擦り傷
「いやぁー!!由佳ちゃん、それどうしちゃったのよぉーっ!?」
それ!それよ!とりんちゃんがオーバーリアクションでビシッビシッと指をさすのは、私の鼻先に貼られた絆創膏。ちなみにピヨちゃん柄だ。
「アハハ、ガキ大将みたいだよねぇ」と私は冗談ぶって空笑いを漏らした。けどりんちゃんはものすごい剣幕で「笑ってる場合じゃないわよ!?どっかでぶつけて怪我したの!?」と私にズイズイ詰め寄ってきた。うん……心配してくれる、とは思ったけど予想以上の迫力にビビッて思わず言葉をつぐんでしまった。
「え、えっと……別に大した事はないんだけど。その、実はさっき音也君と翔ちゃんがサッカーして遊んでたのね」
「あらま、あの子達ってほんと元気ねぇ。若いって羨ましい……じゃなくて!まさか由佳ちゃんも混じったの!?」
「う、うん。楽しそうだったから。まーぜーてーって……」
「それで運動音痴な由佳ちゃんは転んじゃったのね!しかも由佳ちゃんって希に見るドジの天才だから、顔から地面に向かって突っ込んじゃったのね!?」
「……その通りです、けど。そこまで言い当てられるとなんか悲しい」
「もう!どうしてそんな危ない事したの!女の子なんだから無茶しちゃダメよ!」
「りんちゃん心配性過ぎだよ」
「当たり前でしょう!可愛い彼女が怪我して帰ってきたんだから心配するわよっ」
「……え、あ……う、うん」
頬を膨らませてプンスカ怒るりんちゃん。けどストレートな言葉が何だか照れ臭くて、でも嬉しくて私は素直にごめんなさいと謝った。
危ない……か。普通のサッカーだったら危険じゃなかったんだろうけど、確かに音也君と翔君のサッカーは何て言うか次元が違った。格闘技の技みたいなシュート打ってたし。
でも私が派手にすっ転んだ時は二人共すごく心配して「大丈夫!?痛いとこない!?」「歩けるか!?」て、一生懸命介抱してくれたし。「那月からの貰いもんで悪いけど」って、翔ちゃんが貼ってくれたピヨちゃん絆創膏は……ちょっとファンシーで恥ずかしいけど。でも二人は十分優しくしてくれた、うん私の友達はいい子ばっかりだ。
「でもちょっと擦りむいただけだから平気だよ」
「何言ってるの!ぜんっぜん平気じゃないわ!」
「……え」
「たかが擦り傷って侮ってて跡にでもなったら……大事な女の子の顔に傷物にされて、もしもお嫁にいけなくなったら由佳ちゃん、どうするの!?」
「え、ええええ!?」
傷物にされた、ていうか私の自業自得なんだけど。
でもそこまで深刻に考えられると、りんちゃんに釣られて私まで不安な気持ちになってくる。確かに死活問題だ。
「お、お嫁にいけなくなるのはちょっと困るかも。主に老後が」
「でしょ!?だから、傷を甘くみちゃダメよ!」
「……う、うん」
私は小さく頷いた。けど何だか胸の奥からモヤモヤが溢れてきた。
だって、その言葉をりんちゃんに言われると思わなかったし……何だか違和感。て言うかちょっとショックだ。だって一応私達は恋人なわけだし、そりゃ私だってまだこの先の未来設計図は未定なままだけど……ズキズキ、ヒリヒリする。
「由佳ちゃん?」
「…………」
「どうしたの?」
「……もし本当に私が傷物になったら、誰もお嫁に貰ってくれないのかなぁって」
「……え?」
「じゃあ、音也君か翔ちゃんに責任とってもらおうかな」
「えぇっ!?……由佳ちゃん?な、何言ってるの?冗談よね?」
「冗談だよ。でもさ、りんちゃんが脅すからじゃん!お嫁にいけなくなるって!」
「た、確かに言ったけどそんなつもりじゃないのよ!それに由佳ちゃんは可愛いから、そんな本気で心配しなくても大丈夫よ!ね?」
「……っ」
あ、傷がえぐられた。そうじゃない、そうじゃないのに。欲しい言葉はたった一つなのに。
「……そんな不確かな未来に私の老後は預けれません」
「シ、シビアね」
「……りんちゃんは誰がいいと思う?」
「へ!?だ、誰って?」
「だから、もしも結婚するなら誰がいいと思う!?音也君!?翔ちゃん!?御曹司様や王族様は後々が面倒くさいから一般家庭が理想なんだけど!!」
「ちょ、ちょっと由佳ちゃん。何でそんな怒ってるの?」
「怒るに決まってんでしょーがー!りんちゃんのせいだよ!何でお嫁に貰えないなんてりんちゃんが言うの!りんちゃんは貰ってくれないの!?それとも私は対象外だったの!?」
「ち、違う!そんなわけないよ!」
「じゃあどういうわけ!りんちゃんのバカ!!バカバカーッ!!」
もう完全に頭に血が昇った私は怒り任せに近くにあったクッションでりんちゃんの頭をバッフバッフバッフ叩きまくった。「ご、ごめん!由佳ちゃん!」と何とか宥めてやめさせようとりんちゃんは私の手首を掴んだけど、構わず振り払って衝動で倒れたりんちゃんの上に跨がって「バカ!バカバカバカッ!!」とクッションを振り乱すと、綺麗に整えられていたりんちゃんのウイッグが乱れてずり落ちた。
そして一通り暴れて疲れた私は息を弾ませながら、メチャクチャにしてしまった悲惨なりんちゃんを見下ろしながらグッと涙を飲み込んだ。
「っ、由佳ちゃん。落ち着いた?」
「……ごめん」
「どうして由佳ちゃんが謝るの?謝るのは……俺なのに」
床に仰向けに倒れたりんちゃんに跨ぐ私に、腕を伸ばして引き寄せるとギュッと抱き締めてくれた。でも胸の奥はまだズキズキ痛い。違う、謝って欲しいわけじゃない。
抱き締められても素直に嬉しくなくて「……りんちゃんの、バカ」と悪態をこぼすと、りんちゃんは「……ごめん」と、また謝って、か細く囁いた。
「もういいもん……いざとなったら土下座して龍也さんにお嫁に貰ってもらう」
「だ、ダメ!!そんなの絶対にダメッ!!」
「………」
「……て、勝手だよね、俺が由佳ちゃんを傷つけたのに」
「そうだよ、りんちゃんのせいで私のハート傷だらけだよ。どうしてくれるの」
「ごめん。俺だって……でも、真剣だからやっぱり簡単に言えない」
「……え?」
「由佳ちゃんの未来を。本当に俺が束縛してもいいのかなって」
「………」
「あいたっ!ちょ、由佳ちゃん!ウイッグで叩くのはやめて!手入れ大変なんだから!」
「だってりんちゃんがバカな事言うから。つい」
「もうっ暴力反対!」
「あぁ、そうだ。いっその事、りんちゃんを傷物にして私がお嫁に貰えばいいんじゃないかな」
「えぇっ!?」
「りんちゃんのウエディングドレス姿きっと綺麗だろーねー?」
「……由佳ちゃん?め、目が本気で恐いんだけど」
「………」
「……っ」
するとりんちゃんは息を大きく吸って吐き出すと、かすかに震えが伝わる指先で私の手をギュッと強く握りしめた。
由佳ちゃんは俺がちゃんと貰っていきます
「……りんちゃん林檎顔」
「……むしろ、これじゃ焼き林檎だよ」
ーENDー
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