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それからしばらくして、新谷先生が戻ってきたと思えば八神さんに怒っている様子だった。くだんの事件のことで。
まあ確かに弁護士として話す新谷先生の言い分もわかる。蒸し返されれば新谷先生としてはプライドも傷つくだろうし。
でも最後に新谷先生が声を荒げて放った一言は、私も、所内のみんなも、八神さんも、違和感を覚えることばだった。
"ヤクザ同士の抗争だとでも思ってんだろ"
このことばは、私の中にも重くしこりを残した。
口ぶりからこの事件の大元はヤクザじゃない、ってことだ。
「……八神さん、嫌われすぎで草ですね」
「お前最近オレに当たり強いね」
「いつも通りですけど」
「まぁ、いいや。またなんかあったら連絡する」
「はい」
「おい八神ぃ。なまえくんはうちの事務員だからな?わかってんのか?」
「わかってますって。助かってますよ、手伝ってくれて」
「取るなよ!」
「取りませんよ、じゃ。」
八神さんもあれから街に出て行ったようだった。
さっきの件以外にも、たくさん依頼を請け負っている様子だったし、忙しいのだろう。
しばらく事務処理に没頭していると外は暗くなっていた。
ネオンの多いこの街だ。昼間より明るいなんて比喩もされるけれど、この街の夜はそれはそれで暗いものだ。
「あれ、そういえば新谷先生戻りませんね」
「確かになぁ。悪いけどさおりくん電話してみてくれるか」
「はい」
prrrrr.prrrrr
「……ダメですね、出ません」
「どこほっつき歩いてんだあいつは」
「そのへん見て回ってきましょうか」
「…ん、頼む。でもあぶねえとこ行くなよ」
「何かあれば逃げます」
「行くなってんだよ」
「ふふ、気をつけてくださいねみょうじさん!」
「いってきます」
今日のタスクは全てこなせた、と達成感を味わうまもなく。街に出てみると昼間の喧騒とはまた違う姿を見せる。条例によってキャッチはいなくなったとはいえ、騒がしい街だ。
新谷先生のいきそうな場所をしらみつぶしに当たってみるも、姿はどこにも見当たらない。
喫茶店も好きだったはずだけど、この街の喫茶店すべてを当たってもいなかった。行きつけだと一度連れて行ってくれたバーにもいない。
一体どこへ。あのまま帰った、なんてことはないはずだ。
テンダーにも寄ってみたが、マスターからは「今日は来ていない」と返される。念の為もし現れたらと伝言を頼んだが、渋い結果になりそうだった。
探し始めて1時間、さおりさんからの着信を知らせるスマホに気がつく。
慌てたような、怯えたような声のさおりさんに「今すぐ事務所に戻ってきて欲しい」と言われた。
新谷先生が見つかった、帰ってきた、連絡がついた。どの言葉もさおりさんからは出てこなかった。
嫌な予感がしながら、どこかへ向かうパトカーのサイレンを背後に走り出す。