時空を超えて…
「名前!お疲れ様ー!」
「あっ、お疲れ〜!」
「苗字ちゃん!今日の振り、最高だったわ〜!次の発表も期待してるカ・ラッ」
「あはは!ありがとうございます、先生!」
「そのミサンガのご利益かもな〜。あっしもそのミサンガ欲しいわ〜!」
「あははは!」
あの夏から、もうすぐ1年。
自分の時代に戻ってきて、うちは居酒屋のバイトを続けながらダンススクールに通い始めた。
きっかけは、永四郎君の言葉。
『こういうの苗字さんに合ってるんじゃないですか?』
『ダンスしてる時の苗字さん、とても生き生きしてますよ』
その言葉のおかげで、今…うちはここにおる。
今日はダンススクールの定期発表会。
まだ通い始めて1年も経ってないうちは、振り付けの先生に見込まれ、今回の発表会のメインに出させて貰った。
ダンスをしてると楽しい。辛い事がない訳やないけど…でも、踊っとったら思い出す。
皆と一緒に踊った時の楽しさ、嬉しさを……。
「そういや〜苗字、明日っから沖縄行くんやって?」
「うん!朝一の飛行機でな」
「でも明日で夏終わりやろ?時期外すっちゅーても中途半端な時期に行くねんな〜…」
「えぇねん!…だって、約束したんやもん」
「約束?沖縄に友達でもおるんか?」
「…うん」
うちは携帯に貼ってるプリクラを見た。
やっと…やっと逢えるんやな……皆と――。
「さあ!皆着替えて出るわよ〜!今日は近くの店予約したからパーッと行きましょう!」
「「「おーーー!!」」」
お疲れ会は楽しかった。でも、うちは別の理由で心浮かれていた。
うちの心は、もう…あの海に着いている―――
「……うわぁ〜〜〜…やっぱ沖縄あっついわ〜〜〜」
空港から出て、第一声にでた言葉がそれやった。
やっぱ31日っつってもこの暑さは半端ないわ…薄着で来て正解やな…。
うちはタクシーを拾って…向かった先は―――
「懐っかしいーなー!…比嘉中…」
うちがおった家の住所なんて覚えてないから、取りあえず皆の通っとった学校に来た。あの頃と、なんら変わりない姿をしてる。
花壇には真っ赤な花が咲いてるし、緑の木々も潮風に吹かれて囁いてる。
…この奥のコートで、皆とテニスしたなー。
ペットボトルぶつけられたり、火傷したときもあったっけ…。
思い出をかみ締め、うちは学校を後にした。
学校から、うちの住んでた洋館までの道のり…。
ホントに…あの時のまんまや…。所々に置いてるシーサーの置物。
可愛いばーちゃんがやってる小さな駄菓子屋。道々に香る、アカバナの香り。
どれも、昨日の事の様に鮮明に思い出される。
細い裏道を出て見えたのは…空の色を映し出した、真っ青な海―――
「ここも…変わってへんな〜!」
透き通る綺麗な青。サラサラの砂浜。水平線の上に浮かぶ真っ白な入道雲。
うちは、荷物を浜に下ろし、履いてたサンダルを手に持って海に足を入れた。
優しい波が、うちの足元を寄せては引いていく。
この波に触れると…沖縄に来たんだな〜って思う…。
海には色んな思い出がある。
皆と出会って、泳いで、花火して……ここには、色んな思い出が詰まってる。
うちは左手を自分の胸によせた―――
皆……来てくれる…よな……?
うちはあれから1年しか経ってへんけど…皆は6年やもんな。
皆見てちゃんと気付けるかな??変わり過ぎてたらどないしょ〜…慧君がめっさスマートになってたり…。
その姿を想像して、一人笑った。
本当に楽しみ……やけど、その反面…少し怖い――
本当に逢えるんやろか……うちの事忘れてへんやろか…そんな事を考えると…不安になる…。
うちは、ミサンガをぎゅっと握った
皆……早く……逢いたい――
「名前」
うちを呼ぶ……声――
「名前、久しぶりやっさ」
うちは、なかなか振り向かれへんかった。
「…髪…少し伸びたな」
涙が……溢れてきた……。
「約束…忘れなかったみたいですね」
懐かしい……心地の良い優しい声――
「ちゃんと、まーさんさ土産持って来たば?」
うちは…ゆっくりと…声のする方を振り返った。
「…逢いたかったさ…名前」
そこには…大人になった皆がいた。
背も高くなって…顔も凛々しくなって変わってしまった皆。
でも、変わらない物がある。
皆の左手に飾られてる――色違いの…ミサンガ(きずな)。
「……おかえり……名前」
「――ただいま!!」
うちは、笑顔で皆の下に走った。
時空(とき)を超えて出逢った――
大好きな人達のもとへ――。
fin
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