ジミーとの生活は案外うまくいった。
二人きりという状況に、これまで農場でのんびりしていた自分を自覚し、「このままでは生きていけない」とすぐに悟ったようだ。

特に喧嘩もなければ、大きなトラブルもない。
生活が安定してくると、ナマエたちは別々の行動をとるようになった。
ナマエは探索と物資の調達へ。ジミーは狩猟や、山小屋の周辺の整備。
ルーティンも自然と出来上がり、必要な連携は声をかけずとも分かるようになっていた。

食事は、どちらかが作れる方が作る。
ナマエは栄養バランスと調理効率を重視していた。最初はジミーも黙ってそれを食べていたけれど、ある日を境に「自分で作ってもいい?」と言ってきた。

「なんでもいいけど、マズかったら怒る」
「俺だって食うんだよ」

そんなやりとりを経て、彼が作ったのは缶詰を使ったシチューだった。
ナマエは黙々と柔らかいじゃがいもを噛み潰してはスプーンを口に運ぶ。そのうちに完食すると、なぜかジミーは「やった」と喜んでいた。

「美味しかった?」
「まあ、缶詰で悪くできる方が変じゃない?」
「……だよな」

目を伏せて笑ったジミーに、ナマエも肩をすくめて笑った。
他人に対してそんなふうに表情を崩したのは、彼らと離れて初めてだった。




そうして何日も何週間も何ヶ月も、お互いを守り、教え、進み続けた。

出会った頃とは比べ物にならないほど頑強とした体つきと、外でのサバイバルを身につけたジミーは今では教える立場になった。
色んなところを転々としていると新たな出会いも当然あって、二人はグループを率いることにもなった。

せいぜい20人程度のキャンプにしかならないものの、小さな郊外の街にみんなで住むようになり半年。いつのまにか、空気が暖かくなっていっている。そろそろ春なのだろう。


「ナマエ、あっちにウォーカー溜まってた」
「…見てくる。いつも通りにしといて」
「わかった。ついでに罠のほうも確認して欲しいんだけど…いい?」
「はいはい」

キノコ採りに出ていたアンナが戻り、その報告に渋い顔をした。

実際に向かってみた方向には確かに5〜6体が突っ立っていたり木々に寄りかかるような姿勢のままなのを発見する。

遠目からナイフを三本投げ、それぞれを仕留める。
残ったウォーカーが動き出す前に太刀で薙ぎ払うと、顔がボトボトと音を立てて落ちた。
突き刺さったナイフを回収し、辺りを見渡す。
だが、そこにあるのは静かな山林だけだった。


罠にかかっていたウサギとリスを締めてから拠点の家に戻ると出迎えてくれたルイスとセシリアに獲物を渡し、武器の手入れをしてから休むことにする。

「あっちでもウォーカーがいたみたい」
「そう、誰が行ったの?」
「ジミーだよ」
「ふうん。私ちょっと休むから、なんかあったら起こして」
「わかった!」


各人が住まう家のドアには罠を仕掛けているし、家の周りにもワイヤーで音が鳴る仕掛けもしている。
交代での見張りや、少しずつ集めた資材で小さな円を描くように壁も建てた。まだ強度は不安なものの、何もないよりマシだった。
まだティーンの二人はナイフに慣れたばかり。銃は撃てないためにこうして家のことやその他の仕事を任されている。笑顔で見送られ、背中に視線が集中するのを無視して部屋に向かう。

マスクをベッドに投げる。
半年経った今も、マスクは外していない。
ジミーには顔を見せているが、他のメンバーにはそうしていない。
見せたいわけではないし、出会った当初と比べて信頼は得ているものの、それでも見せる気はなかった。

もちろん、最初は警戒して誰一人として話しかけてこなかった。ナマエの代わりにジミーが話すことが多く、頼られて嬉しかったとはにかみながら言っていたのを思い出す。




カランカランカラン!!

