ランダルという少年のことを話し合いする、と言われてどうして、と思った。
それはランダルとやらの生死を決める話し合いをする意味がないとかそういうのじゃなくて、"なぜ自分がその話し合いに参加するんだ"という意味だ。


キャロルに、物資の選り分けを手伝って欲しいと言われてバッグやケースの中に入った食品を手渡していく。

「探してくれてありがとう。言うのが遅くなったわ」
「え?」

「ソフィアのこと。
あなたの親切が嬉しかった。あの子のカチューシャを見つけてつけてくれたんでしょ?」
「まぁ、…うん」
「綺麗にしてくれてありがとう。娘もきっと喜んだはずよ」

「…」
「初めて会った時から貴方はとても優しかった。ソフィアにも、私にも。
それなのに私は貴方が諦めたと思って、…でも戻ってきてくれた。」
「…ダリルの方が頑張ってたって聞いたよ。私は怪我もしてないし少し時間をかけただけ」

「それがどれだけ難しいことかわかってるからよ。…ね、素直に受け取ってくれると嬉しいわ」
「……うん」

キャロルの綺麗で優しい笑顔がなんだか眩しくて、まっすぐ彼女を見られなかった。
喪ってからそれほど日が経っていないにも関わらず、彼女は周りに気遣いができるほどできた人なのだ。
でもナマエはただ、子供は母親のそばにいるべきだと思ってただけ。感謝されるほどのことでもない。
自分自身がもう母のそばにいられなくなったから。あとは少しの親切心でやったこと。
こういう世界になって両親を失い、嫌な思いばかりしてきた。
ここの人たちがそうだとは思わないけれど、そうなるかもしれない可能性が孕んでいる限りここに属したくない。
個々と接する分には変わりなく優しい人たちに違いないのに。それは、以前の世界もそうだったのかも。対極にいる者同士の諍いはあれど個人になれば問題などないように。


翌日になり、ランダルについて最終決定する前の話し合いが行われると告げられる。日没頃話し合い、処遇を決めるらしい。
昼間はハーシェルに診察され、そのあと農場の仕事の手伝いをするよう言われた。リックもそうするようにと頷いていた。
ここに居づらい気持ちが前面に出ている私の表情を見てもリックは何も言わない。
ただただ出て行かないように外堀を埋められているような気分だ。


ハーシェルたちは牛が柵に突っ込んだか何かで慌ただしくどこかへ向かってしまった。一人で馬と向き合っていると、少し疲れた心を癒してくれた。動物は良い。
見様見真似のブラッシングでも気持ちよさそうに背中を揺らしてくれている。優しくて可愛いネリー。臆病と聞いていたものの、鼻を近寄らせて擦り寄ってくれる。癒しだ。

そこへ背後から自分を呼ぶ声がする。
「ナマエ、君はどう思っている?」

振り返るといつもの帽子に似合わないライフルを肩にかけたデールがいる。

「……どうして意見を聞く?私は仲間じゃない」
「何を言ってる!君は仲間さ!リックだって言ってたろう?!」
「…私は仲間だと思ってない」
「なぜだ。何故そんなに悲しそうに…。
いや、君がそう思ってたっていいさ。私は仲間だと思っている。だから君の意見が聞きたい。」

デールはぐ、っと空いた左手を握っては仲間だと言ってくれる。嗄れた声と白い髭がやはり祖父に似ていてひどく懐かしくて、息苦しい。

「私は、殺した方がいいと思う。」
「…っそんな!君もか!…ランダルはまだ若い、何もしてない子供なんだ!」
「もちろんデールの意見が正しい。でも生かすにはいろんな問題が起きる。…こういうことは前にもあった。」

「…君がこれまでどんなふうに過ごしてきたか想像もつかないが、その意見は私だって理解できる。
だがランダルがそうなるという確かな証拠もないのに処刑するなんて馬鹿げてると思わないか?」

「…生かすにはグループの成長が必要だよ。私の意見よりもそっちに重きを置いたほうがいい」
「もちろん、それはそうかもしれない。
でも、今できることは処刑を止めることだ」
「じゃあ、……デールの意見に従う。それが答えでいいよ」


ぱっと明るく笑ったデールはしばらく頷いた後、他のメンバーの説得に向かった。
けど、いくら意見しても決定する人間がうんと言わなきゃ意味がない。彼ともう一人が多数の意見を聴くかどうかわからない。

夕方、ハーシェルの家のダイニングに集まったメンバー。
それぞれが椅子に座ったり立ったままだったり壁に寄りかかったりしている。最後に入ってきたダリルにキャロルが嬉しそうにしているのが見えた。
ナマエは入ってきてから迷わず奥のソファに向かって寝転んだ。
この話し合いには本当に来たくなかったけれど、デールのことを考えれば来るしかなかった。
ドアを開けてナマエの姿を見つけたデールは頷き、リックは微かに口角を上げた。


