ラビア


「仲間は俺達だけだもんよ…。サイファーの事全部みとめるもんよ」

彼らの言葉は、本心だった。サイファーの望みが、自分達の望みだって。

ガーデン修復が完了して、真っ先に向かったのはバラム。ガーデン起動時の騒動もあったし、何よりガルバディア軍が次に狙うのはFHと同じ港町のバラムかも...というシュウの進言からだった。
そこで目にしたのは、ガ軍によって封鎖されたバラムの姿。街の入口で足止めをくらう住人と、バリケードの前に立つガ兵。
バラム出身のゼルとスコール、私の3人で街の開放に動いた。そこで会った指揮官と司令官が雷神と風神の2人だった。ガーデンでマスター派との騒動以来姿を見なかった彼等がいつ、どうやってガ軍に入ったのかは分からないけど、おそらく私達と別れてからサイファーと接触したのだろう。

「仲間だったら…、サイファーにバカなことやめさせろよ!」
「全部肯定!」
「俺たちゃそんな、ケチくさい仲間じゃないもんよ!」


真っ直ぐサイファーを思う気持ち。全てを信じると言った彼らを否定することができなかった。

「誰が敵で誰が味方になるかなんて、流れの中でどうにでもなってしまう。俺たちはそう言われて育ってきたんだ。だから…特別なことじゃない」

二人が去ってからスコールが言った言葉。
私もそうだねって心の中で呟いた。それは、私がいつも言っている言葉と同じ…だけど…。

「わりきらないとね…」

ガラス越しに見える青く澄んだ空を見上げ、私はポツリと言葉を落とした。ハァとため息を吐くとトントンと軽快な音が響いた。

「ファーストネーム、もうすぐ目的地よ。準備して」

この声はキスティスだ。
もう到着か…。空を飛ぶと本当に早いね。

「了解。すぐ向かうよ」

ベッドから体を起こし、壁に掛けていたアウターに手を伸ばした。



***



ここはバラムより北東に位置するビッケ雪原。
周りを山々に囲まれ、年間通して雪に覆われている。

「ミサイル…直撃?」

愕然とするセルフィは高い塀の奥を見ようと背伸びしたり塀に手をあてたりしている。
そう、私たちはセルフィの希望でトラビア・ガーデンに来ている。バラム同様、ガルバディア軍に攻撃対象とされたトラビア・ガーデンはそこらじゅうに瓦礫が飛び、地がえぐれ、残った塀も煤で黒く染まっている。

「…あたし、行ってくる」
「気をつけろよ」

うん、と頷いた彼女は塀に掛かっていたボロネットに手を掛け、登っていった。
その後に他のメンバーも続々とガーデンから降りてきた。

「セルフィは?」
「先に行かせた」
「こんなボロボロなところ、モンスターはいないのかな?スコール、急いで追いかけようよ!」

リノアが言うと、皆セルフィが登ったルートを通って中に入って行った。私も、彼らに続いて網に手足を掛けた。
塀を登って見えたのは、外側より無残破壊されたトラビア・ガーデンの姿。
被弾した跡がそこかしこに見え、建物の壁だと思われるものがそこらじゅうに転がっている。真っ直ぐ歩けない程に道が割れ、正門奥に見える噴水はボロボロになり少し傾いている。

「まかり間違えば、バラムガーデンもこんな風になっていたかもしれないわね」
「…うん」

キスティスの言葉にうん、としか言えなかった。トラビアへのミサイルも止めることが出来たなら…って考えずにはいられない。でも、今更それを思ったところでどうすることもできない現実。

「私達にもできることがあるかもしれない」

それで納得しようとする様に言った言葉に、周りの皆も静かに頷いてくれた。
静かに、足場の悪い道を奥に進んでいくと人がまばらに見えてくる。ガーデン生だろう、ある者は右へ左へと走り、ある者は瓦礫に背をあずけ頭を垂れている。

