頑張る君達を、みていたい


「昨日のテニス部の試合、観に行った?」
「ううん。だって、観に行ったら他の学校の人に嫌な目でみられるさー」
「ねー。しんけん、うちのテニス部って評判悪いさー」

朝のホームルームが始まる10分前。後ろで繰り広げられてる話が耳に入ってきた。
私の学校、比嘉中学のテニス部は評判が悪い。あ、男子テニス部の方ね!女子テニス部は…普通?
とにかく、勝つ為ならラフプレイも躊躇わずするとか…私はちゃんと見た事ないけど、噂ではそうだ。
相手学校の監督にボールぶつけるとか、目に向けて砂をかけるとか…。
私も、それはどうよ?って思う。反則じゃないの?
でも…そんな事言える訳がない。
だって…怖いもん!!特に部長の木手君とか!!
あの眼鏡が光った日にゃ、琉球空手の達人も一目散で逃げて行くとか…。
そんな話を人伝いに聞いて、私の中で関わりたくない集団BEST1になった。



***



「じゃ、また明日〜!」
「うん、またね」

友達と途中まで一緒に帰って、海の見渡せるT字路で別れた。
今日は天気いいさー!海も真っ青だし。…ちょっと寄り道して帰ろうかな!
足取り軽く、浜辺へ向かって歩いた。
焼けるの嫌だから海に入る事は余りないけど、浜辺に立って海を見渡すのは好き。
海を見てると、小さな事でうじうじしてる自分を奮い立たせる事が出来るから。
今日はただ海を見たいだけなんだけどね。

「…あ…あれ…」

目下に見える浜辺に十数名の集団が見える。ズボン1枚で浅瀬に入って、浜辺には竹刀を持った大柄の…ハゲ。
…早乙女だ。って事は…テニス部か!?折角来たのに、なんでこんな所にテニス部が?
慌てて私は防波堤の影に身体を隠し、そっと覗き見た。
いや、関わりたくないんだけど…何してるのかちょっと気になるでしょ?

「最後まで潜っていられた奴がレギュラーだ」

早乙女がそう言ったのが微かに聞こえた。
レギュラー…てのは、試合に出れるメンバーって事だよね?
…えぇぇえ?!レギュラーってテニス上手い人がなるんじゃないの?素潜り1番って…なんかおかしくない?
そんな事を思ってると、早乙女が竹刀で浜を叩くと同時に、浅瀬にいた部員の皆が海の中に消えた。
一瞬にして静かになった浜を、私はじっと見ていた。誰が最後まで潜っていられるのかな…って思ったから。
そんな興味半分で見始めて1分が経った。
…私ならこの辺でギブアップかな…なんて思うけど、テニス部のメンバーは誰一人顔を出さない。
2分過ぎた頃にポツポツと頭が出だしたけど、大半はまだ水面下だ。
…もしかして、沈んでる…なんて事はないよね?
そんな心配をしながら、次々顔を出す海辺をじっとみていた。
開始から何分か経った頃、漸く見知った顔が出てきた。
あの金髪は…平古場君か。それと同時くらいに顔を細長いのが…えっと…知念君…だっけか?
残ってるのは3年生メンバーらしく、甲斐君、田仁志君、木手君だった。
最後まで潜っていられたのが……えっと、名前忘れた。坊主の子。
真剣に素潜りしてたんだな…レギュラーの座がかかってたら素潜りでもこんな真剣になれるんだ…。

「レギュラーは不知火、木手、田仁志、甲斐、知念、平古場、新垣――」

早乙女がレギュラーメンバーを読み上げた。

「じゃ、レギュラーはこれ付けて遠泳5キロ行って来い」

そう言ってドンと浜辺に置いたのは…錘?砂浜にくい込んでる所を見て、相当重そう。
素潜りを終えて間もないのに、それ付けて5キロ?!死ねって言ってる様なもんさー!
早乙女はスパルタって聞いた事あるけど…スパルタにも程がある…。
そう思ってたのに、レギュラーの皆はハイと返事をして、その錘を足に付けて沖へと泳いで行った。
…しんけん?!溺れたらどうするんさー?!!
隠れてた身を防波堤へ突き出し、泳ぐ彼らを目で追った。
錘をつけてる筈なのに、私よりもすいすい泳いでる。
彼らが遠泳している間、他のメンバーは浜辺ダッシュ50本を言い渡された。
誰一人、弱音を吐くことも、文句を言う事もせず、一生懸命練習してる。
皆に恐いって陰口叩かれてるテニス部が…こんなハードな練習してたなんて…。
そう思ってると、沖からレギュラーメンバーが戻ってきた。
私は急いで体をひょいと隠した。
…全員帰って来て…るさー。凄い…アレでしんけん5キロ泳いで来たんば?
レギュラーが戻って来た所で浜辺ダッシュも終わって早乙女が何か話している。
その後、木手君が他のメンバーに声を掛け、円陣を組んだ。