「反対の意見があるなら、私と、グレン、そしてナマエだ」

「いや…デール、あんたはいつも正しい。けど今回ばかりは…」
「恐れてるだけさ!」

「彼は仲間じゃないし、…これ以上の犠牲はごめんだ」
「君も同意見か!?」
「監禁しておけば?」
「食い扶持が増える」
「冬も近い」
「食事制限をすれば?」

「役に立つかも!チャンスを与えるべきさ!」

「仕事を?」
「うろつかせたりしない」
「付き添えば?」

「誰もやらないさ」

「私がやる」

「付き添うのは危険だ」
「そうよ。縛ってなきゃ安心できないわ」
「足枷をはめてたら重労働は無理よ」

「たとえば、仲間に加えたとしよう。役に立つかもしれないし、もしかしたらいい奴かもな?
だが、もし逃げられちまったら30人が襲ってくる」

「犯さないかもしれない罪で殺すというのか。もしそうなら何の希望もない。法も文明も終わりだ。」
「何を言ってんだか」

「やはり彼を遠くへ連れていけばどうだ?」
「今度は戻れないかも。ウォーカーがいるし、迷う可能性もあるわ」
「他の敵もな」
「危険は避けるべきだ」

「もしやるとしたらどうやるの?……苦しむ?」
「首吊りなら一瞬だ」
「考えたが、銃なら一瞬だ」
「遺体はどうする?」

「おいおい、ちょっと待て。まだ決まったわけじゃない!」
「一日中話したろ。堂々巡りだ」

「若者の命だぞ!5分で決めるべきじゃない!他に方法が見つからないから殺してしまうのか!
リック、アンタが助けたんだろ!それなのに拷問し、処刑するのか。
彼の仲間とやってることは変わらない。」

「…」

「他に方法がないだろ」
「いや、デールが正しい。別の方法を…」
「別の方法って何?有効な案は出てないでしょ」

「だから考えるんだろう!」

「やめて!もうやめて。言い争いにはうんざりよ。私には関係ないし、意見を求めないで。どっちでもいいから決めてちょうだい。」
「口を閉ざすことはその手で殺すことと同じだ。」

「もうやめよう。そこまでだ。
最終決定前に発言したい人は?」

「……」

「"生きてるものは殺さない"と前に…」
「殺されそうだった」

「分からないのか?今までの俺たちも世界も終わってしまう。醜い世界になるぞ。強いものだけが生き残る!そんな世界に生きたくない!
君たちだって同じ気持ちのはずだ!頼む…、正しいことをしよう。
…誰も賛成しないのか?……ナマエ?」

「…ん、」

セッションは結局意味のないものだ。
長々と話すデールにみんなして反対意見を口々に出す。
どっちの意見も間違いじゃないし、キャロルのように関係ないと受け入れないのも。
半分眠りにつくような状態だったからか、声が掠れていた。シェーンはそれを見て「この状況で眠れるようなやつの意見が必要か?」と言った。


「寝てたことは認める。ごめん。」
「……」

「で、…この話し合いって意味ある?反対の意見を聞くって本当にただ聞いてるだけだろ?
最初から意見を変えるつもりがないなら聞かないでくれ。
デール、声をあげても無意味だ。彼の命は大した重さじゃないし。」

「お前の意見は聞いてない」
「…いまアンタに話しかけてないから、黙っててくれる?」
「なんだと?」

シェーンを黙らせると、一歩近づいてこようとする彼をデールとリックが遮り、何故かダリルが私の前に立った。
いくら短気のシェーンでも殴りかかったりしないでしょうに。たぶんだけど。
ここ数日心配してくれていたはずのシェーンはどうやら綺麗さっぱり消え去ったらしい。蟠りも特にないし別にどうでもいいけど。

「意見は全員から聞く。いいな?」
「…あぁ」

睨み合うシェーンとリックのピリついた空気は、余計にこの話し合いの場を悪くしていくだけだった。
少し前に二人でランダルを開放しにいくとかなんとか話は聞いていたけれど結局二人はランダルを連れて戻ってきたらしい。お互いに顔を腫らして。「なにもなかった」なんてよく言えたものだと思った。
それ以来ずっとピリついてるとは思っていたけれど。この問題次第では彼らの関係性が決まってしまう気がした。

「あのね、確かに殺したほうが早い。何もかも。
でもアンタらは殺したくないとは思ってんだよね?だったら受け入れるしかなくない?方法がどうとかはまず生かしてから話せばどう?
以上、私の意見。」

「……」

「彼女は最初殺すことに賛成だった。それは君たちと同様に危険を省くべきだとな。

だがナマエはグループがランダルを受け入れるために成長すればいいと言った。
私も同意見だ!
君たちは今恐怖で目が眩んでいる!」



奮闘も虚しく、ナマエやデールの意見はオールスルーされ、決定が覆されることはなかった。
デールの最後の声にアンドレアだけが意見を変えてくれたものの、他のみんながそれに倣うことはなかった。

結果を聞いて落胆したデールは悲しそうに家を去っていった。ダリルに向かって「グループは崩壊だ」と告げて。