こんな事、漫画や映画の中でしか起きない事だと思ってたのに…。



かわらぬ想い



ピッ!と笛が鳴ると同時に地を蹴って駆け出す。内側に引かれた白線のギリギリを風の様に駆け抜ける。コーナーを曲がり横に引かれた白線を越えれば、競い合ってた皆がペースを落としクールダウンに入った。

「名前!また記録更新したよー!」
「ほんとですか!」
「今度の地区大会頑張りなよ」
「はい!」

多門春日山高校陸上部。そこに私は所属している。もうすぐ高校入学して初めての地区予選がある。

「あれ…真奈ー!何してるの?」
「ちょっとぼーっとしちゃってさ。グラウンド3周してこいって」
「あらま。ご愁傷様。何なら一緒に走ってあげようか?」
「いいよ〜。陸上部の名前のスピードに付いて行ける訳ないし」
「真奈も十分早いでしょ?」

ファイト!と言った私に笑顔を向けて走って行ったのは、幼馴染の白羽真奈。弓道部に所属していて、あの袴着でグラウンド3周は大変そうだな〜なんて思いながら頑張って走る姿を見守っていた。

「名前!二本目行くよ」
「はいッ!」



***



「やっと部活終わったぁ〜。つっかれた〜」

部活も終わり、弓道部の真奈となおみ、アキ、私の4人で現在帰宅中。山に囲まれた静かな道を歩く。決して田舎って訳じゃない。電車に乗れば街まで10分くらいだし。

「グラウンド周、ごくろうさん。なにボ〜っとしてたのよ?」
「弓道場でボンヤリしてると、的にされちゃうよ」

なおみとアキが苦笑しながら言った。確かに的になったら…笑い事じゃないよね…。

「やめて〜、冗談にならない。さっきはね…ん〜、なんか時代劇みたいな…夢?なのかなぁ…?」
「なのかなぁ、って?」

はっきりとしない真奈の物言いに私もハテナ状態。

「真っ昼間から、部活の最中に夢?白昼夢ってやつかね?」
「んー、どうなんだろ?あ…!そういえばその夢に出てきた人、RYUに似てたかも」
「え?!RYU!いいなぁ〜、私の夢にも出てきてくれないかなぁRYU〜」
「リュウって、『El_Drago(エル・ドラゴ)』のRYU?名前、確か好きだったよね?」
「うんうん!」
「RYU、時代劇バージョンだよ」

RYU一筋もう何年だろう?同学年の男子がいも・かぼちゃに思えるくらいゾッコンだ。私の夢にも出てきた事ないのに!!羨ましい…。しかも時代劇バージョンとか!!
想像するだけで心が満たされる!あぁ…ステキ!!

「でも時代劇の夢って、お姉さんの影響じゃないの?」
「そういえば、お姉さん歴史系めちゃめちゃ強かったよねー。色々知っててすごかった」
「お姉ちゃんは歴史好きっていうか上杉謙信が好きみたい。それが高じてって感じだよ」

二人の言葉に真奈が答えた。私も小学生の頃から真奈のお姉さんと交流あるけど本当に歴史に詳しくて、上杉謙信の話になると目の色が変わって嬉々として語ってくれた。生い立ちから、どんな人だったとか。そのおかげで私も上杉謙信の事は、他の歴史人物より詳しくなった。
私達の住んでる上越では土地柄、上杉謙信ファンの人は老若男女問わず多いし。初詣は春日神社に行く人もほとんど。
そんな話をしていると、真奈の携帯が鳴った。

「あ、噂をすればお姉ちゃんだ。ちょっとごめんね〜」

もしも〜し、といいながら少し離れて電話にでた。
歩きながら今日暇?帰りどっかいく?なんて話しながら歩いていると、電話をしてた真奈の声が大きくなって自然と私達の耳まで届いた。

「里親さんとこから!?たいへん!まーくんまだ、8つとか9つとかだよね?」

慌てた声色から、何かあったんだと私たちは雑談をやめて真奈の声に集中した。

「わかった。探すのね?行きそうなトコ考えて、これから寄ってみる」

ピッと電話を切るとなおみがまーくん?と声をかけた。

「前、近くに住んでて…よく遊んでたんだ。まだ10歳なのに家出しちゃったって…」

まーくん…。薄れてた記憶を呼び起こした。私も何度か会った事ある。私にはそんなに懐いてくれなかったけど、真奈の事は気に入ってたみたいで二人で遊んでるとそぉっと近づいて来て。絵が上手で似顔絵を描いてもらった事もある。

「え、ウソ、探すんだったら、一緒に行く?」
「ありがと。でも大丈夫、この辺りなら私一人でも探せるよ。まだ子供だから…そんなに早くは移動できないだろうし。何より、ちょっと人見知りなんだよね」
「じゃあ、私手伝うよ!まーくんが顔覚えてくれてるかはわからないけど、私は顔知ってるし」
「…そうだね。じゃあ、お願い」

気をつけてね!と言うアキ、なおみと別れて私達は走った。

「真奈、どこかアテあるの?」
「うん…うちの近くの林に泉があるでしょ?」
「あぁ、確か、祠がある所だよね?」

そういえば、三人で行ったことあったっけ。
真奈のおじいちゃんが祠のお世話をしてて、真奈とお姉さんの間では『謙信様の泉』って呼ばれてたっけ。
私達は足早にその泉のある場所へ向かった。



***



夕方になると、林の中は薄暗い。到着して私たちは手分けして捜す事にした。私が林の外側を、真奈は泉周辺を。
別れて10分くらい経つけど、まだまーくんらしき影さえ視界に入って来ない。

「まーくん!まーくん!いたら返事してー!」

そんなに広い林じゃないんだけどな〜。隠れられたら捜すのは大変だ。
一度泉に行って真奈と合流した方がいいかな。もしかしたら、見つけてるかもしれないし。
慣れない道を走った。視界の奥には小さな泉とその近くに建つ祠。泉の近くには真奈の姿も見えた。

「真奈ー!まーくん見つかっ―」

すぐ近くまで寄った途端、泉を覗き込んだ真奈の体が吸い込まれる様に泉に落ちていく。

「?!真奈!!」

咄嗟に真奈の手を掴んで引こうとするが、凄い力で引っ張られてるみたいにそのまま私も泉に落ちてしまった。足を伸ばしたのに、地面に足がつかない。
この泉、こんなに深かったっけ?!
パニック状態の中、真奈の腕を放しちゃだめだって思って、掴んだ手に力を込めた。
…だめだ…い、きがー!
苦しさから逃れる様に意識が遠のいていく。

ま…な、…ーーー

視界が黒くなる。掴んでいた手の力が、抜けていく…。

だ、……れ、か…ーー


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