3

「はぁ、…はぁ、…戻りました」

「あ…なまえ…」

「戻ったか。」

中道通りから走って戻ってきたせいか、息があがる。最近年齢のせいか体力が落ちてきたと実感することが多い。
しばらく息を整えてから事務所に入ると、沈痛な面持ちの源田先生や、肩を震わせているさおりさん、唇を噛み締めて下を向いている星野くんの姿をみた。
この中に、新谷先生はいなかった。

「どう、したんですか」

「…なまえ、落ち着いて聞きなさい。

ーーーーー新谷が殺された。」

「…は」

先生のことばの意味がわからない。
さっき、数時間前まで此処にいた人だ。

口を開くと悪態ばかりついてて、八神さんの悪口ばっかりで。
私が入社当初からずっと、「お前みたいなのはすぐ辞める」が口癖だった人だ。
1ヶ月経った頃にまるでツンデレみたいに「…いつも助かってる」なんて言ってくれた。

ぐるぐるぐるぐる、新谷先生との思い出が蘇る。


「…誰に、どこで、どうしてですか」

「………わからん。八神の事務所で発見されたらしいが…この後聴取が終わり次第こっちへ呼んである」


誰が、あの人を殺したのか。ーーーー聞かなくたってわかっている。
この街はいま、とても危険だということ。昼間に共礼会の件で八神さんからの警告だってあった。
でも、こんなの、あんまりだ。










しばらくしてから八神さんが到着して話を聞くことになったが、源田先生は話が進むにつれだんだんと憔悴していくようだった。

私よりも、先生たちや八神さんは付き合いが長い。
その独白に似た話に、胸が痛くなる。

"この先もずっとそばにいるもんだと思ってた"


「さおりくん、なまえくん、今日はもう帰ろう。駅まで送る」
「はい」
「……いえ、私はまだ残りをやっていきます」


「ん……そうか、星野くんは?」

「ぼくも、残ります。あっみょうじさんは僕が送ります」

「あぁ、頼む。じゃ、お先」



先生とさおりさんを見送りつつ、自分のデスクに戻る。残りなんてない。今日のタスクは全て終わっているから。
星野くんの視線に私は気がついていたし、私も同じ気持ちだったからだ。

こんな形で人を亡くすことがあるとは、いつかあるんじゃないかって心のどこかで思ってた。
この街にいる以上はいろんな人と関わることがあるけど、こんな理不尽あってたまるか。



「僕も、いいですか。一緒にモグラを追っても」
「右に同じです」

「…星野くん…なまえもか?危険だぞ?」

「…神室町にいる時点でだいぶ危険ですよ」

「ふ、そうだな」

「はい」

「んじゃ早速…」



そう言って八神さんと星野くんと膝を突き合わせて調べるべき方向性の話になる。
"先端創薬センター"か。

八神さんの事件は当時のニュースで知っている程度だったけど、ここに勤めはじめた頃に源田先生が掻い摘んで話してくれた。
もちろん八神さんも、言いづらそうではあったけどこんな事件があったから弁護士を辞めた、程度には聞いていた。
改めて資料を読み込む必要があるかもしれないな。



「神室町のシャルルってゲーセンがある。まずはそこをアジトにしよう」

「わかりました。海藤さんには僕から連絡をしておきます」

「…明日だと私は事務処理もあるので抜けられないと思います。それに、私も向かうとさおりさんが1人になってしまいます。
…おそらく源田先生はしばらくは来られないでしょうし」

明日の業務内容を脳内で確認していくが、どう考えても抜けられる量ではない。
それに2人揃っていなくなるとさおりさんが1人になってしまう。
今日こんなことがあったばかりだ。何かあってからでは遅い。女2人も危険じゃないわけではないけれど、いないよりマシだろう。

「ん…そうだな、わかった。なまえの手が必要なときは連絡する。ひとまず明日な」

「はい。じゃあ星野くん、帰りましょうか」

「はい!お疲れ様です。おやすみなさい、八神さん」

「おやすみなさい」

「おう、気をつけてな。おやすみ」

prev top