…寒い。私、生きてるー。
土の匂いがする。誰か、助けてくれたのかな?…真奈は…?真奈は、どこ?
辺りは真っ暗。もう夜になったんだ。風も冷たいや。服も濡れてるだろうし、早く起きて…そうだ、まーくん見つかったのかな。
頭の中で色々考えながら体を起こした。ゆっくり周りを見渡したけど、真奈の姿はなかった。…それどころかー

「…え、…どこ?…ここ」

泉も祠も見当たらなくて。林の中にいたはずの私は、木々が生い茂る場所に倒れていた。
斜面になっているのを見ると、ここは山みたいだ。
何で山に入ったの?…もしかして、誰かに拐われてここに捨てられた?!って事は、真奈は!?真奈ももしかしてー!!

「真奈…どこ」

呟く様に真奈を呼んだ。大きな声を出して、もし私達を拐ったかもしれない人が出てきたりしたら、なんてマイナスな事ばっかり考える。
パキっという小枝を踏んだ音が後ろから聞こえ、ビクッと体が揺れる。
ま、な?
振り返ったら、私と同じ状況の真奈が名前〜!って言って抱きついてくれる。
そんな期待を裏切って私の後ろに立ってたのは、大柄の男が二人、いやらしい笑い声を洩らしながら近づいてきた。

「見かけない着物を着た女だな」
「おじょうちゃん、こんな所でなにしてるんだ?」

口元がニヤリとあがってるのが月明かりでわかった。

いやだ…怖い…ー。

私は走った。後ろから待て!と声を上げながら足音が近づいてくる。
部活で走るのは得意だけど、山道は別。思うように走れない。恐怖からか足が震えて力が入らない。
息が上がる間もなく、私は肩を後ろに引かれ地面に倒されてしまった。

「い、やッ!!放して―ァッ!!」

振り絞って出した声は、男に思い切り頬を叩かれて途切れてしまった。歯で口内が切れて血の味がする。
いやだ、こわい…!

「そんな力で俺達に敵うはずねーだろ。ヘヘヘッ、たっぷり味わってやるからじっとしてな」
「ひっ、いゃ―ッヤダ!やめてぇー!!」
「おい、その着物は汚すんじゃねーぞ。高値で売れるかもしれねぇからな」

必死に抵抗しても、男二人に押さえられ服の中へ厭らしい手が入りこんでくる。

「ッ、ヤダ!イヤァァ!!」
「うるせぇな!!静かにしやがれ!!」

何度も何度も顔や腕を殴られ、仕舞いには口に布を巻かれてしまう。
やめて…いや、ーやめて!!
気を失えたらどんなにいいだろう。だけどそれもできなくて、吐き気のする様な行為を目を瞑り、ただ終わまでじっと耐えているだけだった。



***



「もうコイツ目が死んでるぜ?」
「いいじゃね〜か、大人しくてよ」
「おい、お前こいつ見張ってろよ」
「は、はい!」
「ま、腰が痛くて動けねえだろうがなァ」

大きな笑い声を上げ、後から合流した下っ端らしい少年に私の監視を命じてどこかへ行ってしまった。
私の初めてが…あんなやつらに…。
雑草生い茂る地面で無造作に荒々しく、体中にあいつらの欲が飛び散ってる。生臭いそれを拭う気力もなく、私はただ地面に倒れ込んでいた。頬に伝った涙の跡。でも少しすれば、また止め処なく涙は溢れ出す。別に泣く気なんかなくても、さっきまであった事が脳裏に過ぎる度に流れ出る。
何で…こんな目にあわなくちゃならないの?…真奈はどこに行ったの?

「…おい」

声をかけられると、私の見張りを言い渡された男が渡しを見下ろしていた。歳は私より少し下に見える。

「…大丈夫、…なわけないか…」

そう言って一歩私に近づこうとした彼に、ビクリと身体が跳ねた。意識してではない。でも、もしかしたらまた…なんて事を考えると身体の震えが蘇ってくる。

「…―少し歩けば川がある。…体、流したほうがいい。これ、使え」

少し汚れた手拭を私に向けて差し出してくれた。
…あいつらの仲間のくせに、私を気遣ってるの?
でも、それを受け取る気も、力もでなくて、そのまま視線を彼から地面に戻した。
少し間があって、彼は私の目の前にその布を置いて、少し離れた場所にある石に腰掛けた。

夜風が体を撫でてゆく。一糸纏わぬ体に夜風は冷たく体がブルッと震える。
これから…私、どうなるんだろう。また…あいつらにいいようにされて…。

「―っ、」

そう思うだけで胸が苦しくなって目が熱くなる。もう嗚咽さえでない。ただ、地に倒れたまま、遠くを見て涙を流すだけ。
わたし、…どう、なるの…?