「わったーの時代がいつか来ぅーさ!来ないなら…創るまでやさーー!!」
「オォオーーーーー!!」

浜に響き渡る皆の声を聞いて…なぜか感動してしまった。鼓動が、早く波打つのを感じた。
今まで卑怯なテニス部としか認識してなかったのに…どうしてだろう…すごいなって…思った。



***



…来てしまった。
あれから数日経って、今日はテニス部の試合の日。浜辺の練習を観て以来、彼らのテニスを見た事なくて…来てしまった。
テニス部…どこで試合してるんだろう?…ってか何処にいるば?終わってたりして…とりあえず…コート見て回ろうかな…。

「…あぃ?…苗字さん?」
「?!」

声をかけられ振り返ると、クラスの子がいた。
私の後ろでテニス部の陰口を言っていた本人。

「何やってるんば?くんな所で。もしかしーね、テニス部の応援とか?」
「え、…あ…」
「あはは、そんな事ないよね?あのテニス部の応援なんて、他の人に何て言われるか分からないしねー!」

私の言葉を聞かず、自分の意見を言う。…前の私なら、そうだよね〜と心の中で頷いてたと思う。

「あたしは他の学校のテニス部観に来たんさー!テニス部ってカッコイイ人多いし!」
「へぇ〜、…そうなんだ」
「うちの学校のテニス部もいい線いってるのに、アレだもんねー。
 いくらカッコ良くても卑怯な手使う奴らはダメさー。絶対弱いから卑怯な事しないと勝てないだよ」

好き放題言うクラスメイト。

「…ちがう」
「…え?」

なんだか…胸がくるしくて…

「弱いから…卑怯な事してる訳じゃない…と思う」

しどろもどろだけど…言葉が止まらなかった。

「テニス部の皆は…強いよ。テニスが強いかは…私、観た事ないから分からないけど…人として…凄く強いものを持ってる人達だと思う」

びっくりしたちらして、私を見るクラスメイト。

「私…自分が違うって思っても、意見とか気持ちとか…押し込めてた。…人にどう思われてるかとか、嫌われないかとか…気になって。でも、テニス部の人たちは、自分がどう思われても、自分達の目指すものの為に一生懸命頑張ってる。……私にはできない」

浜辺で円陣を組んでた彼らが脳裏に浮かんできた。

「ラフプレイをしていいとは思わないけど…弱いから、やってるって訳じゃないと思う。彼らは彼らで…頑張ってるって…思う」
「…ふーん」

呆れた感じのふーんて言葉にが体にチクっと刺さる感じがした。
この感じになるのが嫌だったから、今まで自分の意見を言わなかった。
だけど…――

「じゃ…応援してやれば?あたしはどうでもいいし」

そう言って、クラスメイトはどこかに行ってしまった。
…あぁ…やっちゃったぁ…月曜学校行きにくいなぁ…陰口叩かれたらどうしよう…。
はぁ〜っと溜息一つ落として顔を上げると…後ろに人の気配を感じて振り返ると――

「?!」
「…そこ、どいてくれますか?通れません」

…比嘉中テニス部御一行様。…いつからいたんば?!今までの会話は聞かれてない…よね?

「あ、は、はい…」

道の真ん中に突っ立ってた体を端に寄せると、下を向いたままの私の前を御一行様は前を通って行った。
…ふぅ…やっぱ…恐いのは変わりないか。

「―なぁ!」

声をかけられ顔を上げると、さっき通り過ぎた筈の――甲斐君。

「…サンキュな」

そう言ってメンバーの下に戻って行った。
…心臓がトクンと鳴った。
恐いと思ってたのに…笑顔で…ありがとうって言ってくれた。自然と…私も笑顔になってるのに気づいた。
って、聞かれてた?!…うわ〜、なんか恥ずかしい…。

「えー、ぃやー!」
「え?」

声の先に視線を向ければ、レギュラーメンバーが居た。

「応援するなら、コート横で見てろよー」
「隠れて見られたら、密偵されてるみたいで気分が悪いですからね」

言うだけ言って、ぞろぞろと行ってしまった。
…あれは…来いって事だよね?んで、堂々と観ろって事…だよね?
なんか…急展開で頭がついて来ないんだけど…1歩ずつ…彼らの後を追って行った。

まだ、ちょっと戸惑いが残ってるけど…でもこれだけは言える。
見てみたい。…彼らの目指しているものを…その姿を――私も見たいって思った。


試合はストレートで比嘉中の勝ち。
ラフプレイもせず、楽しそうにテニスをしてた。
卑怯な手を使ってるのって…ほんの1面で、本当にテニスが好きな他の人達と変わらないんだなって思った。
でなきゃ、あんなスパルタ耐えれないよね。

さ、試合を終えたメンバーに、勇気を出して声を掛けに行こう。
真っ直ぐで努力家で不器用な彼らに…おめでとうの一言を。
そして…伝えたい。頑張る君達を、みていたい…って――


fin


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