絶対逢いに来るから!!


楽しい時間は…あっと言う間に過ぎてしもた。


行きに通った道を、ゆっくりと走る。
このまま…時が止まらんかなぁ…って、何度思ったかわからん…。
でも、そんな事出来るわけはなく…刻一刻と……別れの時が…近付いてきた。
うちは…寛君の背中にもたれかかった。



「なぁ…みんな」
「…ん?どうした?」
「…海……行こう。…うちらが…最初に出会った…あの場所に」
「……うん」

そう呟いて、皆は海へ足を向けた。
最後に見たい…あの場所を…。皆と出会った……あの海を――







静かな……静かな夜の海。優しい潮風が耳を撫でる…。
寄せては引いていく、波の音。空に瞬く星や月の光が、海面に反射して、うちらを照らしてる…。
…初めて…沖縄に……皆に会った時と…同じや…。
皆、何も言わずに…ただ黙って海を見た。
もうすぐ……ここともお別れ…か…時計なんか見んでも…分かる……ほんまに……あと……少し…――

「なぁ…皆」

うちは、1歩前に出て言った。

「…ありがとうな」

振り返って、皆を見る。

「沖縄に来た、この1ヶ月間…ほんまに楽しかった」

みんな…何も言わず、うちの言葉を聞いてくれる…。

「心細くて泣いてもぉたり、痛い思いした事もあったけど…いつも笑っていられたんは…皆のお陰や…」

溢れ出そうな涙を必死に堪え、言葉を続けた。

「…ありがとう。…皆に会えて…ほんまによかった…うち…皆の事、絶対忘れへんからな…」
「…名前」

うちは一人一人の前に立って話した。

「…裕次郎君」
「……っっ…ん?ぬーがや…名前」

帽子を深めに被り、涙を浮かべながら、必死に笑顔を作ってくれる裕次郎君。

「…ありがとう。うちが風邪引いたとき…寂しかった時、傍におってくれて。うちの話聞いてくれて嬉しかったよ」
「……わんも……名前と一緒に…いれて…楽しかったさ…っ」

途切れ途切れ聞こえる裕次郎君の言葉。
…うちは笑って、裕次郎君を抱き寄せた。

「…次会う時、また色んな話しよう。今度は裕次郎君の話聞かせてな」
「……あぁっ…」

そう言って、裕次郎君もうちを抱き締めた。
耳元で、声を殺して泣く裕次郎君。
うちも一緒に泣いてしまいそうになるのを堪えて裕次郎君から離れた。

「…寛君」
「……」

何も言わず、ただ寂しそうな顔をして、うちをじっと見てる。

「寛君のさりげない優しさにいっぱい助けられた。…ありがとう。寛君とおったら、心が安らいでいくのを感じたよ」
「……それは、名前のおかげさ。名前といると…わんは…優しくなれる気がする」

優しく笑って、言ってくれた。

「ありがとう。…これからも、優しい寛君でいてね」
「…あぁ。…いっぺー、にふぇーでーびる」

差し出された手。その手にうち手を重ねる。力強く…でも優しい……そんな手だった。

「永四郎君」
「…何ですか」

いつもの永四郎君らしい言い方。だけど、とても優しい顔をしてる。

「うちなんかより、ずっと大人で、迷惑かけた事もいっぱいあったな」
「気にしてませんよ。我々も、随分お世話になりましたから」

ヘヘッと笑って、うちは手を差し出した。

「ありがとう。色々相談にのってくれて。…うち永四郎君のおかげで、…自分のやりたい事みつけられた」
「…俺からも言わせて下さい。…にふぇーでーびる。ぃやーに会えて、じゅんによかったさ」

初めて聞いた、永四郎君の琉球語。
ほんまに…心の底からの言葉なんやなってのが伝わって来た。

「田仁志君」
「…ん?」

田仁志君はどんな顔をしていいんか分からん…って顔してる。

「最後まで田仁志君って呼んでたな」
「……おー」
「…これからは、慧君って呼んでもええかな?」
「…当たり前やっし!」

少し照れた顔で、笑って言ってくれた。

「ありがとっ、慧君。慧君の食べてる姿見てたら、料理作ってよかった!って気にさせてくれる」
「…それって…褒めてるば?」
「褒めてるよ〜!」

疑いの眼差しを向ける慧君。うちは笑って答えた。

「次会った時は、また料理ご馳走するな」
「おぅ!楽しみにしてるばーよ!」

うちは左手の拳を前へ出した。慧君も拳を前にだし、うちのと重ねた。

「それから、りっ――」

名前を呼ぶ前に、凛君に抱き締められた。

「…凛君」
「…名前、…わんと会えて…よかったか?」

うちの肩に顔を埋めて呟く凛君。

「当たり前やん!…凛君に会えて…よかった。…祭の日、2人で手ぇ繋いで歩いた時…ちょっとドキドキしたで」
「……わんもさ…」

凛君が顔を上げ、目を会わせて笑った。

「次会う時は、もっとかっこよくなってるんだぞ!」
「…わんは今でも十分やっし」
「あははっ、確かに!」

そう笑って言った時、水平線から白い光がさしてきた。
……時間だ……。

「…じゃあ…皆」

うちは光に向かって、1歩…また1歩と足を進めた。

「名前ッ!!」

うちを呼ぶ声に振り返る。

「絶対!また会うんだからな!!」
「わったー、ここで待ってるさ!」
「だから、必ず来なさいよ!」
「まーさん土産持ってなー!!」
「わったーの事、忘れるんじゃないんどー!!」

皆の言葉に、堪えていた涙が一気に溢れる。
光に包まれながら、うちは笑顔で叫ぶ。うちが戻って…1年後の――

「6年後の今日!この場所で待っててな!!うちっ、絶対逢いに来るから!!」

その言葉とともに…うちは真っ白な光に包まれた――




「……んっ……んー」

目を覚ますと…うちはベッドに寝てた。
懐かしい、自分のベット。自分の部屋。起き上がったうちの頬には、涙の痕が残っとった。
…あれは…夢やったんかな…?あんなにも鮮明に覚えてる一ヶ月間の楽しい思い出。
あれは全て……夢……ううん……夢なんかやない……。
うちは左手首を見た。
皆と色違いで買った…ミサンガ――

信じていれば…必ず巡り会える。

うちはズボンのポケットに手を入れた。
そこには、遊園地で撮った1枚のプリクラ。
うちはそのプリクラを携帯に貼り、胸にあて、一粒の涙を流した…。

…来年の夏……必ず逢いに行くから…。

待っててや……皆――

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