***



「……ん」

いつの間に、寝てたんだろう。まぶしい…。
木々の葉が揺れ、顔に陽が当たって目を細める。体をみれば綺麗に拭かれており、服も羽織っている。
これ…は?
少し離れた場所にいた少年は、舟をこいで寝ている。その彼の上半身は布を纏っていない。
これ…もしかして…。

「ん…ぅ、〜ッ…起きてたんだ」
「……これ」
「…言っとくけど、体拭いただけだからな。別に変な事はしてねーから」

視線を外して言った彼。あいつらの仲間だけど、嘘は言っていないと思った。

「それじゃやっぱ短いよな。どっかで布調達してやるから、それまで我慢してくれな」

私は黙ってコクリと頷いた。



***



その日の夜、山賊達は酒盛りをしていた。ワイワイ騒ぎながら私の服を売った金で買った酒と肉を食らっている。
ここは…どこ?地元…じゃない?制服を着物と言っていた。それに、男たちが着ている服も店で売ってる様なものじゃなくて、汚れたただの布。
本当に…ここはどこなの…。
少し離れた場所から男たちが騒ぐ姿を見て、そんな事を考えていた。気分がいいのだろう。こっちに目を向けることなく笑って盛り上がってる。
今なら…逃げれるかも―酒に酔ってる今なら。
ゆっくり、こっちに気づかれない様に移動する。木に隠れる場所まで移動したらダッシュして山を下りる。
視界も足元も悪い。思う様に足が動かない。でも、少しでも遠くに!早く下山しないと!!
道なき道をかき分けて、がむしゃらに走る。ただ布を巻いただけの体には枝に引っかかった傷がいくつもついていく。

「どこいきやがった!出てこい!」

あいつらの声が響いてきた。
鼓動が速くなる。心臓が口から出てくるんじゃないかってくらい。息の仕方も分からなくなってきた。

「ハァ、ハァ、ハ、ぅわッ!!」

必死過ぎて前が見えてなかった。足を踏み外し、小さな崖に落ちてしまった。

「…―ぃたッ」

慌てて起きようとしたけど、足に鈍い痛みが走った。挫いちゃった…。

「どこに隠れやがった…」

すぐ近くに奴らの声が聞こえる。自分の口を抑えて息を潜める。鼓動が煩く体に響いて、外に聞こえないかビクビクしていた。
ガサっと聞こえた瞬間、腕を勢いよく引かれた。心臓が跳ね、血の気がサッと引いた。

「!!」
「しっ」

耳元で聞こえた声は、あの男たちのものではない。
この声は―

「静かにしてて」

私の監視を任されてた、彼だった。
こっちには見当たりません!と離れた場所にいるやつらに言った彼が、他の場所に捜索に行った男達を見て振り返った。

「山道は見つかる危険があるから、あそこの川沿いに山を下っていくんだ。少し走れば村が見えてくるはず」
「なん、で…逃がしてくれるの?ーッ!」

言った時、彼の後ろに人の気配を感じた。その瞬間、肉が裂かれる音と夥しい真っ赤な血が空を舞った。

「ぁ…」

袈裟懸けに斬られた彼が私に倒れ掛かってくる。彼は目の光が消えかかりながら、逃げろと小さく呟いて私の体を押した。丁度坂になっていて、私はそのまま転がり落ちた。気が動転する中、必死に彼の言葉を思い出し無我夢中で駆け下りる。
川沿いに走っていけば、村がある。そこまで逃げ切れば!

「ハァ、ッー」

そう思ったのに、強い力で髪を引っぱられた。

「いたッ!」
「少し痛めつけねぇとわからねえみただな」

髪を掴まれたまま木に打ち付けられる。返り血を浴びたそいつは、笑みを浮かべながら持っていた刃物をチラつかせてくる。

「足の一本でも落としゃー逃げれねえよな」

いやだ。目が本気だ。死ぬ。殺される。あの子みたいに。
目の前で起こった光景が走馬灯の様にリプレイされる。

「いや、やぁぁあああ!!」

助けて…誰か!!
刃物を構える男から目を背けた瞬間、ズブシュと肉が切れた鈍い音がした。
目を開けば、瞳孔が開き、刃物を落とした男がゆっくり私に向かって倒れ込んできた。首から血が噴出し、まるでシャワーみたいに私にかかる。

「ーーッ、いやっ!!」

思わず男を払いのけ、見上げれば頭に布を巻いた赤髪の男が立っていた。とても冷たい目をして私を見下ろす彼に月明かりが射した。うっすらと見える彼の顔はー

「りゅ、…う…?」

El_DragoのRYUに似ていたー。


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