囲まれていると気がついた時には遅く、リックとカールと共に全速力で走る。
森の方角には見たこともないほどの影が蠢いている。ゆらりとゆれる姿がすべて、ウォーカーなのだ。


「みんなに知らせないと!」
「家までは無理だ!たどり着けない!カール、ナマエ!絶対離れるなよ」
「納屋まで走って!」

背後の納屋に向かう道のりを塞ぐように森の中からウォーカーが飛び出してくる。
追い立てられないように両足を蹴り飛ばす。柔くなっている数体が地に伏せるのも無視して走り出した。
リックの息遣いとカールの恐怖を背中に感じながら、近寄ってきた数体に素早くナイフを刺し込む。
そうやって無理やり啓いた道を通ってなんとか納屋まではつけたもののあっという間に外を包囲されてしまった。
バンバンとドアや壁にぶつかる音にカールが怯えて震えている。

「ガソリンある!」
「よし、それだ」

「カール、ライター持って」
「二人は!?」
「ちゃんと登るよ」
「大丈夫だ。」

震える手をぎゅっと握りしめて頷くとカールの瞳が固く決心したように見えた。

「カール、……愛してるぞ」
リックの声を背にドアに向かって走り出す。喚きながらウォーカーたちを煽り、さらに数を集める。
ドアに向かって集中する音にリックを見つめ、頷きあう。

板を引っ掛けていた釘を外し、それを投げ捨てる。すると、ドアに押し寄せていたウォーカーたちが一斉に中へなだれ込んできた。ナマエは後退りしながら叫び、注意を引きつける。その声につられてか、さらに数が増えていく。

ナマエ、そしてリックの順に梯子を登る。カールが放ったライターの火は、瞬く間に燃え広がった。

炎はその明かりに吸い寄せられた虫のように、ウォーカーを焼き払っていく。


煙を吸わないよう、カールの口元に手を当てる。その小さな肩が、恐怖と緊張で震えているのが伝わってくる。彼の命だけは、何があっても守らなければならない。
万が一にもはしごを使って登ってきたウォーカーがいたらと柄に手をかける。

「こっちだ!こっちに来い!ここに止めてくれ!!」

リックの叫ぶ声に振り向くと、よく知った色のキャンピングカーがこちらに向かってきていた。
足場になるように止められたキャンピングカーの上に飛び乗り、着地点にいるウォーカー2体を蹴っ飛ばしながら切る。
順に降りてくる二人を待ちながら、家まであと数十メートルの距離にはまだウォーカーの数が少ないことに気がつく。

「リック!先に行って!」
「何を言ってる!!?」
「ジミーと向かうから!」
「!………必ず来てくれよ!」
「うん」

ドアにへばりついている数体を引き倒して突き刺すと中にいたジミーが喚いていた。
恐ろしさからだろう、手当たり次第に振り回しているそれらを受け止める。

「ジミー!ありがとう!助かった!」
「…あ…ナマエッ…!…いいんだ。アンタも今ぼくを助けてくれたろ!」


纏わり付いたウォーカーを無視してジミーにアクセルを踏ませるも、正面には数体のウォーカーが体を燃やしながらも重力やスピードをものともせずに張り付いている姿が映る。

「ダメだ!さっきので火がついたままのやつが後ろにもいる!車が燃えちまう!」
「しゃあない、降りるよ!このままじゃ爆死だし」
「…っ、」
「落ち着いて。銃は?ある?」
「う、うん。」
「深呼吸。」
「ふーーー………うん」
「いくよ!」

後方のほうが数も少ないし道が拓けてる。
窓を蹴破って出ると足元にいた腕の燃えたウォーカーをナイフで刺す。
どうやら前にいたやつらは皮膚が張り付いたのか動けなくなっていた。都合が良い。
煙を上げ始めた車にもう時間がないとジミーに叫ぶ。彼の大きくなり始めたばかりの手のひらを掴み走り続けた。
すぐに大きな音を立ててキャンピングカーが爆発し、その風を感じながらがむしゃらに走った。他のメンバーがどうしたのかもわからない。
一緒に向かうと告げたリックが果たして無事に辿り着いたかどうかも。



「はっ……はっ、……はぁ」
「大丈夫?」
「……よく、っ…あれだけ走って…息切れ、し、ないね…っはぁ、」
「…鍛えてるから」

ウォーカーが現れた森とは反対の方向に走ったつもりだが、実際ここがどこなのかはわからなかった。
辺りを見回しても走ってきた方向が明るいだけで建物や舗装された道路すら。何もない。
ジミーは息も絶え絶えに荒々しい呼吸を整えるように吐いて吸ってを繰り返している。服は飛び散ったウォーカーの血にまみれていた。

「ここ、どこかわかる?」
「…たぶん。あんま自信ないけど…」

「ジミー、とりあえず家の方に向かおう」
「え…っなんで戻るんだよ?!」
「誰か残ってないか確認したい。嫌ならジミーはここに居てもいいよ」
「でも…!」
「ここで立ち往生してても仕方ないだろ。……ハーシェルやマギー、ベス、パトリシアがどうなってるか気になるでしょ」
「わかってるけど…!あんな目にあって、またあそこに行くなんて……無理だよ!」
「見るだけ。危なかったらすぐ逃げよう」

小さい声で喚くジミーを落ち着かせ、なんとか向かうことには成功したものの後方でまだ何か文句を言っているのを無視する。
牧草地も、家も、納屋もすべてが燃え上がる農場はそれは明るく照らされ、人だったものの影はたくさん見えるけれど、リックたちの姿は見つらかなかった。

家が薙ぎ倒されているらしく大きな音と地響きが体を揺らした。

「あ、私のバイクどこだろ」
「この状況わかってる!?」
「わかってるけど…」

持っているものは携帯ライトに幾分かのタバコ、持たされたベレッタ、グロッグ。それとナイフに刀2本。ジミーに至ってはグロッグ1丁と数十発分の弾だけだ。
これじゃあこの夜を越せても明日以降は無理だ。

「流石に持ってる物資が少なすぎて明後日には死ぬかもしれない。ちょっとここで待ってて」

ジミーが何か言っているのも無視してバイクを停めていた家の近くに走る。
ウォーカーが新しい肉が来たと言わんばかりに向かってきたのを最小限に避けたり切ったりしていく。
たどり着いた家はすでに倒されていた。家の中にあったものがいくつか散らばっているのが確認できた。適当に落ちていた服を数枚掴む。自分もジミーも薄着だったからわずかでも凌げるものを。

そうして物色しながら近寄ってくるウォーカーを処理しながらバイクを見つける。
踏まれたかなにかでミラーが無くなっていたものの、倒されただけでエンジンはついた。サイドケースに入れていた物資も無事だ。
ついでに残っている車がないか確認したものの、他のみんなが乗って行ったのか無くなっていた。

「本当にバイクで戻ってくるなんて」
「戻るって言ったでしょ」

「とにかくここを離れよっか。」
「……あのさ、」
「なに?」

「その、ハーシェル、マギーやベス、パトリシアの…死体はあった?ウォーカーでも、….見た?」
「…パトリシアらしき、ウォーカーなら見たよ」
「…そう。」
「………行こうか」
「うん…奴らハイウェイの方からきたから反対方向に行くことにしよう。」
「わかった。道、教えて。」
「うん…」

彼らはもう、後ろを振り返らなかった。