「募金お願いしま〜す!」

小さな小箱を持った生徒が声をあげている。私もそれくらいなら力になれるね。
そう思って彼女が持つ小箱にお金をいれた。

「ありがと〜!…あれ?あなたトラビアの生徒ちゃうやんな?だったら、さっきのお金は返すね!」
「…でも」
「うちら、自分の事は自分たちでなんとかするってのがモットーやから。気持ちだけ受け取っとくわ!ありがとうな」

トラビアは生徒が自立して行動する校風だって聞いたけど、本当みたい。自分たちのことは自分たちでなんとかする。セルフィの強さってここにあったんだ。



***



セルフィが来たら帰る。それまで待機だ」

スコールの言葉に私達は頷いた。
ガーデン奥にあるバスケットコート。セルフィが知り合いに挨拶している間、私達はここで待機することになった。フェンスに、ベンチに瓦礫に腰をかけ、みな神妙な顔をしている。みんな色々思うところがあるみたい。
私もそう。色んな事が頭によぎる。どうして魔女はエルオーネを必要に捜すのか。そもそも魔女はどこにいて、なぜ今動き出したのか。今までどこにいて何をしていたのか。スコール達の話を聞くと、彼らを過去に誘っているのがエルオーネだと…じゃあ、魔女も過去にいきたがっている?
そんな事を考えていると、バスケットボールが飛んできた。コロコロと転がったボールと共に、セルフィが私達のもとへかけてきた。

「ごめん、お待たせ!みんな、ワガママ聞いてくれてありがとう」

いつもの様に笑って言うセルフィ。でも目が赤くなってる…。

「気ぃ落とすなよ〜」
「ありがと、アーヴァイン。魔女とバトルする時は、絶対連れてってね。カタキ討ちなんだから。もう、絶対なんだから」
「……」

軽く言ってるけど、目は本気だ。

「…あのさ…」

言葉を挟んだのは、ずっと俯いていたリノアだった。

「バトル…しなくちゃダメなのかな?他の方法ってないのかな誰も血を流さなくてすむような、そんな方法…」

怯えた様に言う彼女は、いつもより弱々しく感じた。

「おいおいおい!今さらそりゃねぇだろうよッ」
「どこかの頭のいい博士とかが、バトルしなくてもいい方法を考えてるとか…」

リノアの言葉に皆何か言いたげだけど、何も言わない。でも思っていることは大体分かる。
誰かがやってくれないな、なんて誰かに頼ってもどうにもならない事があるのを私達は知っている。だから、私達は武器を取り、私達自身を、仲間を、依頼者を護る力を付けた。リノアもレジスタンスのメンバーだ。私たちと少なからず同じ気持ちなのだと思っていた彼女からの弱気な言葉に、少し驚いた。

「…リノア、どうしたの?何か思うことがあった?」
「……怖くなった、かな。わたし、みんなと一緒にいて時々感じることがあるんだ。あ、今、私達の呼吸のテンポがあってる…そう感じること、あるの。でもね、戦いが始まると違うんだ。みんなのテンポがどんどん早くなっていく。私は置いていかれて、なんとか追いつこうとして、でもやっぱりだめで…」
(…リノア…)

ガーデンで訓練を積んできた私達とリノアじゃバトルスキルに差が出て当然といえば当然だ。だけど、私達と同等に進みたい。追いつきたい。でも現実はそうじゃなくて…。
そんな葛藤の中、私が追いついた時にみんなは無事だろうか、傷ついていないだろうか…って不安になるみたい。
トラビアガーデンの姿を見て、現実を間近に見せつけられて、心の奥に思っていた気持ちが溢れてきたのかもしれない。

(リノアの気持ち…わかるよ。私も…)
「わかるよ、リノア。誰かがいなくなるかもしれない。好きな相手が自分の前から消えてしまうかもしれない。そう考えながら暮らすのって辛いんだよね〜。…だから僕は戦うんだ」

いつもチャラけてるアーヴァインが真剣な瞳で言った。足元に転がってるバスケットボールを持ち上げ、壊れかけたゴールに向かってボールを投げた。
綺麗な弧を描いて、吸い込まれるようにボールはネットを潜った。

「少し、僕の昔話を聞いてくれる?」

優しく言ったアーヴァインを、誰も止めることはなかった。



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