じようなもので、だから、5歳くらいの時には2人ともガーデンにいた…はずだ。それなのに、孤児院の頃の話なんて全然したことがない。俺はあいつを見ても、そんなこと考えもしなかった。…変だと思わないか?」
「それはへ〜ん!あたしはトラビア行ってから、楽しいこといっぱいあったからね〜。だからちっちゃい頃のこと、忘れちゃったんだよきっと〜。でも、スコール達は変!ぜ〜ったい、へん〜!」

変…なんだろうね。…小さい頃の記憶がない、私もー。
そんな事を思っていると、みんな昔の記憶を思い出そうと色々話し始めた。
そうだった!って声をだして言ったり、あれ?あれ?と思い出そうとしても思い出せなかったり…。

「…どうして忘れるんだ?子どもの頃から一緒にいて…どうして忘れられる…」

いくら幼い頃の事でも記憶の片隅に残っているもの。しかも毎日のようにガーデンで顔を合わせていたのに、どうしてここに来るまで何も思い出せなかったのか…。

「こんな感じ、どう?…G.F.を使う代償。G.F.は力を与えてくれる。でも、G.F.は僕たちの頭の中に自分の居場所をつくるから…」
「その場所はもともと思い出がしまってある場所ってこと?それ、G.F.批判の人たちが流してる単なるウワサよ。そんな危険なものシド学園長が許すはずないじゃない」
「じゃあ、みんな忘れてるのに僕だけいろいろ覚えてたのは〜?どういうわけ〜?」

確かに、G.F.を使役しているのは3つのガーデンのうちバラム・ガーデンだけだ。他のガーデンでは知識は教えられるのみ。

「…セルフィはどうなの?G.F.体験は、バラム。ガーデンに来てからよね?」
「う〜ん…あたし、12歳の時に野外訓練行ったんだ〜。そこで倒したモンスターにG.F.が入ってて…、そのG.F.を暫くジャンクションしてたの。だから経験者って事。…でも、…でもへん!そのG.F.の名前、思い出せないよ〜!」
「じゃあ…やっぱりG.F.のせい?…どうする?」

キスティスがスコールに視線を送った。

「どうするって…それはそれでいいだろう?」
「よかねえだろ?!」
「ここでやめるのか?G.F.を外してほしか?戦い続ける限りG.F.が与えてくれる力は必要だ。その代わりに何かを差し出せというなら、俺は構わない」

スコールが言った言葉にみんな一旦考えたけど、そうだなって頷いだ。
今、みんなには守りたいものがある。家族や仲間。その人たちを護る為だったら…と。
その気持ちは私も一緒だ。元々欠けている記憶。私を拾ってくれた学園長や今、傍でともに戦うみんなを護るなたら記憶を差し出したって…魔女の力を使ったって護ってみせる。
そんな会話の中、キスティスが言ったママ先生って人のこと。
孤児院の経営者、その場にいたみんなのお母さんみたいな人。長い黒髪に、黒い服、優しい笑顔…そう言って思い出してた彼らの顔が目に見えて陰りだした。

「ママ先生の名前は、イデア・クレイマー。…ママ先生は、魔女イデアなんだ」

みんなハットした。記憶が一致したみたいで、みんな言葉に詰まっている。
みんなの育ての親が、魔女イデア。…という事は、シド学園長の奥さんだよね…。…でもー…考えたらおかしくない?ガーデンやSeeDを考案したのは魔女イデアなんでしょ?でも私は収容所でサイファーにSeeDとは何か聞かれた。魔女イデアが学園長の奥さんのイデアとイコールなら、そんな事聞かなくても分かってることだよね?

「ファーストネーム、どうしたの〜?難しい顔してる」

アーヴァインが私を覗き込んできて、慌てて顔を横に振った。

「僕が言いたいのはこう言うこと。リノアの行ったこと、とってもよくわかるんだ。でも、それでも僕は戦うよ。僕がこれまでに決めてきたことを、大切にしたいから。今まで少ない中で選んできた道。その道を選んだから今の僕がいる。その選んだ道を、選ばなくちゃならなかった道を大切にしたい」

そう、選択肢なんて多くなかった。その中で私達は…私は最善だと思うものを選んできた。それが正解だったかなんて今でもまだわからない。

「G.F.のせいで、大切なものをなくすかもしれない。いいんだ、それでも。僕は運命とかに流されてここにいるわけじゃないから。それに…僕たちは子どもの頃、一緒にいた。でも小さな僕たちはひとりで生きていけなくて、ただ泣いているだけだったさ〜。でもさ、こうしてまた一緒になれた。新しい仲間もできた。もう僕たちは小さな子供じゃない。黙って、離れ離れになるのは、もう嫌だから…だから僕は戦う。少しでも長く一緒に居るために。それが僕の精一杯だから」

アーヴァインの言葉は胸に刺さった。
そうだよね。誰も好きで戦ってる訳じゃない。ただ怖いんだよ。一人になるのが、大切なものを失うが。だから、どんなに辛くても、怖くてもー。

「オレもだぜ!戦うぜ!怯えて隠れくなんてイヤだからな
!」
「ママ先生相手なのが、つらいとこだけどね〜」
「それ状況によっては、ガーデンの卒業生同士が戦わなくてはならないのと同じよ」

彼の言葉で、みんなの迷いが晴れたみたい。みんなの未来をみる目が同じ方に向いた。

「リノア…俺たちの方法って、こうなんだ。戦うことでしか、自分も仲間も守れないんだ。それでもよければ、俺たちと一緒にいてくれ。みんなも望んでいるはずだ」

私たちを見る彼女は不安そうだったけど、みんな暖かく迎えてる。私も同じ。
リノアは少し顔を綻ばせた。すると、視界にひとつ、ふたつと白い粉雪が舞い降りた。妖精の贈り物だとはしゃぐセルフィ。みんな空を見上げ、静かに降る雪を感じた。

「なぁ、イデアの孤児院へ行ってみないか。何かわかるかもしれねえし」

ゼルの言葉に何が変わるわけでもないけど…正直、俺も見てみたいとスコールが言った。どこにあるかわからないイデアの孤児院を探す。次の行動が決まって、みんなガーデンに足を向けた。

「みんな…強いんだね」
「…戦わなくてもいい方法が、見つかればいいな」

目の前でリノアとスコールが言った言葉に私は立ち尽くして聞いていた。
リノアを…羨ましく思う自分がいることに今気づいた。何に対しても真っすぐで自分の気持ちを正直に打ち明けられる勇気をもっている。それは努力でどうにかできるものでもない、彼女の性格なのだろう。この戦いの絶えないなかで、その気持ちが残っている。私はそれが素敵な事だって思える。

(それでも…私はSeeDだもん…)

小さい時の記憶がなくても、自分がどこの誰なのかわからなくても…それでも今いる私、ファーストネーム・クレイマーは大切な人を仲間を護る為に…戦うんだ。


しおり
<<[]

[ main ]
ALICE+