テニス赤也


今な〜ん時だ?

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「優勝―立海大付属中学校!」



同時に歓声が沸きがった。
歓喜の余り泣き出す人、はしゃぐ様に喜ぶ人。
そして――



「お兄ちゃん!優勝おめでとう!!」
「由佳。ありがとう」



私の兄、幸村精市は優しく微笑んでいた。



「でも、これで終わりじゃない」
「え?全国大会優勝したのに?」
「あぁ…。ここからまた始まるんだ…全国三連覇への道がね」



優勝した所なのに、もう次に目を向けている。
自分を律し、常に貪欲でいるからこそ、強くいられる。
次の立海テニス部を託された、次期部長の威厳ってやつなのかな。
そんなものが傍にいて感じられた。
そんな兄が、私の自慢でとても大好きなんだ!








Growth









ジリリリリリリリ――




「…ん…ん〜〜…」



手探りで枕元に置いてた携帯に手を伸ばす。
煩く鳴り続けるアラームを止め、ゆっくりと体を起こす。
まだぼぉーっとする思考の中、起きなくちゃな〜って思うが次の行動がなかなかできない。
窓をみれば、すがすがしい程の青空。
閑静な住宅地にあるこの家には、外で鳴く雀の声がチュンチュン聞こえてくるくらい。
私は一度大きな欠伸をして、思いっきり背伸びをした。



「〜〜〜ッッっし!起きるか!」



誰に言うでもなく一人呟いて、ベッドから足を下ろした。
今日から2学期が始まる。
夏休みの宿題を鞄に入れ、着慣れた制服の袖を通す。
その時、隣の部屋のドアが開くのが聞こえた。
私は慌てて鞄を持ち自分の部屋のドアを開けた。



「おはよう!お兄ちゃん!」
「おはよう、由佳」



いつもの様に優しく微笑んでおはようと言ってくれる兄。
一緒に階段を降りてリビングに行くと朝食の用意をしている母とダイニングテーブルに座ってコーヒーを飲んでる父。
祖母は自分の部屋で仏壇に向かっている。
幸村家の一日はいつもこんな感じだ。



「おはよう精市、由佳」
「おはよう、父さん」
「おはよー!」



鞄を自分のイスに置き、そのまま洗面所へ。
兄と並んで歯を磨くが、その度に思う。似てないなって。
兄妹でも兄は母似。私は父似。
母似の兄は女顔で、女装したらその辺の女子より断然綺麗な事間違いない!
それに比べて私は、不細工…ではないだろうけど、普通。至って平凡。
その事を周りに言われて劣等感を持っていた時もあるけど、そんな私を父も母も祖母も兄も大好きだと、愛情をいっぱい注いでくれてる。
だから周りから何て言われても何とも思わない事にした!
でないと、私を産んでくれた両親に失礼じゃん!!



「由佳、泡、落ちそうだよ?」
「ん?んん?!」



ぼーっと考えながら只管に歯を磨いていたら、口から垂れた泡が今にもぽとっと落ちそうになって、慌てて口を濯いた。
そんな姿を見て、お兄ちゃんはクスクスと笑ってた。



「精市!由佳!ご飯できたわよー!」
「今行くよ」
「はーい!」



朝食はトーストにベーコンエッグ、サラダとジュース。
お決まりのメニューだけど、美味しいから問題なし!



「由佳、夏休みの宿題はちゃんと終わらせたの?」
「…なんで私に聞いてお兄ちゃんには聞かないの?」
「精市は心配しなくてもちゃんとやってるってわかるもの」
「私も今年は頑張ったモン!」
「そうだね、去年は31日の夜までかかってたけど、30日には終わらせてたね」
「…あんまりかわらんだろ」



呆れた様に言った父の言葉に、皆笑い出す。
でも1日違うのは凄い進歩なんだよ!!と主張するのも空しくて私は黙って朝食を口に運んだ。



「精市は今日も朝練か?」
「うん」
「始業式の日もあるなんて、頑張るわね〜」
「だって常勝立海だもん!全国三連覇かかってるんだもんね!!」
「…なんでテニス部じゃないお前が威張るんだ?」



突っ込み役はいつでも父。そして笑う家族。
テニス部じゃないけど威張らせてよ!自慢の兄が率いるテニス部なんだから!妹の特権でしょ!
こんな感じで幸村家の朝は過ぎていく。











「じゃあ、行ってくるよ」



庭の花壇に水をやり終えた兄が、玄関から両親に声を掛けた。



「あ、待って!私も一緒に行く!!」
「由佳、あなたは精市に合わせて行くことないんでしょ?」
「でも一緒に行きたいの!!」
「フフッ…早くしないと置いていくよ?」



洗面所でヘアセットをしてた私はダッシュで用意を済ませ、兄と一緒に玄関を出た。
外に出ると、眩しい太陽の光で目を細めた。
もう9月と言ってもまだまだ夏日。朝の日差しも肌にチクチク突き刺さる。



