メモ・検証用


緑谷 夢


校舎内に響き渡る鐘の音を合図に、周りのクラスメイト達は帰り支度を始める。本来ならわたしも帰り支度を進めて早々に帰るところだけど、今日は机の上に置いてある筆記用具を手に持って教室を出る。そのまま昇降口とは反対の方向へ廊下を歩き進めると、既に何人かが集まった空き教室へと静かに入室した。

中学3年生に進級して3日目。今日は放課後に委員会の集まりがあり、わたしはそれに向かっていた。毎年学級初めに委員会決めを行うが、それは話し合いなんて言えるほどの生易しいものではない。受験の年に入ったわたしたちは皆、勉強に力を入れたいが為に「仕事量が少ない」委員会に入りたがる。人気の委員会は「選挙委員」で、年間を通して1、2回しか仕事がない。逆に不人気なのは「放送委員」「保健委員」「図書委員」などの定期的に集まりがある、且つ当番制の仕事がある委員会だった。当然わたしも授業が終われば早く帰りたいので「選挙委員」に立候補した。しかし今日、わたしが参加しにこの教室にやってきたのは【図書委員】の集まりだった。

図書委員と言えばほぼ1週間に1回は当番が回ってきて図書館の管理をしないといけない超ハードな仕事だ。しかも拘束時間も長いようで、男女1枠ずつ立候補を募ったけど女子の枠がなかなか埋まらなかった。言い合いという名の戦争が始まろうとしたところ、担任の先生の「じゃんけんしろ」という鶴の一声で、多く立候補が集まってしまった者たちでじゃんけんという熾烈な戦いを繰り広げ、結果敗北し余ったわたしが図書委員に自動的に任命されてしまった、というわけだ。

空いている席に着席し、集会が始まるのを頬杖をつきながら待つ。別に受験に必死になっているわけじゃない。だから時間が削られるとか正直どうでもいいことではあった。けれどみんながやりたくないことを進んでやるほどわたしは優等生ではない。つまるところ「人と違う」ということを実感したくないだけなのだ。憂鬱な気分を大きなため息で隠していると、わたしの座っている隣の席の椅子がガタっと引き下げられた。

「あっ…えっと、」
「あー、よろしく」
「よ…よろしくお願い、しマス…」

そこに座ったのは同じクラスの緑谷。気が弱いのか背を丸めてオドオドとした様子で現れては遠慮がちにわたしの横の席に座る。誰もやりたがらない図書委員へわざわざ立候補した変わり者だ。まだ同じクラスになって大して日数は経っていないけど、休み時間もお昼も放課後もずっと一人でいる。今の声掛けの感じもたどたどしかったし、人とのコミュニケーションが苦手なのだろうか。

委員会の担当の先生が教室に入ってきて早速集会が始まってもなんだか気分が引き締まらなくて、やりたくもないことを嫌々やらされる腹立たしさと、コミュニケーションが取りづらい相手と長い時間図書室に軟禁同然のことをさせられる憂鬱感で、わたしはまた大きく、大きく溜息を吐いた。











つい先ほど返却されたばかりの分厚い背表紙の堅い本を手に取って、図書館の奥まで歩き進める。本棚の真ん中らへんにそれを差し込むと、うっすらと紙の匂いが漂ってきた。図書館をあまり利用したことは今までなかったけれど、夕方の柔らかい光や優しい風が窓から差し込む瞬間とか、部活動の独特な掛け声が聞こえる瞬間など、独特の雰囲気が漂っている。

わたしという人間は存外単純で、

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