真夜中


「ほら、もうこんな時間。早く寝ないと明日起きれないよ」

「…………」

「ただでさえ由佳は朝弱いんだから、苦労して起こすボクの事も考えてよね」

「…………」

「あぁもう、ちゃんと布団かけないと風邪なんかひいても知らないよ」

「……藍」

「何?もしかして寝れない?」

「……寝れないよ。そんなに近くにいられたら」


シングルベットの狭い空間で寄り添うように密着する藍の身体。布団をかけ直してくれて子供をあやすようにポンポンと優しく叩いてくれる。嬉しい。けどこれじゃソングロボって言うより子守ロボだ。
オレンジの間接照明が室内を淡くともす中、私が眠るまで藍が見守るのが最近の夜の習慣になっていた。けどその優しさは逆効果。藍に見つめられながら爆睡出来るほど、私の神経は図太くないしときめきは失われていない。そのせいでここ数日私は完全に寝不足だった。
すると私の言葉に藍は不思議そうに首を傾げる。


「寝れないの?さっきまで眠そうに何度も欠伸をしてたじゃない」

「……そうだけど。眠いけど……寝れない」

「支離滅裂なんだけど。どっちなの?」

「ね、眠りたい」

「……そう。じゃあ、由佳が眠るために何かが足りないって事だね」


いや、足りてるんだよ。足りすぎてて寝れないんだよ。そう言いたいのに真剣に考え込んでしまう藍に、どう説明していいか迷う。真面目だ。

藍が傍にいてくれるのは嬉しい。正直眠る時間も惜しいほど藍と同じ時間を過ごしたいと思う。でもいい加減、健康面での不安がある。今日だって寝不足のせいで日中意識が途切れかけた。恋ボケも行きすぎると由々しき事態だ。


「何して欲しい?」

「え?」

「何をすれば、由佳は安心して眠る事が出来るの?」

「……えっと」

「子守歌でも歌う?」

「それはとても魅力的だけど……藍の美声を聴いたらますます寝れなくなりそう」

「ハァ、ワガママ」

「そ、そんな事言われても」

「じゃあ……身体を動かして疲れたら眠れるんじゃない?」

「……は……はいっ!?」

「今から町内10周走るとか」

「…………」

「なに?」

「……いや、一瞬でもいかがわしい想像をしてまった自分が恥ずかしくなった」

「どういう意味?」

「な、何でもない!とにかく藍は何もしなくていいから!放っといて!」


私は藍からの追求を逃れるように枕に顔を埋めた。けどしまった、そんなつもりは毛頭ないんだけど、今の言葉は藍を突き放すように聞こえたかもしれない。
すると私達の間には気まずい沈黙の空気が流れた。私を気遣って優しくしてくれてるのに、なんて身勝手な発言をしてしまったのだろう。謝らなきゃ。そう反省して枕の隙間からソッと藍を見上げる。

すると私を見下ろしていた藍の手が、私の頭に優しく触れた。そして少し乱れた髪を整えるように撫でてくれる。藍は無言のまま私の頭を撫で続けてくれた。私が知っている誰よりも愛情深くて、どこまでも深い優しさに胸が苦しくなった。


「……ごめん、藍」

「何で由佳が謝るのさ」

「……可愛くない事言って、ごめん。放っといて……なんて」

「別に。それに、ボクがこうしているのはボクの意志だから。由佳が嫌だって言っても、ボクはこうしていたい」

「……」

「ワガママなのは、ボクの方かもね」


藍はそう困ったように自嘲気味に小さく笑う。私は身体を反転させて藍と向き合うと、ギュウッと強く抱きついて胸に顔を埋めた。程良く気持ち良い、藍が私に合わせてくれている体温を感じながら、ちゃんと素直に自分の気持ちを伝えた。


「藍がいると、ドキドキして寝れない」

「……そう。じゃあ、ボクはいない方がいい?」

「……いないと寂しくて寝れない」

「理解不能。やっぱり由佳の方がワガママだね。結局どうして欲しいわけ」

「……ひとつ、聞いてもいい?」

「なに?」

「私が寝てる間……藍は一人で寂しくない?」

「……え?」


私の言葉に、藍は目を丸くした。私の背中を撫でながら考え込むように視線を落とす藍は、言葉を探るようにゆっくりと途切れがちに紡ぐ。


「寂しい……と、思った事は……ないと思う」

「……ほんと?」

「由佳がボクの傍で眠ってくれる姿を見ていると、ボクは安心出来る」

「…………」

「由佳の変な寝言も、わりかし興味深いしね」

「やめて、ごめん」

「由佳が傍にいてくれるなら、一人で寂しいだなんて思わないよ」

「…………」

「だから、安心して眠って欲しいんだ」

「……うん」

「おやすみ、由佳」

「……おやすみなさい」


そう囁くような藍の声に、私は甘えるように藍の胸に頬ずりをしながらゆっくりと目蓋を下ろした。
でも、やっぱりドキドキして眠気は訪れない。それでも私を寝かそうと藍が背中を優しくさすってくれるから、私はそのまま自然と眠気が襲ってくるまで、寝たふりを続ける事にした。


「……ちょっと、いつまで寝たふり続けるの?このままじゃ朝になるんだけど。いい加減寝てよ」

「ごめん、やっぱり藍が好き過ぎて無理」

「……バカみたい」

「藍、熱い」


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