「ん〜〜久々の朝練だね!」
「由佳は見てるだけだろ?」
「見てるだけで楽しいの!遅刻して真田君に怒られてる切原君を見る事とか!」
「ふふっ、こっちとしては困りものなんだけどな」



テニス部の人達とはお兄ちゃんが部長をしてる事もあって面識はある。
特に真田さん、柳さんはよく家に来る事もあり、お兄ちゃん同様仲が良い。



「赤也も今日から正レギュラーになるんだ。もう少しちゃんとしてもらわないとな」
「あ、切原君レギュラー入りすんだ!!」
「あぁ」



そっか!でも、そうだよね。準レギュラーの中でもピカイチの才能を持ってるもんね!
切原君、レギュラー入りするって知ったら大喜びするだろうな〜!
ガッツポーズをとる彼の姿が目に浮かぶようだ。

2人で通学路を歩いていると、前方に見知った後姿を発見!



「真田さーん!」



背筋を伸ばしたまま、好きのない佇まいで振り返る真田さん。
だけど、全国大会の時に見た姿と少し違っていた。



「精市、由佳。おはよう」
「おはよう、弦一郎」
「おはようございます!…ところで真田さん」
「ん?なんだ」
「髪、切ったんですね」
「今日から新学期だからな。気持ちを引き締める為に切った」



大会で会った時は、お兄ちゃん程じゃないけど髪は長めで学生らしかったし、かっこよかった。
…でも、今はスポーツ刈りとまではいかないが、前にかからない様に綺麗に整えられている。
……なんだか、ますます中学生離れしてしまったな…前は高校生に見えたけど、今はもう……。



「……何かいいたそうだな」
「え?!いえ、別に!ちょっとお父さんっぽいなって思っただけで――ッッ!」



そこまで言って口を噤んだが遅く、真田さんは眉間に皺を寄せて溜め息をついた。
そんな姿を見て兄は笑いながら、まあまあと真田さんの肩をポンポンと叩いた。
私も笑いで誤魔化して、そのまま3人で学校へと向かった。










「集合!」



兄の合図と共にコートで準備をしていた部員達が集まった。
私はコートから少し離れた木陰から彼らをみていた。
だって…コードの周りに群がる取り巻き達と一緒にはいられません。
視線が痛すぎて…もう夏の日差しとかと比にならないくらい痛いんだよ…ほんとに…。
ただでさえ、幸村精市の妹だからってレギュラーメンバーに取り入ろうとしてる…なんて変な噂流されてるのに…。
そんなつもりでテニス部観に来てるんじゃないもん!お兄ちゃんや皆がテニスしてる姿が純粋に好きなだけだもん!!

解散という言葉と同時にレギュラーメンバーはコートで、他のメンバーは素振りや玉拾い、ロードワークに向かった。
でも、コートで練習するメンバーの中にいるはずの人が見当たらない。
新学期初日なのに…なんて思いながら携帯に手を伸ばした。
電話帳からその番号を選んで発信。その相手は…



『……はい…もしも〜し…』



すっごい寝起きのカラカラ声で電話に出た彼。



「おはよ〜ございま〜っす!」
『……あ〜?だれ?』



ちょっと不機嫌モードな電話越しの相手。



「立海男子テニス部部長、幸村精市の妹の由佳です!」
『…あ〜部長妹…で、…なに?』
「テニス部期待の一年エース、切原君に問題です!」
『…あぁ?』
「今な〜ん時だ?」



なんなんだよ…とぼぞっと言った彼は、多分部屋のどっかにある時計か携帯電話で現在の時間を確かめた事だろう。
少しの沈黙のあと…。



『…やっべ!!!』



はい、今寝ぼけてた頭がはっきりした事でしょう。
そして勢いよく電話はブツッと切れました。
…問題にちゃんと答えてよね〜なんて思いながら、私はプッと笑った。
あ〜ぁ、真田さんの鉄拳確実だね。ま、予想してたけど。
切原君とは同じクラスで、テニス部って事もあって顔見知り。
携帯番号はクラスの皆で遊んだ時に連絡をとる為教えて貰った。
ま、それでこうやってたまに寝坊した彼を起こす目覚まし代わりみたいな事をしてるけど…。
柳さんに、毎回やっては赤也が成長しないからと、極力やるのは控えている。
さ、今日は何分で到着するのかな?
予想を立てながら、私はコートで練習するメンバーの姿を目で追った。


しおり
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