軽やかな缶詰のアラームが夜の闇に響く。眠ってからかなり経っていることに驚いた。
まるでアラームのその音は辺りに響き渡っている。
マスクを被りホルスターにしまったグロッグと立てかけた手入れ済みの太刀を鷲掴んで走る。

「どこ、何事?」

「わかんない!」
「鳴ったのはおそらく東側だ」

「ペイジがいない!」
「アランも!」

広場に集まったメンバーのうち、いないのは二人だ。二人は、二十代前半のカップルだった。
それぞれが見ていないと首を振る中、「少し前に見張り交代で二人がポイントDに向かっていくのを見た」というのをルイスが話すと、お互いに顔を見合わせる。


「ナマエ、俺あっち側から行く!」
ジミーを見つめ、頷く。
「なら私は南側から。他のみんなは警戒しながら逃げる準備して。
もし私もジミーも戻らなければ第2道路を通ってセーフハウスAに向かうように」

「…っ!わかった!」
「…くっ…仕方ないよな…。みんな行くぞ!」

ユージーンとミランダの夫婦が頷くと、それぞれが走り出すのを背にしながら向かう。


低い木と原っぱが続くと、少し奥まったところにある古屋を見つける。すでに探索済みのそこは、グループ内にいるティーンたちがよく遊び場にしていた。木々に囲まれたそこにはユージーン手製のブランコがゆらゆらと揺れていた。椅子の部分には血と肉がついている。
カサカサと落ち葉の音がすると反対側から来ていたジミーが立っている。目が合うと、首を横に振って二人がいないことを示した。

「裏口から入ってきて」
「了解」

短いやり取りの後、半身半歩になりながらライトで照らしつつ進む。ティーンの子供が遊んでいたこともあって小屋の中は色んなものが落ちたままだった。どこからか拾ってきたぬいぐるみ、音のならなくなった小さなキーボード、コミック、カラフルなクレヨンーーーー壁には血の痕。


「…ハァ」

二人は死んでいた。

「……残念だ」「うん」

正確なことはわからないが、噛まれた二人と処理した一人の部外者のウォーカーが床に並ぶ。
ジミーが見つけた二人は手や首、足を食べられていた。ナマエが見つけたウォーカーの口には真新しい血と肉がついている。
埋葬のためにペイジを、ジミーがアランを担ぐ。倒したウォーカーは一旦放置することにした。


それぞれを抱きかかえながら、家に戻る。
しかしそこには出迎えてくれるはずのメンバーはおらず、さっきまで立っていた見張りもいない。

「逃げる準備しとけって言ったからかな」
「…どこに集まるか伝えた?」
「セーフハウスAに。第2通ってって。でも戻らなかったらって言った」

二人の遺体を一旦地面に横たわらせ、家に向かいながらライトで辺りを照らす。
急いで荷物を詰めた感じなのは指示した通りだ。

「……不測の事態と考えるべきかな」
「だな」

万が一の時のバスが無くなっている。
そこに続いた家の外壁に血がついている。誰かが噛まれたのか襲われたのか。銃痕も残っていないし銃声すら聞いてない。しかし噛まれたにすれば処理できないにしろウォーカーが彷徨っているはずなのにそんな様子もない。
顔を見合わせながら頷き、ナマエは連れてきたものの埋葬できないでいた二人分の墓穴を掘った。
ジミーは各家に残った数少ない物資を集め、銃や弾も集めてトラックに載せた。
ジミーはピックアップトラック。ナマエはバイクに跨り指示した家に向かうことにした。


ポイント2を通ってセーフハウスAへ。
向かう途中の道路には緊急時のための大型バスが血まみれで放置されていた。
中に乗ってたはずのミランダとユージーン、アンナ、ルイス、セシリア、他合わせて15人の姿はない。備蓄していた物資も見当たらない。

そばには真新しい血と空の薬莢。

「………」「くそ……。ハァ…この場合はどうする?」

「…とにかく一旦セーフハウスに向かってみよう。ダメなら他のところも当たる」
「……バスのガソリン給油するよ」
「わかった」





結局向かったセーフハウスAには誰もおらず、道中にもそれらしい姿はなかった。

「どこに行ったんだろう…」
「さあ。明日になったら他のところも回ろう」
「……それでもいなかったら?」
「…………その時は別の住めるところを探す」

「ナマエ、なんでそんなに早く切り替えられる?」
「…何が言いたい?」

物言いたげな眼差し。それは非難にも似ている。
ナマエの口ぶりに腹を立てているのかジミーは持っていたスプーンを投げた。

「仲間がいないんだぞ!?半年も一緒にいて!子供だっていたんだ!アンナやルイス!セシリアだって!」 
「仲良くしてたろ!?毎日会ってナイフの使い方もきのこの選び方も!
森の中の歩き方ひとつ教えてた相手だ!なんで冷静でいられる!!」


つまりは冷たいということだろう。まるで情などないのかと。
しかしナマエにとってそれは自分を守るための線引きだ。だからといってそれを言語化し伝えるつもりもない。

ジミーの責める声を聞きながらも、ナマエは返す言葉など無いように口を開くことはなかった。