命からがら逃げてきたリックは、「後を追う」と言って闇に消えたナマエの姿を探した。
背後にいたはずの、不気味なマスクの影も今はどこにもない。
迫り来る黒々とした影から逃げるためにハーシェルを引きずるように車へ乗せ、カールの無事を確認して走らせた車の行き先はハイウェイだった。
血まみれのトラックの荷台には何も載っていない。揺れる車内で金切り声をあげるカールになんとか落ち着くように伝える。
先に逃げているはずの他のメンバーの行き先も知らない。このまま離れ離れになるかもしれない恐怖心は、父親の顔の裏に隠した。
ローリは。ダリル、キャロル、Tドッグやグレン、アンドレア。ハーシェルの娘であるマギーにベス、パトリシア。ジミー、そしてナマエ。
グループのみんなの顔がチラつく中、ハイウェイに到着する。そこにいるはずだと告げた彼らのシルエットなど微塵もない。
カールはもう一度声をあげた。
「リック、ここは安全じゃない。アンタはこの子を守らなければならない」
「わかってる」
「パパ!!」「カール静かにしろ」「でも!」
「わかってる…!」
みんなはどこへ?俺たちはどこへ向かえばいい?ここに残ったって死ぬだけだ。
あの群れはここに到達するか?カールを守らなければ。ローリはどうする。
みんなを探さないと。ナマエは。
ぐるぐるぐるぐる。思考が渦を巻くように流れていく。
一体のウォーカーが歩いてくるまでそれは続き、弾の無駄を省くためにもやり過ごす。
時間もない。暗くなる前に移動してとにかく夜を過ごせる場所を探さなくてはならない。それにはここを離れる意思を、カールが理解しなければ。
「カール…」
「いやだ!ぼくの、ママなんだ…!パパ…!」
「………」
そこへ、低い地響きのようなそれがこだまするように鳴っていることにリック、カール、そしてハーシェルが順に気づく。
ブルンブルン、吹かされたエンジン音ーー車道を走るタイヤの音。
「あぁ…!」
「ママ!」「カール……!」
「パパ!」「無事でよかった……!」
ダリル、キャロル。そしてTドッグ、ローリとベス。グレンとマギーがそれぞれ車から飛び降りるように出てくる。
カールはそれに気がつくと飛びつくようにローリの体に抱きついていた。
よかった、本当にーーー。
「アンドレアは…?」
「倒れるところを見たわ」
それにはキャロルが端的に告げた。
「パトリシアは?」
ハーシェルの問いにはベスが涙ながらに答えた。
「…ダメだった。手を掴んでたのよ…!」
「だれか、ジミーを見た?」
ベスとマギーは、従兄弟の存在を探した。
それに答えたのはリックだった。
「…ナマエといるはずだ」
「そのナマエはどこ?」
「俺とカールを助けに来てくれたジミーを連れて別の方向から逃げると、………後で合流すると言われたが…ウォーカーが、あちこちに……」
ローリがナマエを探すがその姿はどこにもない。
リックの声にそれぞれが絶望に満ちた表情で彼を見つめた。
「そんな…」
「探しにいく」
「…無茶だ」
「……」
「少なくとも、逃げられてはいるはずだ。ウォーカーのいない森の方に向かっていったから」
ダリルがもう一度バイクに跨るのをリックは制止した。
「………先へ、進もう」
「………」
「今は、…信じるんだ」
ダリルの眼差しがリックに突き刺さる。
"前と同じだ"と。
ソフィアの件で彼女が離れた時と同じように。信じるなんて言葉で言いくるめられた気がした。
ナマエもジミーも、アンドレアも、生きていると信じたい。信じて。
リックの、心苦しさを物語る眉間の皺に、ダリルは何も言えなかった。ただ、先へ進むしかなかった。
→